「DNA」
×
「タンパク質」
×
「未来のテーラーメイド医療」
多分野にアンテナを
張り巡らしてきた“なんでも屋”が
生命現象の核心に迫り、
薬学分野へ展開中。
医療薬学科
根木 滋教授
化学、生物、物理の枠を超え実績を積み上げてきた“なんでも屋”。
研究者としての私のスタートは、工学部の有機合成分野で分子を作る有機合成がテーマでした。その後、ドイツ学術交流会(DAAD)奨学生としてドイツに留学し、DNAを扱う生物分野に近い研究に取り組み、帰国後は太陽電池や分子進化の研究などを行いました。化学、生物、物理の多様な研究室での経験・知見を融合させることにより、もっと面白いことができるのではないか、そんな思いで研究活動を続けています。
ドイツ留学中に、ひょんなことからオペラ歌手の先生のもとで声楽のレッスンを受けることになりました。様々な国の人たちの中で科学と音楽の両方で多くを学び、帰国後も研究者とオペラ歌手の二足のわらじを履いてきました。
世の中を見渡しても、技術革新を目指して、既存の枠組み・価値観を超えて積極的に異分野に踏み込む傾向にあり、そうした柔軟性が求められる時代だと感じています。
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ターゲットはDNAやタンパク質。新しい境界領域の研究に挑んでいます。
私の所属する「生命物理化学研究室」では、DNAやタンパク質をターゲットに、物理、化学、生物の枠にとらわれることなく、それらをうまく融合させながら生命現象の解明や、それに基づく機能性スマート分子の創製に取り組んでいます。人工タンパク質をデザインできれば、タンパク質をベースとした新薬の開発にもつながるなど、医学・薬学分野への影響力は莫大です。
例えば、生物が生命を維持するためには、鉄、亜鉛、銅、ニッケルといった微量の生体内金属元素が不可欠です。なかでも亜鉛は、DNAの遺伝情報をRNAに写しとる「転写」に深く関わる亜鉛フィンガーと呼ばれるタンパク質の重要な構成成分です。ところが数ある金属元素の中からどうやって亜鉛を選択しているのかはいまだ謎です。そこで私たちは、この指の形をした「亜鉛フィンガータンパク質」の構造と機能の解明を研究テーマの1つとしています。
どうして亜鉛だけを選択的につかまえられるのかについては、物理および化学的なアプローチで追究しています。さらに亜鉛を、銅やコバルトなど別の金属に置換した場合に何が起きるのかについても実験を行っています。この研究は生体における重金属の毒性発現メカニズムの解明や、新しい触媒機能をもつ人工タンパク質の開発にもつながると期待しています。
これまでの研究により、亜鉛を捕まえているアミノ酸を改変することでDNAを切断できる人工亜鉛フィンガーの創製に成功し、DNAを切断する遺伝子カッターのような分子を作り出すことにも成功しました。また、このタイプのタンパク質が自然界にないのはそれ自身が自殺分子であり、そのために進化過程で排除されてきたのだと推察できました。さらに、亜鉛フィンガータンパク質と活性酸素との反応や、それ自体の細胞膜透過能力など新しい機能についても現在探索中です。
生命現象をコントロールする細胞内のDNAは染色体の中に折りたたまれて収納されていますが、この折りたたみの原理や核内の相分離も大きなテーマの1つです。どのように折りたたまれ、何がそうさせているのかを解明するために物理、化学、生物の複合的なアプローチで追究しています。
さらに、他大学との共同研究により、がんに関連したテーマにも取り組んでいます。DNA修復機能に関与し、乳がんの治療薬の対象にもなっているPARP1(パープワン)タンパク質について、その構造と機能の関係を新たな研究手法で追究しています。PARP1のDNA修復過程の時空間制御の解明や、がん細胞の種類によって修復過程が異なる可能性があり、それを究明することで新しい薬の開発にもつながると期待しています。
より実用的なテーマとして、国際特許を取得したテーマのひとつに、同志社大学との共同研究による一酸化炭素中毒除去剤があります。一酸化炭素中毒は、赤血球に存在するヘモグロビンが一酸化炭素と結びつくことが原因とされていますが、なぜ酸素よりも有害な一酸化炭素と結合するのかに着目し、ヘモグロビンより約1000倍強く一酸化炭素と結合する化合物を創製しました。それを使って一酸化炭素の役割を明らかにし、体内の一酸化炭素を除去できる薬剤の開発を行いました。現在は火災時のガス中毒に実際に使用できる解毒剤カクテルの開発にも関わっています。
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学生は学会発表や他大学との共同研究にも積極的に参加しています。
私の研究室では、配属された3年次生の段階で、まず遺伝子操作の技術やタンパク質を作る技術、各種機器の操作方法といった実験の基礎スキルの習得に注力します。それらをマスターした上で、学生個々の興味関心に応じて、各グループで独立したテーマのもと自律的に実験に取り組んでいます。
テーマに関連する英語の論文を読む活動も各グループで定期的に行っています。英語の運用能力が伸びると同時に、学生の研究に対するモチベーションも上がり、学会発表に向けて英語で論文を書く意欲的な学生も増えています。
実験の進捗発表会を定期的に行うなど、プレゼンテーションの機会を多数設けているほか、他大学との共同研究を積極的に行っていることなどから、学生のコミュニケーション能力の向上には目を見張るものがあります。
「研究は料理に似ている」と学生には伝えています。同じ材料・条件であっても、料理人によって仕上がりは、和食・イタリアン・中華・フレンチなど多種多様。実にワクワクするものです。研究も同じようなものだと感じています。同じ条件であっても、アウトプットされるものは研究者によって異なります。何を導き出すかは研究者自身の問題であり、作り出す面白さを知り、未知の発見や解明を楽しめるのが研究だと考えています。
ただし研究の楽しさを味わうためには、時間管理はもちろんのこと、すべてを自分でマネージメントする自己管理能力が欠かせません。これは社会に出るために必要な訓練だと言えます。さらに社会では、答えのない問いにぶつかることが日常茶飯事であり、そうした問いに向き合い、解決する方法論を学生時代に身につけてほしいと考えています。
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「リベラル・アーツ」を掲げる大学でこそ磨ける能力があります。
私自身のこれまでを振り返ると、留学、研究、音楽などの経験を通して、さまざまな価値観を柔軟に受けいれ、それらを咀嚼できる「リベラル・アーツ」を自分なりに実践してきたのではないかと思っています。
だからこそ「リベラル・アーツ」の教育理念のもと、学際色豊かに学べる本学に薬学部が設置されていることの意義の大きさを実感します。医師、看護師、薬剤師といった医療職はサービス業のひとつであり、さまざまな価値観を持った人に接して、瞬時に動ける対応力が不可欠です。幅広い知識を身につけ、多角的・批判的に考えるクリティカル・シンキングの力を、「リベラル・アーツ」を掲げる同志社女子大学で磨いてほしいと思います。
また、本学の掲げる「国際主義」のもと、英語運用能力のみならず世界的な視野を養えるのは、国際化が進む医療現場において大きな力になると思います。何より、本学の薬学部は最先端の機器をはじめとした研究設備が整っており、研究に注力できる環境にあります。確固たる教育理念のもとバランスよく学び、成長できる場だと思います。
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受験生のみなさんへ
薬学部は薬を扱う学問ですが、薬を軸に多くのことを学べる面白さがあります。病気と薬の関わりといった基礎的なことから、薬を患者さんに投与するにあたっての人との関わり方など、実学的なことも学べます。薬を軸にどんどん興味を広げていってください。そして、その養った力を是非社会に還元できるように、同志社女子大学の学びを通して成長してほしいです。私たちも皆さんの成長を全力でサポートしたいと思います!
卒業論文テーマ例
- 転写因子に含まれるDNA結合ドメインである亜鉛フィガータンパク質の構造と機能に関する研究
- 核内のゲノムDNAの折りたたみ原理や転写活性化に伴う相分離メカニズムに関する研究
- DNA修復機能をもつPARP1タンパク質の構造と機能解析および抗がん剤開発への応用に関する研究
- 超分子錯体を用いた、インテリジェント温感性薬物放出高分子製剤の創製
- タンパク質のレドックスバイオロジーに関する研究
- 天然酵素タンパク質をリデザインすることにより、天然を凌駕する人工機能性酵素を創製する研究