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教員が語る同志社女子大学の学び

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「北米社会」
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「文化」

ひとつの国を形成するための
政治のしくみ、文化について
アメリカとカナダの比較から探ります。

英語英文学科

鈴木 健司教授

文化や社会の様子は、それを作り出す人々の
価値観を映し出しています。

多民族国家であり多元国家であるアメリカ合衆国とカナダ——そこでは異なる背景を持つ人たちがどのように共存して、ひとつの国を作り上げているのだろうか。これが私の研究の出発点となる問いでした。

法学部で学んだ学生時代、時間をかけて取り組んだのは英語学習でした。そして次第に英語という言語だけではなく、英語を使っている人々の社会、なかでもアメリカとカナダについて興味を持つようになりました。英語への関心と社会科学への関心が結びついて「地域研究」の分野で大学院に進み、そこで研究課題としたのは、連邦制を中心とする政治制度の比較です。アメリカもカナダも連邦国家で、国だけでなく各州にも政府がありますが、両国の政治の形には大きな違いがあります。

アメリカもカナダも北米大陸にあり、多くの移民がやってきて現在のような国家となりました。共通点も多い両国ですが、国として成立するまでの歴史は対照的です。植民地時代に国王や政府の権力に苦しめられたアメリカの人々は、革命を起こして独立し、政府が強くなりすぎないような新しい政治制度を作り出しました。一方、イギリスとの良好な関係を保っていたカナダは、安定した政府を好み、独立後も伝統的な議会制度を継承しました。

このような違いを生み出すのは、「自分たちの社会をこのように構築したい」というそれぞれの国民の価値観です。それは政治や法律のような現実社会に関わることばかりでなく、文化のさまざまな面に見ることができます。私は英語英文学科の教員になって、文学など人々の創り出した「文化」が、彼らの考え方を理解するうえでいかに大切であるかを実感するようになりました。

現在の研究課題のひとつは、19世紀末から20世紀初頭にかけてのアメリカのナショナリズム、つまり国民として一つにまとまろうとする思想とそこから生じる事柄に関するものです。この時代のアメリカは、イギリスから独立して100年以上経って、経済的にも成長を遂げていましたが、文化的には未成熟と思われていました。また、言語・宗教・生活習慣などの異なる移民が世界各国から押し寄せるなか、アメリカは多民族の寄せ集めではなく文化的に一体であり続けようとしました。こうして、アメリカ人がひとつの国民として独自の文化を持っていることの証しが求められるようになっていきます。

このことを生涯にわたって追求したのが、第26代大統領セオドア・ローズヴェルトです。彼は義勇軍を率いてアメリカ=スペイン戦争に参加するなど行動的な一方で、歴史家として多くの著書を残すなど文人としての素養もあって、多才な人でした。ちなみに「テディ・ベア」は、セオドア・ローズヴェルトが趣味の狩猟に出かけた際に子熊を撃たなかったという話が広まって、彼の愛称「テディ」から名付けられたものです。

大統領として外交や内政で大きな実績を上げたローズヴェルトですが、アメリカへの強い誇りと愛国心をもって、自国の文学や文化を振興させることに熱心でした。あまり注目されませんが、「綴り字改革」もその延長上にあるもので、英語の不規則な綴りをやめて発音と一致する簡単な綴りを用いることを、ホワイトハウスから進めようとしました。反対が大きく定着はしませんでしたが、英語文化へのアメリカの貢献を主張しようとするという彼の思想を反映していて興味深い出来事です。

このようなローズヴェルトの仕事の文化的側面を含め、アメリカの人々を一つにまとめようとする力が働くなかで国民的な文化が創り出される過程に注目しています。

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ゼミでは自分自身の問題意識に基づいて、
英語を通して研究を進めます。

英語圏の人々の文化の多くは英語を使って作り出され、彼らの社会は英語を使って動いています。ですから、それに関わる事柄を研究するには、英語を通してみることが不可欠です。英語英文学科の私たちにとって、英語とは単なる情報伝達のための手段ではなく、専門的な学びの内容や研究対象に直接関わるものなのです。

私のゼミでは、アメリカ、カナダの文化や社会のあり方を通して、それぞれの国に固有の価値観について探究しています。アメリカとカナダの歴史と現代社会の様子について基礎的なことを学んだうえで、自分自身が関心のあるトピックについて研究課題を設定し、研究を進めます。研究テーマは、人種差別、ジェンダー、言語政策、多文化教育など社会的な事柄に関心をもって研究する学生もいれば、音楽、映画、食、スポーツ、ファッションといった身近な文化を取り上げて研究する学生もいます。

そこで大事なのは、批判的な目をもって物事を見ることです。読んだことや聞いたことをそのまま信じてしまうのではなく、「本当にそうなのだろうか」と疑問をもって自分自身で調査し、事実を確かめていく。これはただ知識を増やすこととは全く違った作業です。英語圏の国々や人々に関する事柄について、自分ならではの発見や見解を示すためには、日本語で誰かがまとめてくれた情報に頼るのではなく、英語が必要になります。

グローバル化が進む今の時代、英語運用能力を高めるための勉強は、学部や学科にかかわらず多くの学生がしています。良い自習教材もたくさんありますし、独力でもかなりのことができるでしょう。けれども、英語を単なるコミュニケーションの手段と割り切ってしまうのでなく、英語という言語そのものや、英語を使っている人々の社会や文化について探求することによって、自分の世界が大きく広がります。

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個性・能力を伸ばし、それぞれを認め合う空気に
包まれたキャンパスです。

英語英文学科は英語の学びを中心としていますが、それを学生生活の中でどのように生かすかは人それぞれです。英語スキルを磨いてTOEICで高得点を目指す、シェイクスピア劇の原語上演に参加する、教職課程に挑戦する、留学する、卒業論文に全力を注ぐなど、活躍の場はさまざまです。英語力がとても高い人も、それほどではない人も、一人ひとりが目標に向かって努力を重ねており、それを認め合う穏やかな空気がキャンパスに流れています。誰もが自分に合った形で個性や能力を生かして成長できる学科です。

大きな大学では、学部や学科が違えば別の世界のように感じられたりするものです。同志社女子大学は高い専門性を持った総合大学ですが、全体が一つの大学であるという考え方を大事にしています。専門分野の異なる学生たちが学部やキャンパスを超えて参加できる行事も多く、さまざまな学生と交流する機会が多いのが本学の魅力のひとつです。英語英文学科の学生には、同じ大学で学ぶ仲間からよい刺激を受けながら学んでほしいと願っています。

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受験生のみなさんへ

「自分はこれが好き」と思える何かをみつけてください。何事も、真剣に取り組んでいると思いがけない方向に関心が発展していくものです。そこから人とのつながりが生まれ、違った視点から考える機会ができて、将来の目標になるかもしれません。大学はそのような経験ができる最良の場所です。

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鈴木 健司教授

表象文化学部 英語英文学科 [ 研究テーマ ] 北米におけるナショナリズムと国民文化の創成

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研究者データベース

卒業論文一覧

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卒業論文テーマ例

  • アメリカにおける日本食の普及と発展—エスニックグループによる事情の相違を中心に—
  • カナダのアイスホッケーからみる民族性—カナダにおける黒人の現状—
  • ポピュラーカルチャーとしてのグラフィティ—犯罪からアートへ—
  • NCLB法から見る教育格差へのアプローチ
  • オレゴン州ポートランド市のハンドクラフト文化形成の経緯
  • マリリン・モンローに見るピューリタニズム文化の変化と復興
  • アメリカにおけるスタジオジブリの受容と文化変容
  • カナダへの移民の雇用と就職—カナダの人口の変化から—
  • ディズニーカンパニーとブロードウェイ—ミュージカル復興への影響—
  • ロサンゼルスにおける日本文化受容—二世ウィークを中心に—
  • 1960年代の「対抗文化」におけるロック音楽とオーガニック食の関係
  • カナディアンウィスキーを通してみる加米関係の変遷—禁酒法時代を中心に—
  • アメリカの茶道からみる日本文化の継承について
  • 多文化社会における移民2世のアイデンティティ形成—『ジョイ・ラック・クラブ』から—
  • VOGUEのアメリカ女性像によるウーマン・リブ運動への影響
  • 都市再生への軌跡—ピッツバーグ市を例にみて—
  • アメリカの刺青文化からみる家族の価値観
  • バンクーバー朝日からみる日系カナダ移民
  • 現代アメリカ食文化に見る自然観の復活
  • カナダ国旗の変遷—メープルリーフになるまで—