2012年6月

2012/05/31

 聖書は、人間も動物も結局は、死という結末を迎える《いのち》であり、さらにすべては土の「塵」から創られ、そこに返って行く《いのち》であるという点において、全く対等であり、平等なのだとはっきり書いています。このことを、生命の歴史を辿ることによって、裏付けてみましょう。

 約38億年前に地球上の灼熱、猛毒の極限下だった太古の海から、地球の全ての生物の出発点となる一種の原始生命体が誕生しました。われわれ人間もその生命体の子孫の一種に過ぎません。現在、地球上には3000万種を超える動物、50万種の植物、8万種の菌類など実に多様な生命が、共生・共存しています。しかし今日、この生物の多様性が急速に損なわれつつあります。人間がこの地球に生存し続けるためには、強い生物だけではなく、多様な生物が共生・共存できる環境が必要不可欠です。

 この多様な生命体は形が違っていても、全く同じ仕組みを共有しています。それは細胞です。細胞は生命の最小単位です。人間は細胞が約60兆個集まってできています。

 生物の生活には、生命維持と種族維持の2つの基本的なはたらきがあります。種の生命は種族維持によって無限の存続の可能性を与えられていますが、個々の生命は個性を持った唯一無二の存在であり、死後、再生することのない有限な存在です。

 種の多様性は、約40億年という気の遠くなるような時間を通して、進化と絶滅のドラマを繰り返してでき上がったものです。単細胞生物から多細胞生物への進化、さらに魚類-両生類-爬虫類-哺乳類-原猿-類人猿という生物進化の過程がもたらされました。さらに、その原初的な類人猿が進化して、約400万年前に最初の人類であるオーストラロピテクス(猿人)が現存のチンパンジーなどの類人猿と枝分かれして誕生しました。この原始生命の誕生から人類の誕生までの約40億年の生物進化の歴史は、妊婦さんの「子宮の海」の中で個体の発生として約280日に凝縮されて再現されます。

 人間は、樹上生活から得た「器用な手」と「高い知性」によって武器や道具、機械などをつくり出し生産能力を飛躍的に高めて、食物連鎖の頂点に立ちました。そのため、人間が自然の子であり、イヌやトンボ、アメーバと同じ地球生物の一員なのだということさえ忘れそうになってしまいました。しかし、1970年代~80年代の地球環境問題の深刻化を契機に人間はそのことに気付き、従来の「自然対人間・社会」という対立の構図から「自然の中の人間・社会=両者の調和」という共生・共存の構図にパラダイム転換を余儀なくされました。

 食料動物、実験動物の命は、人間と対等で、尊くかけがえのない《いのち》です。しかし、人間はこの命をいただくことなしには、自らの命と健康を維持することは不可能です。そのため、《いのち》をいただくことに心より感謝し粗末にしないように心掛けることが必要不可欠です。                                                      (歩)