記念対談 女子写真の潜在力

SEITOフォトコンの可能性

※掲載情報は2013年5月13日時のものとなります。

二〇一一年度「ある日、」

森:
二〇一一年、この年は東日本大震災後の作品なので、影響があるかもしれないと想いつつ、注目していたコンテストでした。
最優秀賞は柳瀬安里さんの『17歳、ある日のわたし』。非常にストレートな友だちのポートレイトです。友人を撮るというのは、これまでにもたくさんあったのですが、こういう形でややシリアスな、精神的な奥行や心のひだのようなものを感じさせる表現というのは、初めてだったような気がしました。
綾:
笑っているという感じではない表情ですものね。
3・11の大震災があり、普段の日々を送っているのとは違う、さまざまな想いを抱かずにはいられない一年でした。そういう意味で表現の幅がこの年は広いなと思いました。人間はいろんな表情をしますけども、それをどう捉えるか、あるいは撮ったものの中から何を選ぶかというのを考えたときに、この方が友だちの何とも言語化しにくいような、不思議な、憂いを持ったような、怒っているのか、何を思っておられるのかはっきり捉えられない、けれども複雑な思いがそこに表れているポートレイトを出してこられたのは象徴的だなと思います。
長年連れ添ったご夫婦の写真、河野友里さんの『今日も 明日も 明後日も』。おじいちゃんとおばあちゃんだろうと思うんですけども、この写真もすごく印象的で。
森:
いいですよね。この微妙な距離感。
綾:
お二人がソファに並んで座っておられますけど、おばあちゃんは椅子の部分に座り、おじいちゃんは横の肘掛けのところに座っておられて。横にはいるけれども違う方向を見て、全く違うことをしている。それと家の感じが、お二人が長年そこで暮らしてきたであろう部屋の様子がちゃんと捉えられ、高校生が撮影したとは思えない奥行のある写真。
森:
これまでもおじいちゃん、おばあちゃんを撮ったものはかなり多かった。でもそれは、いかにも孫が大好きな、典型的なおじいちゃんだったり、おばあちゃんだったりした。それとは決定的に違いますよね。夫婦として長く寄り添ってきた親密な距離感と、相容れない距離感。二つの距離感の共存が、二人の座り位置や視線から伝わってきます。とても秀逸な作品だなと。しかし女子高生らしいとは言い難い作品ですね。
綾:
いや、もう年配の方が撮られたのかなと思うような、年輪を感じさせる表現です。
その他、猫が登場している今井理咲子さんの写真『昼下がり』や長谷川奈月さんの『寄り添う』など、女子高生のオヤジ感覚というのが随所に表れて、この年は不思議な感じがします。
森:
幸喜ひかりさんの『見守る中で』という作品。沖縄の子どもたちでしょうか。思い切って川に飛び込む子どもと、その子を見守る子どもたちの表情がよい。ごつごつした岩とわらべの配置が、古い中国や日本の山水画を彷彿とさせます。
綾:
そうかもしれないですね。本当に楽しそうな夏休みという部分と、色合いや自然感というのが日本的な縦構図というところがあると思います。あとは中島理紗さんの『午前11時』という、ご自身の家の台所を撮られたもの。ちょっと時代がわからないような、これも不思議ですね。
森:
小津安二郎の『東京物語』で、老夫婦が長男の家に到着する前に、嫁が掃除をしているシーンを思い出しました。彼女たちの日常に、小津の描いた女性に通じる、普遍的な美をとらえているのかもしれません。いつもの生活の一断片なんですけど、でも美しい。
綾:
日常の中にある美しさというか、一番捉えたくても捉えにくい部分というのを捉えている。
森:
改めて見ると、この年は豊作という気がします。
綾:
最後に髙木瞳さんの『きょうだい』っていう写真。子どもの肌の柔らかい感じというのが伝わってくる。本当にきれいに三人がフレーミングされて入っていて、撮れそうで撮れない。ここまで近寄るのが結構難しいと思うんですけど、それをさっと撮ってこられている感じもある。表情も硬くなく、いい感じですし、これも得がたい一枚だなと思います。
森:
触りたくなりますよね(笑)。

二〇一二年度「・・・の瞬間(とき)」

森:
そして今年度。「・・・の瞬間(とき)」というテーマでした。
綾:
最優秀賞は串原愛さんの『あたしたちの夏』、これも本当にテーマにぴったりの、学校で友だちを撮られている写真ですね。水遊びをしているのか、あるいは掃除をしている途中なのか、分からないですけども。制服で二人がはしゃいでいる感じというのが、光や表情、動きの捉え方と、あと水とグリーンがバランスよく入っていて、高校生活の楽しさが伝わってくる、いい写真だと思います。
森:
僕がこの写真で気に入っているのは水しぶきです。特に足もとの水しぶきの素晴らしさ、これは偶然かもしれないですけど、やっぱりすごい。
綾:
本当に粒が一個一個見えるような。
森:
映画を発明したリュミエール兄弟が撮った写真の中に、水やジャンプの表現が多くあります。バケツの水を撒くとか、椅子からジャンプするとか。それを思い出しました。やはり写真にとって、水はものすごく相性のよいテーマだという気がしました。
加えてすごく喜んでいる無邪気さというのも相まって、心地よい時間ですね。
綾:
楽しい高校生活を一部シェアしてくれたような感じがして、見る方が楽しくなりますし、ちょっとホッとするというか。
あとは友だちを撮った写真が続いています。ちょっと変わったところではセルフポートレイトが入っていて。
森:
五年間の中で、セルフポートレイトと呼ぶにふさわしい作品はなかったように思います。しかし今回、セルフポートレイトの秀作が出たなと思ったのが、この谷上みづきさんの『煌めく少女のその先は』という作品でした。
綾:
作者の方が持っている存在感みたいなものが出ていますね。若い女性写真家が写真を撮る中で、セルフポートレイトってキーになる写真群だと思います。それにつながるような初々しさもあって。自分を撮るというのは、恥ずかしい部分もあると思いますし、撮ることで自分の見せたくない部分とか、見たくない部分が見えたり、いろんなことが思いがけずに表れたりすると思うので。そういう部分も入っている。
森:
自分の外で繰り広げられる出来事だけではなく、自分の内面を見直すという意味で、こういうセルフポートレイト作品がもう少しあっていいのではないかと思います。
綾:
年齢的なことを考えると、実は自分のことっていうのが一番気になっていて、でも図りかねるっていうところがあると思います。そのとき写真というのは、すごく面白い、有効な機会でもあるので。もっとコンテストに出てくるといいですね。

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