2017年6月 今月のことばを掲載しました。

2017/06/01

 ゴールデンウィークに、「帰ってきたヒトラー」のDVDを借りて来て見ました。ティムール・ヴェルメシュの小説が、ドイツでベストセラーになって映画化され、日本では2016年に公開されました。その映画の内容について紹介したいと思います。
 アドルフ・ヒトラーが現在のドイツにタイム・スリップしてきました。人々は、彼をヒトラーのそっくり芸人と思い込み、ネット動画で話題となって、テレビに出て人気者となります。ヒトラーは、自分への人気をナチズムへの支持と考えて、再び政界に進出することを考え始めます。ところが、ネオナチは、「ヒトラー」をまねてドイツを冒涜したと憤慨し、彼を襲撃します。皮肉なことに、この事件によって、ヒトラーはネオナチの暴力に立ち向かうヒーローともてはやされ、各党から入党を依頼されます。
 中には、本物だと気がついた人もいます。例えば、ナチスによって家族をガス室に送られて殺害された認知症のユダヤ人老婆は、ヒトラーを本物と感じ取り罵倒を浴びせます。また、テレビ番組制作会社の臨時社員は、終盤、本物のヒトラーだと気がつき周りの人々に必死に訴えますが、錯乱状態とみなされ精神病棟に隔離されます。真実に気づいた者が正気ではないと扱われるこわさを感じました。
 ヒトラーは国を回って、人々の政治に対する不満の声に耳を傾けます。「こどもは貧困、老人は貧困、失業者は多い」「政治家は信用できないので、選挙には行かない」。そこで、ヒトラーは、メルケル首相のような年配の政治家ではなく、強い指導者をたて、責任の所在をはっきりさせるために、その人にもっと権力を与えようと訴えます。また、急増する難民によって迷惑を被っている話、生活が壊されていく不満を聞いて、ドイツ人を大切にすべきだと「民族主義」を主張します(これらは、いきすぎると独裁政治やホロコーストを引き起こすことにもなります)。そのうえ、かみつく犬を突然射殺し、信奉する若者を厳しく訓練して親衛隊をつくろうとするなど、残虐な面も見られます。はじめは極悪非道な人物とは気づかれず、そして、私利私欲のためではなく国家、国民の利益のためになると信念をもって行動して、人々の気持ちをつかむところに、危険が潜んでいると感じました。

 ヒトラーとナチス党は、初期の頃は、表面上合法的に権力を手に入れていきました。1929年世界恐慌によって、景気が悪化し、失業者が増え、社会情勢が不安定になり、政府に対する不満が大きくなっていきました。そのような社会的混乱に乗じて、国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス党)は国民の支持を得て、1932年の議会選挙の結果、第1党となり、翌年、ヒトラー内閣が発足しました。しかし、その後は、ヒトラー崇拝、独裁政治へと加速的に進んでいったのです。
 最近、国際情勢、各国の社会情勢が不安定になってきています。改めて、人権尊重、平和、法の支配の重要性を認識し、異なる意見にも耳を傾け、真実を見る目を養いたいと思います。
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