新しきを、生きる人
着物文化も、職人技も、未来へ守り継ぐ。
「循環」がうみだす、
持続可能な新しい文化のかたち。
株式会社クラフトマンシップ 代表取締役社長
代表取締役社長
リヴィア 清水 夏子(しみず なつこ)

株式会社クラフトマンシップ 代表取締役社長
リヴィア 清水 夏子(しみず なつこ)
2008年3月 卒業
「本物は、あと数年でいなくなる」
職人の一言が、私の人生を動かした。
親や祖父母から受け継いだ着物。こどもが七五三や成人式で袖を通した晴れ着。捨てることはできないけれど、着る機会もない。そんな大切な着物をお客様からお預かりし、適切に保管しながら、必要とする人へつないでいくシェアリング(貸出)サービスを運営しているのが、私が2021年に創業した「株式会社クラフトマンシップ」です。社名のクラフトマンシップには、「匠の技」という意味があり、創業のきっかけや想いが込められています。
コロナ禍以前、東京にある着付け教室で着付師として働いていた頃のこと。「どうしてこの模様が生まれたのだろう」「どんな人が、どんな想いでつくっているのだろう」。そんな好奇心から、職人さんのもとへ足を運ぶようになりました。着物に携わる者として、その歴史や技術を自分自身の目で見て学び、着付け教室の生徒さんにも伝えたいと思っていたのです。大きな転機となったのは、200年以上にわたり、絞り染めの技と歴史を受け継ぐ老舗「京絞り寺田」の親方さんとの出会いでした。
「本物の、素晴らしい仕事をする職⼈はあと数年でいなくなると思う。職⼈が途絶えても、今の私たちが何百年前の技法を再現しようと励んでいるように、何百年後の⼈たちがきっと再現をしてくれる。だからこそ、今できるうちに、未来への資料として可能な限り作品を残しているんだ」。
その言葉に、胸の奥が大きく揺さぶられました。後継者不足によって、何百年も受け継がれてきた技術が静かに失われようとしている現実。それでも親方さんは悲観するのではなく、未来を信じ、一つひとつの作品に技術と魂を込め続けていました。その姿勢に、私は深く心を動かされたのです。着物は高価なものという印象を持たれがちですが、その価値を支えているのは、脈々と受け継がれてきた職人の技術です。本当に光を当てるべきなのは、そこなのではないか。その想いから、「クラフトマンシップ・匠の技」を軸に据え、文化と職人技を未来へつなぐ挑戦に踏み出そうと決意しました。
着物を取り巻く〝つまり〟を解消するために。
眠る着物に、新しい役割を。
一朝一夕で後継者不⾜が解消されるわけでも、着物産業が劇的に変わるわけでもありません。それでも、私にできることは何だろうと考えてたどり着いた答えが、「着物と長くお付き合いするためのサポート」でした。きっかけは、着付け教室の生徒さんから寄せられた声です。「着物には興味があるけれど、敷居が高く感じる」「譲り受けた着物をどう整理したらいいか分からない」。着物を楽しみたい人も、手放せずに悩んでいる人も、それぞれ違う悩みを抱えながら、一歩を踏み出せずにいました。その精神的な負担、“つまり”を少しでも解消できれば、着物を取り巻く環境はきっと変わるはず。そう考えていた矢先、ある生徒さんがこんな言葉をかけてくださいました。
「私が着物を使わないあいだ、使ってもいいよ」。その一言に、新しい可能性を感じました。同じように考えている人は、きっと他にもいるのではないか。そうして生まれたのが、着物のシェアリングという発想です。着物の扱い方を学んできた経験を生かし、お客様から大切な着物をお預かりして適切に保管し、必要とする方へお貸しする。そうすれば、着物の整理に悩む人も、着物を楽しみたいけれど最初の一歩を踏み出せない人も、それぞれの悩みを解消できるかもしれない。さらに、遊休資産として眠っている着物に、新しい役割を与えることもできます。そうして私は「日本中の眠っている着物、ゼロに」をミッションに掲げ、「株式会社クラフトマンシップ」を創業。着物の預かり・シェアリングのビジネスをスタートさせました。
一着ずつ、
信頼を預かってきた。
コロナ禍を機に、東京から地元・大分県に戻った私。早速、事業資金を確保するため金融機関へ相談に向かったものの、思うようには進みませんでした。それもそのはず。当時、着物のシェアリングサービスは全国的にも珍しく、文化的な意義は理解してもらえても、「事業として成り立つのか」を示す実績がありません。「まずは実績をつくってから、もう一度相談に来てください」。その言葉に、文化的価値と経済的価値を両立させるビジネスの難しさを実感しました。
着物は、お客様の思い出や家族の歴史が詰まっている大切な一着。信頼関係がすべてであるサービスだからこそ、大きく事業をスタートさせるのではなく、規模は小さくとも、今の自分にできるところから丁寧に始めていこうと考えました。サービス名は「KIMONO CLOSET」。事業所は、自宅の一室。知り合いの方から相談をいただき、一着の着物をお預かりしたところから、クラフトマンシップは歩み始めました。
創業から6年。現在、お預かりしている着物は約1,900点にまで増えました。ご自身のお母様から受け継いだ着物、お子さんの晴れ着、大切な節目を彩ってきた思い出の一着。全国各地のお客様から、さまざまな物語を託していただいています。私たちが創業以来大切にしているのは、着物だけでなく、その思い出ごとお預かりするという姿勢です。そして、シェアした着物を着用されたお客様のお写真は、必ず持ち主の方へお送りしています。すると、「ありがとうございます」「母も喜んでいると思います」。そんな言葉とともに、かつてその着物を身にまとっていた頃の思い出写真を送ってくださる方もいらっしゃいます。一着の着物を介して、人と人、過去と未来がゆるやかにつながっていく。そのあたたかな循環に触れるたび、「少しだけ着物を取り巻く“つまり”を解消するお手伝いができたかな」と、やりがいを感じています。
着物を預かる会社から、
文化を育てる会社へ。
2026年3月。株式会社クラフトマンシップは、新たな一歩を踏み出しました。大分市内の商店街に、新店舗をオープンしたのです。私たちがめざしているのは、ただ着物を保管する場所ではありません。思い出の詰まった着物を手放すことなく、誰かに着てもらうことで再び輝かせる。眠っていた着物が誰かのハレの日を彩り、その一着がまた新しい景色を重ねていくはじまりの場所です。日本には今、約3,000万点もの着物が眠っていると言われています。見方を変えれば、これらは活用されていない膨大な「文化的資産」です。だからこそ、「売る」「捨てる」だけではない、「保管してシェアする」という第3の選択肢を社会に定着させていきたい。文化を循環させ、人から人へ、世代から世代へ受け継いでいく。その拠点となる「リジェネラティブ(再生型)な文化の創造拠点」を育てていくことが、今の私の大きな挑戦です。
商店街という立地を生かし、まち歩きと組み合わせた着物レンタルやコーディネイトプラン、地域と連携した取り組みも広げていきたいと考えを巡らせています。そして新しい循環も、少しずつ生まれています。竹職人・革職人とコラボレーションし、着物をバッグや名刺入れへと生まれ変わらせるファッションブランド「DAI DAI」の展開や、新店舗のテラスで染料の原料となる植物を育てる「衣の畑」の実践。ゆくゆくは、この植物で染めのワークショップをひらき、私たちの手で文化や自然をより豊かな状態へと「再生」させていく未来も思い描いています。
起業も、新事業の展開も。常に産みの苦しみが伴いますが、ゼロから何かを創る過程には、その苦労を超えるやりがいや楽しさがあります。その面白さに気づかせてくれた原点は、同志社女子大学での学生時代にありました。英語英文学科科目として長年の伝統がある「Shakespeare Production」へのチャレンジ。シェイクスピアの戯曲を16世紀当時の英語で演じるというもので、歴史や古典文学が好きな私にとって入学の決め手にもなった一大プロジェクトです。学生が主体となり、悩みながらも自らの手でゼロから作品をつくり上げていく楽しさを知ったあの経験が、今も経営者として新しい挑戦へ踏み出す力に通じています。
ターニングポイント
着物の世界にのめり込む入り口は、身近なところに。
人生が大きく動き出すきっかけは、案外ささやかなところにあるのかもしれません。実は私自身、かつては着物に敷居の高さを感じていた一人でした。着物の世界に足を踏み入れたのは、知り合いに誘われて通い始めた着付け教室がきっかけです。ところが学べば学ぶほど、着物の衣服としての歴史や技術に惹かれ、着物の世界にのめり込んでいった私。一生徒だった私が、社員として講師を務めるようになりました。興味や好奇心に素直でいること。自分が納得するまで探求してみること。その積み重ねが、今につながっているように思います。

My Rule
- 仕事のマイルール
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できる手段は、全部試してみる。それが私の仕事のスタイルです。成功か失敗かは、そのあとについてくるもの。自分にできることを100%やり切れば、必ず次の景色が見えてくると信じています。落ち込んだときも、迷ったときも、背中を押してくれる言葉があります。
「ペーペーのくせに出し惜しみするな。次はないかもしれないんだぞ」 (『のだめカンタービレ』/出版社:講談社/作者:二ノ宮知子)
「ところで平凡な俺よ、下を向いている暇はあるのか」 (『ハイキュー!!』/出版社:集英社/作者:古舘春一)
「得意な時にも得意に驕らず、絶望の淵にのぞんでも滅失に墜ちいらず、そこに動ぜず溺れず、出所進退、悠々たること」 (『三国志』/出版社:潮出版社/作者:横山光輝)
- くらしのマイルール
疲れを癒すためにも、思考の整理のためにも。温泉に浸かる時間を、とても大切にしています。お気に入りの温泉にゆっくり身を委ねていると、不思議と頭の中がすっと整っていくんです。「水に流す」という言葉がありますが、本当にその通りだなあと毎回思います。今日うまくいかなかったことも、考えすぎていたことも、一度お湯に預けてしまう。 そうすると、また明日、新しい気持ちで前に進める気がしています。
わたしにとって、挑戦とは?









