「罪」
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「刑罰」
正解がわからない社会問題。
だからこそ現実を検証し
考え続けます。
社会システム学科
谷 直之教授
刑法と刑事訴訟法、犯罪抑止を目指した刑事政策も研究分野です。
私の専門分野は「刑法」と「刑事訴訟法」、「刑事政策」です。私たちの日常を守る法律のうち、社会の中でどのような行いが犯罪になり、その犯罪に対してどのような刑罰を科すのかを定めている法律が「刑法」です。また、「犯罪者は処罰したらいい」と思いがちですが、人権に配慮するため、間違いのないように適切に捜査や裁判をする必要があります。こうした刑罰を決めるまでの手続を定めたルールブックが「刑事訴訟法」です。
刑罰といえば懲役刑、つまり刑務所での厳しい生活を思い浮かべる人も多いかと思いますが、ここで、読者のみなさんにお尋ねします。法務省がまとめた『犯罪白書』(令和7年版)によると、令和6年に警察等に検挙された人の数がおよそ86万人いるそうです。そのうち何人が実際に刑務所に入ったと思われますか?
答えは約1万5千人、検挙された人のわずか1.7%です。犯罪者のごく一部しか刑務所には入りません。さらにいえば、検察に送検された約78万人のうち起訴されたのは 24万人ほど、すなわち50万人弱が不起訴で終わっています。「犯罪者はみな処罰される」と思いがちですが、実際はほとんどが不起訴であり、裁判にすら至っていません。
これは、刑務所に収監するだけですべてが解決するわけではなく、元受刑者ということで、かえって社会復帰が困難になり、出所後に再び罪を犯してしまうこともあるからです。しかも受刑者の刑務所での生活には税金が使われます。「本当にこの人を刑務所に入れる意味があるのか」という判断が必要なことが、不起訴の多い理由のひとつです。
2025年6月1日の法改正により、刑務所内の処遇が大きく変わりました。以前は懲役刑と禁錮刑の2つの刑罰があり、より重い懲役刑には、刑務所の中で仕事をする作業義務が付いていました。しかし、法務省の管理のもと「残業なし、完全週休2日」という作業環境を聞けば、「果たして罰なのか」と疑問を抱く人もいるのではないでしょうか。しかも、法改正により懲役刑と禁錮刑が「拘禁刑」に一本化され、刑務作業が絶対の義務ではなくなりました。再犯状況の悪化や受刑者の高齢化問題などに鑑みて、受刑者の社会復帰を重視して「場合によっては仕事はしなくてもよい」ことになったのです。
刑罰の本質についての考え方は、大きくは2つあります。1つは、悪いことをしたから痛い目に合うのは当然であり、刑罰による苦痛は正義だという考え方です。もう1つは、二度と間違いを犯させない、新たな被害者を生まないための更生・再犯防止の手段が刑罰だという考え方です。どちらの考え方に立つべきか、今回の改正は、犯罪者処遇の在り方について考える良い機会になったのではないでしょうか?
これら「刑法」や「刑事訴訟法」の2つの法律に加えて、「犯罪を減らす、なくすこと」を目指した「刑事政策」も私の研究分野です。犯罪の原因や背景、傾向を分析して対策に生かす学問で、なかでも「医療倫理の問題と刑法の関わり」を専門にしています。
「安楽死」とは、例えば不治の病などで苦痛から解放されるには死しかない、といったときに、本人の希望に応じて人の手で死期を早めることです。「人として何が正しいか」と「法的に何が正しいか」は必ずしも同じではないのですが、完全に離れてしまってもいけないし、混同してもいけない。
自己決定権は「自分の人生や身体、生命に関する重要な決定を自ら下す権利」とされていますが、一方で、人が命を捨てようとするのを社会として黙って見ていてよいのか、という倫理的問題があります。法的にも、刑法202条には同意殺人罪、自殺関与罪という犯罪類型があり、本人が殺してくれと言っても、殺せば犯罪になることが予定されています。こうした倫理と刑法の関わりについて、長く研究を続けています。
人の手で死期を早めて最期を迎えさせることの是非は、自己決定権だけでなく、宗教や文化、死生観なども関わってきます。「命はいったい誰のものか」を私はずっと考え続けています。
法律は時代の影響を受けて変わります。かつてナチス政権下では、療養施設で暮らす障がい者に対する殺人が、安楽死プログラムとして実行されました。法学者として、決して同じ轍を踏んではいけないという強い思いもあります。
答えのない問い、正解がわからない社会問題に向き合うことは、私の研究分野に限らず、社会システム学科での学びの本質であり、社会科学が自然科学と異なる点です。そもそも正解がないかもしれないし、複数あるかもしれない。だからこそ知恵を絞って、トライ・アンド・エラーを繰り返しながら答え探しを続ける。
わからないからと思考放棄しないことが大切です。また頭の中だけで解決しようとせず、社会をよく見て人やしくみを理解し、現実を検証したうえで、何が正しいかを考えていく。こうしたプロセスを大事にしているのが私の専門分野であり、社会システム学科の学びです。
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何を議論すべきかを見つけ出し、現場・現状を検証するゼミ。
社会課題に対して自分ごととして考え、人の意見をしっかりと聞く。異なる意見を聞くことは自分の考えを深めるチャンスです。ゼミではそうした議論が深まるよう指導しています。
ゼミでは、毎回、1つのテーマについて担当グループが発表して論点を提示し、全体で議論しています。まずは、どんなテーマに取り組みたいのか、自分が希望するテーマを一人ひとり発表することから始めます。誰のプレゼンテーションが面白かったか、どのテーマをゼミで取り上げるかを民主的に多数決で決定し、それぞれの担当グループを決めます。
議論の際に大切なのは、知識を伝えることではなく論点を絞ることです。今、自分たちは何を議論すべきか、論点を見つけ出す力こそ社会に出て求められる能力です。
例えば「死刑」というテーマを取り上げる場合、賛成か反対かだけでは、さまざまな視点があって、非常に薄い議論になってしまいます。そこで、例えば死刑の執行方法に論点を絞ると、現在の日本は絞首刑が採用されていますが、銃殺刑や薬で眠るように執行する国もあるなかで、果たして本当に絞首刑が適切なのかという議論が出てきます。
議論を交わすなかで、遺族の視点だけでなく刑務官の精神的負担という視点から考えるとどう意見が変わるのかなど、自分の足りなかった視点に思い至ることもあります。物事の本質を常に見極める、リベラル・アーツを教育理念の1つに掲げる同志社女子大学らしい学びです。
毎年、ゼミ活動の一環で刑務所等を訪問します。日本の刑務所は性別によって施設が分かれているため、できるだけ男子刑務所と女子刑務所の両方を見学し、ほかにも女子少年院にも行きます。
刑務所では私語厳禁の張り詰めた空気の中で作業をする現場を目の当たりにし、また女子少年院では「家庭の貧困や親の虐待でクリスマスケーキでお祝いした経験のない少女たちがいる」現状を知り、「少女たちの非行は、彼女たちだけの責任なのか」と学生は考え始めます。現場を見て、現場の話を聞くことで、「社会のあり方」や「矯正教育のあり方」に考えを広げていきます。
こうした経験を経て、4年次では自分でテーマを選び、先行研究を調査・整理して、卒業論文の執筆に集中します。テーマに真剣に向き合うからこそ学生は四苦八苦しますが、ホームカミングデーなどで卒業生と会うと、卒業論文の話題で盛り上がります。執筆の苦労を鮮明に覚えていて、「卒業論文を執筆した経験が卒業してから役に立った」という声も多く、社会で生き抜くための基礎トレーニングができたのだと思っています。
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実践的な学びで、よりよい社会に貢献できる力を養成します。
2026年に創立150周年を迎えた本学は、長い歴史を刻むなかで、6学部11学科を擁する総合大学へと進化してきました。キャンパスを歩いていると讃美歌や音楽学科の学生の演奏が聞こえ、ラーニング・コモンズに行けば、様々な学科の学生が面白い発表をしている場面に出くわします。専門分野を極めた教員と、学生に真剣に向き合いサポートしてくれる職員が本学にはそろっています。そして何より、本学の誇りは学生です。
一緒に学ぶ学生が女性だけという女子大学ならではの環境のなかで、人生の数年間を過ごしたという経験は、きっと皆さんの宝物になると思います。「一生の友だちができた」、「自分らしく過ごせた」とキャンパスライフを振り返って語ってくれる卒業生も本学の誇りです。
社会システム学科は社会を幅広く学べる学科であり、社会の現場で、社会の現実の姿を学ぶことを重視しています。私が関わる「公共政策・法」を含めて6つのコースがありますが、他のコースのフィールドワークの報告書を見ていると、私自身も「面白そうだ」と興味をひかれる授業やゼミがたくさんあります。社会や企業とつながった実践的な学びで、よりよい社会と世界づくりに貢献できる力を育んでほしいと願っています。
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受験生のみなさんへ
オープンキャンパスに参加してくれた方から「大学の学生スタッフのみなさんが素敵でした」というお褒めの言葉をよくいただきます。大変うれしいことです。「こんな大学生になりたい」と感じるロールモデルに会えると思いますので、ぜひオープンキャンパスに足を運んでください。
卒業論文テーマ例
- 2次元に恋する女性たち
- きょうだい構成・関係性が恋愛観形成に与える影響
- ジェンダー視点からみる女性アイドル像の変容――MVの考察を通じて――
- ホラー映画から読み解く女性の欲望――主演女優賞受賞作品における女性の役割とジェンダー観――
- 旅行ガイドブックにみる日本人の韓国への眼差し
- エイリアンシリーズにおけるヒロイン像
- コロナ禍のメディア視聴習慣の変化に見る現代日本若者世代のメディア視聴のあり方
- アニメ作品における聖地巡礼の原動力
- コンテンツツーリズムのリピーターの経験にみる地域への愛着の形成
- 少女マンガのヒロインとライバルの関係性から読み解く価値観とジェンダー観の変容
- バラエティー番組におけるスポーツ選手
- 若年女性の体型と自己肯定感の関係性
- 令和時代における「かわいい」という言葉
- 日本におけるK-POPの受容にみるポップカルチャーと政治の乖離