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教員が語る同志社女子大学の学び

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「がん化学療法」
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「副作用」

患者さん・ご家族のみならず
医療者とも共有できる
「服薬指導シート」を開発
臨床現場の課題解決法を探っています。

医療薬学科

内田 まやこ教授

患者さんの不安軽減・理解度向上を目指した取り組みが研究につながっています。

日本では2人に1人ががんと診断される時代です。かつて九州大学病院で病院薬剤師として勤務していた私も、多くのがん患者さんと接していました。がんの治療においては抗がん薬などを用いたがん化学療法が行われますが、副作用は避けがたく、私は患者さんの不安をできるだけ軽減する手立てを研究してきました。重視したのは多くの臨床現場で展開できるシステムの構築であり、そのひとつががん患者さんのための「服薬指導シート」の開発です。

服薬指導シートとは、薬剤師が患者さんに交付する説明用紙のことです。従来から文章形式のものはありましたが、文字が多くて患者さんには読みにくく、治療中で苦しいときや高齢の方には負担が大きく、課題となっていました。また、がんの治療においては、複数の抗がん薬を組み合わせて使う併用療法が主流になりますので、患者さんにお伝えする情報量も増える傾向でした。

そこで、服薬指導シートの改良に取り組みました。改良した服薬指導シートは、上段にお薬の名前と治療スケジュールを、下段には起こりやすい副作用と副作用ごとの起こりやすい時期を記載した表形式にして、「いつどんなお薬を始め、どんな副作用が起きやすいか」が一目でわかる独自のシートを開発しました。既存の文献情報から副作用の起こりやすい時期を色塗りすることで、視覚的にもわかりやすいように工夫しました。「このお薬とこのお薬を組み合わせた治療の時に、ある副作用がこの時期に起こりやすい」と患者さんが簡単に理解できるようになりました。

また、患者さんが入院生活を送るなかで、ある程度体調の変化を見通すことができるため、「その前に売店で買い物を済ましておこうといった目安になる」と患者さんのみならずご家族にもご好評でした。この表形式の服薬指導シートは、患者さん自身に起こった副作用の程度について○や×で書き込むなど、簡易な日記としても使って頂けるスタイルにしました。

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この服薬指導シートは患者さん向けに開発しましたが、今では医療者にも活用されています。例えば看護師が副作用について患者さんに質問されたときに、このシートをもとに説明します。また、患者さんのベッドサイドに貼付することで、多くの患者さんを受け持つ主治医もがん化学療法が始まって何日目かが一目瞭然です。医療現場では、ヒューマンエラーが起こらないように医療者が細心の注意を払い、ミスを防ぐためのシステムが構築されています。服薬指導シートもリスクマネジメントのひとつのツールとして、多職種間で活用して頂きたいと考えています。

がんの種類や治療ごとに使用される抗がん薬が異なるため、300種類のがん治療に対応できるよう、服薬指導シートは約300シート作成しています。各病院に合ったスタイルでシートをカスタマイズして使っていただけるように書籍化もしました。今後も最新情報を盛り込みながら、シートの評価と改訂を続けていく予定です。

その他、がん化学療法における支持療法に関する臨床研究も行っています。そのひとつが「造血幹細胞移植における大量化学療法時のアプレピタントの有効性と安全性の評価」です。
高校生や大学生が発症することも多い血液のがんは、抗がん薬を大量に投与するため、吐き気の副作用が出やすくなります。そこで、日本で使用可能になったアプレピタントについて、薬剤師が医療チームのなかで副作用予防策を実施しました。がん化学療法の併用療法毎にアプレピタントを含む制吐療法を提案し、その導入前後で有効性と安全性を評価しました。その結果、アプレピタントによって良好に吐き気のコントロールができることが明らかになり、データを論文としてまとめて、世界の医療現場で情報共有ができるようにしました。

ただ、病院薬剤師が研究中心の生活かというとそうではなく、私自身は研究をメインに意識したことはありません。目の前の患者さんの負担を少しでも軽減して治療を受けて頂きたい、症状を緩和したいと考えて行動した結果が研究につながっています。アプレピタントによる制吐療法の提案では医師や看護師と連携し、文献調査をしながらチーム医療で取り組んだ結果がエビデンスの報告という形で実を結びました。

医療は日進月歩であるため、常にその環境に身を置く必要があります。現在も週に1回のペースで、がん医療の基幹病院で薬剤師として活動を続けており、これからも臨床現場の問題点や疑問点を取り上げ、その解決法を探っていきたいと考えています。

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医療データベースから、副作用の起こりやすい時期や、
増強因子・軽減因子を探索していきます。

私の研究室では、医療現場で生じた疑問点をクリニカルクエスチョンへ転換し、エビデンスがない問題点をリサーチクエスチョンへつなげる臨床研究を行っています。

前述のがん化学療法における支持療法に関する臨床研究もそのひとつですが、そのほかにも医薬品の安全性確保に必要な新しい情報の創出を目指しています。つまり、臨床情報に基づく医療データベースから、薬剤の副作用の発現状況や起こりやすい時期を評価し、増強因子や軽減因子を探索するファーマコビジランス研究も行っています。

学生は自ら興味をもって研究の立案、仮設の設定、データベースの作成と精査、データ抽出、解析・評価、論文検索による過去の臨床報告収集などを行い、臨床における研究のあり方やその大切さ、実施方法などを学んでいきます。解析結果はすべて学生自身が行ったうえで、上級生と下級生のペアでダブルチェックをし、さらに教員によるトリプルチェックを行います。
このように、卒業論文の作成には非常に多くのタスクがありますが、一つ一つのタスクを重ねていくことによって、科学的思考力や課題解決能力を磨くことができ、学生は大きく成長します。これらの一連の流れを経験することで、学生が研究マインドを体得できればと考えています。
また、世界に向けて研究成果を発信できるよう、英語で論文作成に取り組む学生もおり、全面的にサポートしています。こうした臨床研究は、薬学生が臨床現場で生じた疑問を解決できる能力を備えるために必要なものですので、今後は学会での発表にチャレンジする学生を一人でも増やしたいと考えています。

毎年新しい学生が研究室の仲間入りをしてくれますが、研究室を希望した理由として、「実際の患者さんの臨床データを扱いたい」「ファーマコビジランス研究に興味を持った」「がんは身近な疾患なので、がんの副作用対策に関する研究がしたい」「より患者さんに近い存在の薬剤師になりたい」等を挙げて選択してくれています。

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薬剤師に欠かせない素養を高める教育、学びの環境が整った大学です。

薬剤師は、薬物の適正使用を見守り、副作用の予防や対策を講じるプロフェッショナルです。患者さんの不安を可能な限り少なくする薬剤説明や、医師・看護師等への医薬品情報の提供のほか、副作用が出現したときは、その対処薬を医師に処方提案することが求められます。

さらに超高齢社会の進展を背景に、多くの薬を服用することで有害事象のリスクが高まる「ポリファーマシー」が社会問題となるなか、薬の引き算ができる薬剤師の役割が一層重要になっています。現に我々の研究成果が、NHKより取材を受け、オンエア(2019年9月27日医療費の抑制)されたこともあります。

薬剤師には、知識・技能のみならず、高い生命倫理観と、状況に対応できる柔軟な人間性が不可欠です。本学の教育理念の3本柱である「キリスト教主義」、「国際主義」、「リベラル・アーツ」は、高い生命倫理観と柔軟な人間性を育む礎となると思われます。
女性の視点や感性を生かし、品格と良心をもち、国際的視野に立って責任ある行動ができるようになることは薬剤師にとっても必要な素養です。本学の教育理念に則り、自分のためだけでなく、他者のために学びを深め、人間力のある医療人の育成を目指し、少人数教育ならではのきめ細やかな指導を行っていきます。

本学の学生は、社会に貢献したい、患者さんの命を救いたい、という強い意志を持ち、授業や研究活動に懸命に取り組んでいます。そんな仲間と学ぶ日々は将来の糧となり、財産になることを確信しています。
そして2026年には創立150年を迎える伝統と格式ある女子総合大学である本学は、学生さんを送り出すご家族のみなさんにとっても安心いただけるのではないかと思います。

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受験生のみなさんへ

薬学部の6年間で知識・技能・態度を習得し、患者・医師・看護師・同僚等から信頼を得られる薬剤師になるために一緒に学んでいきましょう。薬剤師は一生涯学び続けなければならない職業ですから、そのベースを本学で身につけてください。お目にかかれるのを楽しみにしています。

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内田 まやこ教授

薬学部 医療薬学科 [ 研究分野 ] がん化学療法の有効性と安全性に関する
臨床評価、副作用データベースを用いた
医薬品の安全性評価

研究者データベース

卒業論文一覧

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卒業論文テーマ例

  • 非ホジキンリンパ腫患者に対するR-CHOP療法施行患者向け服薬指導シートの評価
  • ESHAP±R療法における服薬指導シートの有害事象予測精度の評価
  • 急性骨髄性白血病に対するシタラビンとイダルビシン寛解導入療法における服薬指導シートの臨床的有用性の評価
  • 副作用報告データベースを用いたベンダムスチン関連皮膚障害発現までの好発時期の評価
  • 有害事象自発報告データベース(JADER)を用いたポナチニブによる心毒性の好発時期の評価
  • 医薬品副作用データベースを用いたポマリドミドによる肺障害の評価
  • 医療データベースを用いたニボルマブによる心臓関連の有害事象の評価
  • 有害事象自発報告データベース(JADER)を用いたエベロリムス誘発有害事象の網羅的解析
  • 副作用報告データベースを用いたベバシズマブによる肺毒性の評価
  • ファーマコビジランスデータベースを用いたトラスツズマブによる肺有害事象の評価