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教員が語る同志社女子大学の学び

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「会計」
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「ビジネス」

社会経済のインフラでもある
企業の情報開示。
その役立ちを研究しています。

社会システム学科

記虎 優子教授

利益を上げている企業は、世の中で役に立っているということ。

コロナ禍で、企業の経済活動にさまざまな影響が出ています。大幅に利益が減少したり赤字になったりしている企業がある一方で、中には業態を変えるなどして利益を出している企業もあります。
こうした企業の業績を知ることのできる情報が「財務諸表」です。決算の結果を示したいわば企業についての天気図のようなもので、上場会社などについては誰でも簡単に入手できる書類です。投資家にとって投資意思決定の判断材料になるだけでなく、従業員や取引先、就職活動中の学生にとっても企業について知ることのできる重要な情報となります。上場会社などの財務諸表は、金融庁のEDINET閲覧(提出)サイトや当該企業のWebサイトなどで公開されています。

企業の経済活動を把握・分析する会計学を専門とする私は、ディスクロージャー(企業の情報開示)を研究テーマとしています。とくに最近は、財務諸表をはじめとする情報の開示の「適時性」に焦点をあて、研究を進めています。
コロナ禍のように社会・経済が急激に変化するとき、証券市場では、いち早く企業の業績を知りたいというニーズがより一層高まります。情報の伝播がスムーズに行われるように、上場会社の決算についての第一報である決算発表も早いほうが一般的にはよいと考えられます。

現在日本では、上場会社については、四半期決算といって3か月ごとに財務諸表が開示されています。もし、コロナ禍においてかつてのように半年ごとの決算発表であれば、証券市場は企業の業績を適時に知ることができずもっと混乱した可能性もあったのではないでしょうか。しかし、その一方で、3か月ごとの決算が企業にとって負担になっているとも一部で指摘されています。果たしてどのような決算発表のあり方がよいのかを明らかにすることも、私の研究対象です。

また、企業が開示する情報のなかで、非財務情報にも着目しています。財務諸表が含まれている開示書類には、実は財務諸表以外にもさまざまな情報が載っています。たとえば、売上や利益の増減などは財務諸表を利用すればわかりますが、なぜ増えたのか、なぜ減ったのかといった要因まではわかりません。これらの要因については、定性的な情報で、つまり文章(テキスト)で説明されていることが一般的です。こうした非財務情報の分析や活用は、財務諸表などの財務情報と比べると困難で、あまり進んでいません。
会計学の分野では、かつては非財務情報に対する関心は低かったのですが、私は財務情報と同様に重要ではないかと考えて長く研究を続けてきました。
時代が進み、非財務情報の重要性も次第に認識されるようになり、関心を持つ研究者も増えてきました。理系分野では、文章(テキスト)で示された非財務情報をAI(人工知能)で分析して投資意思決定に役立てることができないかといった研究も進んでおり、学際的な関心が向けられています。

企業が経済活動で利益を上げているということは、社会が求める商品やサービスを提供できている証であり、世の中の役に立っているということです。それを明らかにするのが会計であり、会計学は企業の経済活動を分析し、よりよい社会の発展にどうつながるかを追究する学問です。社会経済のインフラとも言えます。
会計学の研究者として、私も努力して論文発表に取り組んでいます。研究はよりよい教育を実践するためにも必要であると考えています。同時に、実務動向やルール改正も含めた最新情報の把握にも努めています。

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会計学を社会視点で考える、社会システム学科ならではのゼミです。

会計学は現代社会について学ぶ上で重要な領域のひとつだと思いますが、学生にはなかなか実感が持てません。そこで“自分ゴト”として関心を持てるよう、授業ではまず就職活動に役立つことを理解してもらいます。学生の多くが民間企業に就職しており、どの企業が安定的に経営されていて安心して働けるかを知りたい、というニーズが学生にはあるはずです。これは財務諸表などの開示情報をうまく分析すればわかります。実際に就職活動の際に学生が自分で開示情報をもとに企業研究ができるようになることを意識して、指導しています。

学生は開示情報が役立つことを理解すると同時に、役立てるためには相当な勉強が必要で、そこに課題があることに気づきます。開示情報は、一般的には投資意思決定のために多く使われています。老後の財産形成のためにも「貯蓄から投資へ」と言われる時代ですから、投資は身近なものであるべきです。しかし、いくつもの会社の経営状態を一つひとつ読み解き、投資対象を見極めていくのは、労力的にも時間的にも至難の業です。そこで学生は、専門的な知識を持ち合わせていないことが多いとされる個人投資家に向けて積極的に開示を行っている企業からまずは調べていきます。“自分ゴト”から関心をもって知識を増やし、課題を発見して、社会の視点で解決への道筋を探る。まさに現代社会学部だからこその学びです。

また、「たとえ民間企業に就職せず、投資もしなくても、生きていくうえで会計学の知識は必要」と学生には伝えています。現代の社会では、住宅や生命保険など、私たちの生活に不可欠な商品やサービスのほとんどを企業が提供しており、長く利用する商品・サービスであるほど企業の信頼性や持続性も考慮して選ぶ必要が本来はあります。生活者の視点で生活防衛をひとつの目的に、企業の開示情報を学ぶのもいいでしょう。
それだと会計を専門的に学べないのではと思う人がいるかもしれませんが、心配は無用です。ゼミでは、実在する企業の開示情報のケーススタディを伴うアクティブ・ラーニングを実践しているだけでなく、もちろん学術研究の作法に則った研究指導もしており、商学部や経営学部のゼミに引けを取らないような専門性の高いゼミを目指しています。

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「情報開示をめぐる企業行動分析」をテーマに掲げる私のゼミでは、学生が開示情報を自ら入手し、企業分析を行います。すると、分析が大変であることを実感するとともに、開示情報は十分に分析・加工して初めて役に立つ情報になることに気づきます。そこで、すでに分析され加工された情報の伝播のあり方にも学生は関心を向けるようになります。マスコミ報道の中には、企業が開示した情報がネタ元となっていることがあります。たとえば、日本経済新聞では、企業が開示した財務諸表に含まれる数値やそれをもとに算出した財務指標を分かりやすくグラフで示した記事が掲載されていることが、しばしば見受けられます。

ゼミでは、こうした新聞の記事をゼミ生自身が選び、検討することも行っています。すると企業自身が開示した情報だけでなく、マスコミが報道した情報の重要性や報道の役割などにも関心が高まり、たとえば「企業の適時開示をマスコミがどう報道したか」をテーマに卒業研究に取り組んだ学生もいます。ビジネスの視点だけでなく、幅広い視点から社会のあり方を考える社会システム学科らしいアプローチであり、学生には学際的に学んでほしいと考えています。
そのほか、法律などのルールに基づいて開示されている情報だけでなく、企業が自主的に開示しているものも含め、さまざまな開示の実例を見ていきます。ケーススタディを通じて、企業の情報開示制度や開示実務にどんな課題があるかをゼミで考え、自分自身で卒業研究の課題を設定することを目標に進めています。

社会に出ると、仕事の上でも会計の知識はおおいに役立ちます。たとえば企業間の取引では、顧客企業に先に商品・サービスを提供して、代金はあとから回収することが一般的です。営業部門では、ただ売り込むだけでなく代金を確実に回収できる相手かどうかも見極めるべきであり、それには財務諸表が役立ちます。どのような商品・サービスを提案すれば売れるのかを考えるうえでも、顧客企業のニーズを知る手段として開示情報を活用できます。
企業で経理やIR(投資家向け広報)の担当になることをただ目的にするのではなく、どのような仕事であっても会計の知識をどう生かすことができるかを考えてほしいと学生には伝えています。「自分の仕事がどう利益追求につながっているのか」といった経営的な視点でものごとを考えられる人材を企業は求めており、学生にはそうした視点をもつビジネスパーソンを目指してほしいと考えています。

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女子大だからこその授業や議論で、生き抜く力を磨くことができます。

女性の視点で教育を受けることができるのは、女子大である本学の強みです。社会に出てから、女性であることで壁にぶつかることもあると思いますが、仲間と議論することを通じてそうしたなかを生き抜いていくための知識を得ることができるのが女子大です。
たとえば私の授業でも、学生は企業の女性活躍状況の開示には高い関心を持っています。長く仕事を続けたいと考える学生が増え、女性活躍推進が求められるいま、社会的にも重要なファクターです。そこで、企業が実際に開示した情報を見比べると、男女別の管理職の人数や比率などのデータをしっかり開示している企業もあれば、美辞麗句にとどまる開示しかしていない企業もあることを学生は体得します。そうした学びを得て、社会課題を“自分ゴト”とし共に考えられるのも女子大の良さだと感じます。

本学の建学の精神のひとつ「キリスト教主義」は、「自らのためだけでなく、他者のために学び生きる」ことを目指すものです。すなわち、すべての人がよりよく生きることを目指した教育であり、どうすれば世の中がもっとよくなるのか、という視点で教育を実践しています。そうしたマインドをもつ学生を育てられる良さを、教員の一人として非常に心強く感じています。
自分だけが満足するのではなく、世の中を良くするにはどうすればよいかを広い視点から考え、行動する。本学での4年間で、そうした力を身につけられると思います。

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受験生のみなさんへ

将来何をしたいか、いまはわからない、というのは自然なことです。大学に入ってから気持ちが変わることや、目指していた道が想像していたものとは違うこともあるでしょう。安心してください。社会システム学科は間口が広く、学際的にいろいろなことを学べます。まずは幅広く学び、目指す道をじっくりと探究していきましょう。

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記虎 優子教授

現代社会学部 社会システム学科 [ 研究テーマ ] 情報開示をめぐる企業行動分析

研究者データベース

卒業論文一覧

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卒業論文テーマ例

  • 健康経営をめぐる企業の開示行動の解明
     ―量的アプローチと質的アプローチを併用してー
  • 商号変更のきっかけや目的の類型化
     ―適時開示を利用した実態調査―
  • 有価証券報告書におけるCSR情報の開示実態調査
  • 飲食業界における業績予想非開示企業の規定要因
  • 財務報告に係る内部統制に不備がある企業の開示実態調査
     ―事業報告に着目して―
  • 開示府令の改正によるメガバンク3行の開示姿勢の変化
     ―政策保有株式の開示に着目して―
  • 臨時報告書における監査人の交代理由の開示の実態と課題
  • 中小企業の決算公告の事例分析
  • 業績予想の駆け込み修正についての開示実態調査
  • 株主総会のお土産廃止は業績悪化が関係しているのか
  • 企業の情報開示はガバナンスの実効性を高めるのか
  • 決算期を変更する企業のねらいは何か
     ―決算期変更の適時開示に着目して―
  • 国際会計基準/国際財務報告基準(IFRS)を適用する企業の真のねらいは何か
  • 日本IR協議会のIR優良企業賞の選定理由から読み取る「良い開示」の要件
  • 女子就活生は女性が活躍できる企業を見抜いているか
     ―コーポレート・ガバナンスに関する報告書における女性活躍状況の開示実態調査―
  • 配当議案における開示の十分性についての実態調査
     ―その他資本剰余金から配当した企業に着目して―
  • マスコミ報道を受けた企業の適時開示対応の解明
  • 女性役員をめぐる企業の開示と意識
     ―女性役員が2名以上いる企業に着目して―