2013年1月 今月のことばを掲載しました。
群馬県高崎の榛名山の麓にある新生会の高齢者施設では、本学のワークキャンプが毎年行われてきました。昨年9月には第20回目を迎え、それを記念して感謝コンサートが行われました。学外での学びの場として、貴重な体験の機会を長年支え続けていただいた原慶子理事長をはじめとする新生会の方々に対して、本学が心から感謝の気持ちを伝えたひとときであったと思います。そのコンサートのプログラム曲のひとつに懐かしい日本の歌「シャボン玉」がありました。知らない人はないほど有名なこの曲は、野口雨情作詞・中山晋平作曲の童謡です。この機会にと思って少し調べてみて驚いたのは、「シャボン玉」のメロディーがある讃美歌に似ているということです。なるほど演奏してみると曲の途中の「壊れて消えた」の旋律は、讃美歌21の484番にそっくりのところがあります。讃美歌484番は、日本に入ってきた最も古い讃美歌「主われを愛すJesus Loves Me」(William B. Bradbury作曲、Anna B. Warner 詞)であり、「シャボン玉」はそれを改変して作られたとも言われているようです。作曲者である中山晋平と同時代に活躍し、しかも交友のあった山田耕筰がクリスチャンであったことを考えるとうなずけるような気もします。童謡として1923年(大正12年)に中山晋平の譜面集「童謡小曲」の中に発表されていますが、詞自体が野口雨情によって最初に作られたのはそれより少し前です。その「シャボン玉」の歌詞の背景には、雨情の悲しい思いがあるとも言われています。つまり、生後間もなく亡くなった雨情の長女への思いが色濃く表現されていると考えられています。そう思ってシャボン玉の歌詞を見ると、雨情の一連の作品の中にも共通してみられる「失われていくものに対する切ない思いや悲しみ」が伝わってくるようです。もうひとつの興味深いプログラム曲となったのは、「アロハ・オエ」です。コンサートに来ていただいた新生会の施設入居者のひとりで元牧師の方から、その日に演奏したアロハ・オエは聖歌のひとつ(聖歌621番)になっていると教えていただきました。ハワイの歌として知られるアロハ・オエAloha‘Oeは、ハワイ王国第8代の女王であり、最後のハワイ王でもあったリリウオカラニが1878年に作曲したもので、世界中で広く親しまれています。ハワイ王国の滅亡が目前となった当時の女王の心情を歌にしたものとされ、「失われてゆく祖国への悲哀と別れ」を訴えたこの曲は、世界中で多くの人々に感銘与えました。その後、アロハ・オエは、イエス・キリストの再臨による世界平和の回復を願う聖歌「汚れと争いは」という曲としても知られるようになりました。わたしたちが目を注ぐ見えないものには、楽しいことも、悲しみも含まれているでしょう。「生後間もなく目の前から消えた長女」、「消えようとしている祖国」、それぞれに対する思いを永遠に残したい、忘れたくない、そんな心情を秘めた素晴らしい曲であることをワークキャンプ参加によって知ることができたことに感謝します。将来、被災地が復興して変貌を遂げた時にも、忘れえぬ悲しみは大切に残しておきたいものです。
(R)