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教員が語る同志社女子大学の学び

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「酸性環境」
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「新戦略」

さまざまな疾患と深く関わる
酸性オルガネラの機能に迫り
創薬にアプローチ。

医療薬学科

和田 戈虹教授

細胞から個体まで共通する、酸性オルガネラに着目し研究しています。

生命活動を担う生体分子のほとんどは、生体内の体液の中で反応を起こし、その作用はpHに依存しています。pHは水溶液中の水素イオン(H+、プロトン)濃度、いわゆる酸性・アルカリ性の程度を表す尺度であり、生体内のpHを正常な値に保つことは生命の維持に不可欠です。なかでも私たちは、生体内のpHが酸性に保たれている酸性環境を対象に研究を進めてきました。

ほ乳類の酸性環境として、まず胃の内腔が思い浮かぶと思いますが、その他にも多彩な酸性環境が形成されています。例えば、細胞内ではゴルジ体、エンドソーム、リソソームなどの細胞内小器官(オルガネラ)の内部、組織・個体レベルでは骨吸収窩、尿細管、膀胱、輪精管などの内腔も酸性です。細胞の内外に形成されている酸性環境には、加水分解酵素、ホルモン、神経伝達物質など多くの生理活性物質が含まれており、タンパク質分解や小胞輸送をはじめ、免疫・神経機能、骨代謝などにおいて重要な役割を果たしています。

生体内の酸性環境の形成および、酸・塩基平衡の維持に中心的な役割を果たしているのがプロトン・ポンプ液胞型ATPase(V-ATPase)と呼ばれる酵素です(図)。V-ATPase はATPの加水分解で得られるエネルギーを使って膜を介してプロトン(水素イオン)を輸送します。

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このV-ATPaseの機能欠損による酸性環境や酸・塩基平衡の異常は、骨粗しょう症やがんの転移をはじめ、さまざまな疾病と密接に関係しています。骨粗しょう症を例にあげると、国内の患者数は約1,000万人と推定され、大腿骨頸部骨折は高齢化社会の進展に従い急速に増加しています。加齢とともに、骨を壊す破骨細胞が形成する酸性環境によって骨吸収が進み、骨密度が減少することが主な原因です。ただ、これら疾病の治療薬は副作用が多く、特効薬もありません。生体内のプロトン・サーキットの形成・制御、その生理機能に関する基礎研究と関連する薬物開発は重要な課題です。また、ウイルスが細胞に侵入する際、その感染プロセスにはオルガネラの酸性化が必要です。Covid-19も酸性オルガネラを介して細胞内に侵入します。V-ATPaseの活性を阻害して、オルガネラの酸性化をブロックすればウイルスの感染防止が可能ですが、このような薬剤は副作用があまりに強く、治療薬としては使用できないのが現状です。

酸性オルガネラの中で、特に着目しているのはリソソームです。細胞の中ではいろいろゴミも出ますし、細胞外から異物を取り込むこともあります。細胞にとって有害なものを処理するゴミ処理工場がリソソームというオルガネラです。リソソームの内腔はV-ATPaseによって酸性化されており、酸性条件下で色々な分子を分解する酵素が詰まっています。リソソームはオートファジー(自食作用)にも関わっています。細胞の栄養源不足を感知し、細胞の活動を制御する重要なオルガネラとして、注目されています。

私は学生時代から、1つの細胞から個体まで生命に共通した現象に興味を持っていました。例えば遺伝子からタンパク質を作ることは、すべての生命に共通します。私が大学院生の時、研究室の助教授が大隅良典先生でした。ご存じの通り、大隅先生は「オートファジー(細胞の自食作用)の仕組みの解明」で2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞されました。オートファジーもすべての動植物細胞に共通する仕組みです。「人のやらないことをやる」を徹底された大隅先生の影響を受け、私も少しずつではありますが、新しい発見に繋がる基礎研究を続けています。

生命の基本的な現象が破綻してしまうと病気になる。すなわちさまざまな病気と関連しているそのメカニズムを明らかにすることで、最終的には治療薬開発の新戦略への道筋を提供することができると考えています。

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実験や文献リサーチなど、各テーマで卒業研究に取り組みます。

「生化学研究室」では実験を中心に、酸性環境を形成するさまざまな因子や酵素について研究を行っています。遺伝子の生体内機能の研究に不可欠なノックアウトマウス(遺伝子組換えマウス)を作成し、組織の一部を薄く切ったパラフィン切片や凍結切片を作成して解析。初期発生や免疫制御、骨代謝などにおける酸性オルガネラの機能を分子レベルで解明していきます。顕微鏡下でマウスの受精卵を出すといった非常に高度なテクニックが必要な実験にも挑みます。

動物実験が苦手な学生は、細胞レベルや遺伝子レベルの実験を行っています。また、興味・関心を寄せるテーマについて文献リサーチをして、研究を進める学生もいます。悪性腫瘍の発見・診断技術や、C型肝炎ウイルスのワクチン開発に関する文献リサーチなど、臨床に近いテーマを中心に調査研究を進めています。学生自身が花粉症であれば、花粉症の治療法開発の最前線を追求するといった調査研究もあります。
いずれのテーマにおいても集中力を発揮して取り組んでおり、その姿勢には私も感心しています。研究活動が行き詰まり、悩むこともありますが、3年間の研究成果を発表する「薬学研究発表会」では、毎年大きく成長した姿を見せてくれます。

研究活動においては難しい課題が多く、発表までのプロセスには思い通りに進まないこともよくあります。しかし、それらをどう解決していくか考え抜く力こそが、将来、薬剤師として臨床の現場に立ったときに役に立つはずです。
現場で仕事をしていると「何かがおかしい」といった疑問や課題が見えてくるでしょう。それを解決に結びつけるためには、科学的な思考が欠かせません。科学的思考を持っている薬剤師と持っていない薬剤師、どちらが信用できるか。答えは明らかです。基礎的な研究活動を通じて、科学的思考を養ってほしいと考えています。

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国試のストレート合格率の高さに本学らしさが表れています。

本学の学生は向学心が強くまじめで、日々の授業や研究活動に対してとても意欲的に取り組んでいます。そして学生の向上心をよく理解し、丁寧にバックアップできる教育体制を整え、教職員による細やかなケアができる大学が同志社女子大学だと思います。

そのひとつの表れが、薬剤師国家試験におけるストレート合格率の高さでしょう。2021年3月卒業生では、修業年限である6年間で卒業・合格したいわゆるストレート合格率は71.6%と、統計をとった全国56大学中11位、西日本では4位※となりました。
「学生全員の合格を目指す」が医療薬学科の教員の共通認識であり、薬剤師免許取得という学生の目標達成を徹底してサポートします。
「薬剤師国家試験対策講座」でポイントを抑えた効率のよい勉強法を伝えるのはもちろんのこと、日々の授業でもきめ細かな指導を行っています。そうした教員と学生の距離の近さと学生の向上心がよい相乗効果を生み出し、国家試験のストレート合格率の高さにつながっているのだと思います。

ストレート合格率は、厚生労働省「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」資料より抜粋。

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受験生のみなさんへ

薬剤師が行う業務はすべて、基礎的な研究活動に基づいた科学的な根拠によって行われなくてはなりません。それが医療の課題発見や、その先の解決策の検討にもつながります。臨床現場での疑問を研究に発展させることのできる「研究能力」を持った薬剤師を目指しましょう。

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和田 戈虹教授

薬学部 医療薬学科 [ 研究テーマ ] 分子細胞生物学、生化学・ほ乳類動物における
酸性環境の形成機構とその生理機能

研究者データベース

卒業論文一覧

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卒業論文テーマ例

  • Rab7遺伝子欠損マウスの作製
  • 液胞型プロトンポンプ(V-ATPase)a3サブユニットフォーム欠損マウスにおけるa3対立遺伝子の遺伝子型の解析
  • vam9の機能解明-改変アリルのデザインと作製
  • マウスゲノムの遺伝子操作の効率化-リソソーム形成に機能するvam1を例として
  • mVam8 タンパク質が mTOR pathway に及ぼす影響
  • アデノウイルスベクターを用いたmVam2タンパク質の機能ドメインの解析
  • mVam2タンパク質およびRab7タンパク質の機能解析
  • mVam8遺伝子欠損細胞におけるmTOR調節因子の細胞内局在
  • マウス低分子量GTPaseRab7の機能解析~初期発生の異常~
  • mVam2と相互作用する低分子GTPase Arl8およびRab7の小胞輸送における機能解析
  • mVam8遺伝子ノックアウト細胞における小胞輸送の分子メカニズムの解析
  • マウス初期胚におけるオルガネラ膜融合因子mVam8とオートファジーの関わり
  • 小腸吸収上皮細胞におけるRab7遺伝子の機能