「生きがい」
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「多世代」
人生100年時代
新しい社会の仕組みを
デザインしていきます。
社会システム学科
日下 菜穂子教授
「年を重ねることを喜びに感じられる社会」に。心理学の実践研究です。
年を重ねるたびに人生は豊かになる。加齢は一般にネガティブに捉えられがちですが、実は人間の内面に目を向けると、高齢期に幸福感の高い人は多いのです。この「エイジングパラドクス」と呼ばれる現象は、発達心理学の領域で確認される老いのポジティブな側面です。
臨床心理学を専門とする私は、「年を取ることを喜びに感じられる社会をつくる」をテーマに、人の活動をベースにした新しい社会の仕組みづくりを研究しています。地域の人や企業との連携で、当事者の参加によって加齢を肯定的に捉えられる活動の場をつくり、それを社会に発信する、心理学の実践研究です。
具体的には、多世代が共に学ぶ体験から、新しい自分や未来との出会いにワクワクする「ワンダフル・エイジング」の実践場として、「ワンダフル・エイジング・プロジェクト」を主宰しています。個の「自立」を基本に、他者とつながり支え合う「共生」、喜びの共感で未来を拓く「共創」を実践するプロジェクトです。
プロジェクトには3つの領域があり、1つ目が「生きがい創造プログラム」です。65歳以上のシニアが少人数グループでセッションに参加し、過去の経験について教材を使って振り返るなど、臨床心理学の手法にもとづいて人生の目的や生きがいを考えていきます。
2つ目の領域としては、生きがいを他の人に伝える「ワンダフル大学院」を立ち上げています。「65歳になったらプロフェッサーになろう」をスローガンに、「生きがい創造プログラム」を修了したシニアが、自分の生き方を他の人に伝え、役立ててもらう学校です。本学の社会システム学科の講義科目「プロジェクト演習」とリンクさせ、シニアと学生が協力して講座の企画立案や運営を行っています。
例えば、講座のひとつに地域の小学校のプログラミング教育を支援する出張講義があります。人生経験豊かなシニアとプログラミングが得意な学生が一緒になって子どもたちに学ぶ楽しさを教えており、教育現場からも好評です。
プロジェクトの3つ目の領域が喜びを共創する実社会での活動で、昨年から「シェアダイニング」という事業が始まりました。企業や多大学との共同研究でスーパーマーケットにスペースを設け、顧客が買い物した食材を持ち寄って、一緒に作って食べるプロジェクトです。孤立しがちな高齢者が再び人とつながり、生きる意欲を高め、喜びを感じあう場の実現から、高齢社会の新しい文化を提案するものです。
さらに、多世代をつなぐ道具として、ロボットなどの技術を私たちの暮らしに活かす技術開発の研究に参加しています。どうすれば高齢者が使いやすいか、多世代のコミュニケーションが活性化するかを当事者と考える、心理学の立場からのユーザビリティ評価も行っています。
社会の仕組みや技術の開発は、本来人への理解が基本にあるべきですが、これまでは人ではなくモノが優先されがちでした。しかし最近は、人中心の開発をすべきだという流れに社会も産業界も変化しています。For peopleからBy peopleへ。当事者が主役になる社会を実現するために、人を理解する学問である心理学の果たす役割が一層重要になっており、そうしたニーズに応えられる研究を行っています。
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「社会は変えられる」。手応えのある実践的なゼミの活動です。
私のゼミの学生は、前述の「ワンダフル大学院」の活動に関わり、その実践経験から卒業論文に取り組む人も多数います。例えば、以前はシニアが週1回本学に来られて、学生と同じ場所で学びあっていましたが、コロナウイルス感染症の拡大防止対策により、それが不可能になりました。
ちょうどゼミでは「高齢者のICTの活用と多世代交流の活性化」をテーマに研究していたため、高齢者のICT利用を一気に後押し。学生がスマートフォンの使い方をシニアに教え、定期的にオンラインで対話をするほか、「同じ場所にいるような安らぎを感じよう」と銘打ったオンラインイベントも毎月開催しています。そのイベントは、どんな働きかけで参加者の笑顔が増えるのかを観察し、オンラインの多世代コミュニケーションを心理学的な側面から研究する学生もいます。
こうした活動による学生の成長は、目を見張るものがあります。最初は人生の先輩に気を使っていても、目的を共有して活動するなかで仲間意識が芽生え、チームに貢献するアイデアを出せるようになります。多様な価値観や考え方に触れながら互いの理解を深め、良い面を認め合って協力する、という社会で求められる能力が磨かれていきます。
また、実践のなかで課題を見つけ出す課題発見力を養い、それらの解決にチームで挑むため自分の役割を見いだし、行動する課題解決力を着実に身につけていく姿も見られます。
ある学生は私のゼミを選んだ理由は「自分が変われるよ、と先輩にアドバイスをもらったから」と言います。チャレンジする課題が常に目の前にあり、たとえ失敗しても仲間とともに試行錯誤する中で、成長を実感できるからかもしれません。また、企業や実社会との接点を持つことで、自分たちのアイデアや取り組みを社会に役立てられる可能性の手応えを得て、自分の変化を実感するのだと思います。
学外との連携が活発でタスクも多く、ゼミ活動は多忙です。そこで、3年次生・4年次生が学年を超えて協力することはもちろん、ゼミの卒業生が大学に来てサポートしてくれることもあります。課題設定力と課題解決力を発揮し、それぞれの職場で活躍している卒業生が自分の仕事について熱く話をしてくれることもあります。学生にとっては身近なロールモデルになっているようです。
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80代の卒業生から学ぶ、感謝する心と幸福度の高さ。
さまざまな可能性を持つ学生が、自分の興味の幅を広げていくにあたり、5つのコースから学べるのが本学の社会システム学科の強みです。例えば、私が担当する「ライフデザインコース」を選んでも、他のコースの授業も受けられるため、挑戦できるチャンスは豊富です。
どの授業科目も社会につながっており、プロジェクト型やアクティブラーニングの授業など、実践的な学びで社会とのつながりを経験できるカリキュラムも本学科の特長です。
私たちのプロジェクトに参加している高齢者の中には、同志社女子大学の卒業生もいらっしゃいます。80代になって一層、後輩である学生たちや周囲の人たちへの思いやりにあふれる方が多いのです。キリスト教主義に基づくケアの心を学ぶ本学の学生の穏やかさに通じるものがあり、今あることに感謝して生きる学生の未来の姿と重なります。「思いやり」と「感謝」は、教えられて身につくものではありません。普段の生活での上級生・下級生の支え合いや仲間とのつながりから自然に育まれていくものです。自分とまわりの人を幸せにする、何より大事な力だと思います。
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受験生のみなさんへ
勇気を持ってチャンレジしましょう、仲間と一緒ならきっと大丈夫。そして、そう思える仲間と出会えるのが同志社女子大学です。
チャレンジできるチャンスがあり、失敗してもやり直せる環境があります。
卒業論文テーマ例
- 女子大学生の宗教観と主観的幸福感の関係
- 大学生のInstagram活用と承認欲求・自己愛の関係性
- 女子大学生の情報探索行動と性格の関係性
- 女子大学生の甘えと自己受容の関係性
- 創造的活動を通した学びが多世代の生きる力に及ぼす影響
- 共食空間における高齢者の行動観察
- 男子大学生における化粧行動としてのメーキャップがもたらす感情状態に関する研究
- 女子大学生におけるInstagramの利用と自己隠蔽の関係
- キャリアの意思決定におけるソーシャルサポートと満足感
- 女子大学生のポジティブ・ネガティブ感情と癒しカラーの関係
- 女子大学生の趣味活動への没頭と主観的幸福感・ストレス感の関係
- ワークショップにおける座席行動と自己効力感、自尊感情との関連性
- 大学生における出生順位が性格特性に及ぼす影響
- アクティブラーニング環境における自己効力感と動機づけの関連性
- 自己開示の深さと友人関係満足度及び深さの関連性について
- 女子大学生の自己肯定感と対人関係の関連性
- 初対面の3者間会話場面におけるノンバーバルコミュニケーションが 印象
- 行動評価及び会話満足度に及ぼす影響と社会的スキルとの関係性について