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教員が語る同志社女子大学の学び

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「個別化治療」
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「臨床研究」

薬剤の用法・用量を
患者さん個々に向けて
適正化するための研究です。

医療薬学科

松元 加奈准教授

全国の医療機関から薬物濃度の測定・解析の依頼が寄せられます。

新しい医薬品が世に出るまでには、10年前後にわたる長い研究開発期間を要し、その間にさまざまな試験が行われます。クスリの候補をヒトに投与する段階の試験を治験と呼びますが、この段階では有効性や安全性、体内の薬物濃度など、さまざまな角度からの試験結果が吟味されます。クスリはこういった治験を経てようやく医薬品としての用法・用量が定められるわけですが、ただ、複数の疾患を有する患者さんや小児、高齢者の方は治験の参加者から除外されることが少なくありません。しかし、医療現場では、例えば循環器領域と消化器領域など、複数の疾患を抱えておられる患者さんや、小児から高齢者まで様々な背景をもつ患者さんが多いのが実情ですから、先述のような単一の疾患だけを抱えておられる患者さんから得られたデータに基づいて決定された医薬品の用法・用量が、多くの患者さんに必ずしも当てはまらないケースがでてくるのです。このような観点から、治験コーディネーターとしての経験もある私は、実際の医療現場で使われる際の用法・用量や投与すべきタイミングを適正化するための研究を行っています。

私が取り組んでいるのは、患者さん一人ひとりを対象にした研究テーマですから、そのすべては医療現場の医師や薬剤師と共同で進める臨床研究です。対象としている医薬品は、入院中の感染症患者さんに投与される抗菌薬や、白血病など血液疾患の患者さんに投与される抗がん剤です。クスリの用法・用量が患者さんにあわず、その体内濃度が不十分であれば治療に失敗して、命を救えないこともありますし、逆に体内濃度が高くなり過ぎれば副作用に見舞われて命を奪うことになり得ます。ですから、患者さんごとに薬の適正な用法・用量を決定する「個別化投与設計」が欠かせないのです。そこで医師や薬剤師から依頼を受けた私たちが、医療現場から送られてきた患者さんの血液や組織の一部などの試料を対象として、それらの試料中に含まれる薬物濃度を測定し、専門的な解析を行うことで、その薬物の当該患者さんへの最適な用法用量を割り出し、医療現場にリアルタイムでフィードバックすることで、患者さんの治療を成功に導いています。また、蓄積されたこれらの臨床データのさらなる解析結果を学会で発表したり、学術論文にまとめて発表したりすることで、全世界の薬物療法の向上に役立っています。このように、全国の医療機関から薬物濃度の測定・解析の依頼が寄せられますが、その約9割が実際に患者さんの治療に当たっている医師からのものです。「おかげさまで治療がうまくいきました」、「救命に至りました」と医療現場から連絡を受けるのは何よりの喜びです。臨床現場と密接につながる研究は責任重大ですが、その分やりがいも大きく、患者さんの治療に携わっているという実感を持つことができます。

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学生も医療現場にフィードバックする研究に取り組んでいます。

「研究者は薬剤師でなくてもよいが、薬剤師は研究者でなければならない」。私たち臨床薬剤学研究室の合言葉です。医療現場の問題点にいち早く気づき、それを科学的・薬学的に解決できる研究者の視点を持った薬剤師の養成を目指し、日々学生には研究に取り組んでもらっています。

研究室へ配属された後は、まず解析や測定といった手技のイロハを身につけてもらいます。研究室が所有する分析装置は、大学病院でも導入している施設が少ない高精度な最先端機器です。それらを使って医療現場から届けられる血液や組織検体などの試料を解析し、医薬品の推奨量の提案までを行い、これらの研究実績を卒業論文にまとめていきます。学生たちの手によるデータ解析や推奨量の提案の一連の過程全般にわたって私が念入りにチェックし、最終的に医療現場に報告書として送りますが、「おかげさまで、この前の患者さんの治療がうまくいきましたって返事があったよ」などと、医療現場からの反応を常に学生たちに伝えるようにしています。そうすることで学生たちの「自分も医療に役立っているんだ!」という意欲の向上につながります。また、共同研究先の医療機関の医師や薬剤師の方々とディスカッションをしたり、医療現場でどのように治療が行われているかを見学させていただいたりする機会もあり、学生たちは臨場感を感じてくれています。多くの大学病院を擁する関西の中心部・京都にある本学は地理的にも他施設の医師や薬剤師との共同研究を行いやすく、学生にとっても恵まれた環境だと思います。

私が大学生の時は、自分の研究が世の中にどう役立っているのかわからずじまいでしたが、この研究室の日々の研究成果は、患者さんの治療への反映という形で具体性をもって体感できます。それだけに責任は重く、私たちの厳しい指導のもとで学生は緊張感を持って研究に取り組んでいます。調剤でも服薬指導でも薬剤師の仕事は常に患者さんの命を左右し得るものですが、大学在学中に実際の患者さんの検体を扱う経験や、患者さんの命に直結する研究に取り組めたという体験は、将来必ず役に立つと確信しています。

学生の進路は、病院や薬局、製薬会社など幅広く、なかには治験の仕事に携わる人もいます。客室乗務員として航空会社に就職した卒業生も数名おり、「薬学部で学んだ知識や技能をもつ特別な客室乗務員なんだというプライドをもって、この先さらに渡航医学の知識も修得して文字通り大空にはばたきなさい」と背中を力強く押してあげたこともあります。このように、6年間で修得する薬学の知識や技能は、生涯にわたって生活のあらゆる場面で生かすことができます。

一方、薬剤師本来の活躍のフィールドである医療現場では、日常的にさまざまな問題が発生しており、まずはそれを見逃すことなく、問題に気づくこと、発見することが大切です。そして、その問題を今度は解決しようとあらゆる方向から思考を巡らせ、解決策を示し、薬物療法に大きく貢献できる薬剤師になってほしいと学生には常々伝えています。問題を見逃さないためには、在学期間中、地に足をつけた学びが欠かせませんし、卒業後はさらに知識を蓄え、スキルを磨いて専門性を身につける。そのような医療の第一線で活躍する卒業生から、いつでも相談を受けられる大学教員であり続けることが私の目標です。

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高度な専門性を身につけられるのが本学の薬学部です。

本学の薬学部には、高い専門性を持った先生たちがたくさんいらっしゃるので、どこの研究室に所属しても、自分の学びたい領域で高度な専門性を身につけることができます。また、他学部の先生と共同で研究できる領域もあるなど、単科大学では味わえない総合大学ならではの学びのメリットも数々あります。自分とは異なる学問領域を学ぶ友人と出会い、一緒に活動することで、人間として広い視野をもった医療人として成長できる環境です。

医師・看護師のみならず多様な職種が連携して治療にあたるチーム医療の重要性が増すなか、医療従事者にはこれまで以上に高いコミュニケーション能力が求められます。もちろん患者さんへの対応では、その心の奥底にお持ちの苦をも察知し、共感してさしあげることのできる豊かな人間力が不可欠ですので、そうした能力を本学でおおいに磨いてください。

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受験生のみなさんへ

薬学部で培う知識や技能、他人を思いやる心は、生涯にわたって役に立ちます。また薬剤師という国家資格の取得は、とりわけ女性にとって大きな意味があると思います。薬学部の教員が全力でサポートをしますので、ぜひ一流の薬剤師、研究者を目指して同志社女子大学で学んでください。

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松元 加奈准教授

薬学部 医療薬学科 [ 研究テーマ ] 臨床薬剤学、感染症治療学、薬物投与設計、
PK/PD理論に基づく各種薬剤の適正使用法の構築

研究者データベース

卒業論文一覧

dwcla TALK

卒業論文テーマ例

  • 造血幹細胞移植の前処置で用いられるメルファランの患者体内動態の評価
  • 同種造血幹細胞移植患者における抗ヒト胸腺細胞ウサギ免疫グロブリン血中濃度モニタリングの有用性
  • 同種造血幹細胞移植患者における抗ヒト胸腺細胞ウサギ免疫グロブリン製剤の血中濃度変動要因
  • 日本人患者におけるポナチニブの血中動態の個体間および個体内変動の評価
  • 日本人造血幹細胞移植患者におけるcidofovirの血中動態に関する研究
  • 造血幹細胞移植患者におけるホスカルネットの体内動態研究
  • シタラビンおよびその代謝物の高速液体クロマトグラフィーを用いた簡便な血中濃度測定法の構築と患者での動態解析
  • 造血幹細胞移植成人例と小児例におけるブスルファンの薬物動態比較
  • 薬物動態解析に基づく静注用ブスルファンの投与設計 ~最適採血回数およびタイミングの検討~
  • アムホテリシンBリポソーム製剤の患者血中動態の評価
  • 耳鼻咽喉科診療所における小児急性中耳炎患者の重症度調査に基づいた抗菌薬投与に関する研究
  • 抗菌薬処方の適正化と患者教育に向けたグラム染色画像の活用
  • 難溶性製剤である静注用タゾバクタム/ピペラシリンの溶解性に関する意識調査と溶解条件の検討
  • 薬物体内動態の臨床研究に際し、検体の採取ならびにその取り扱い等に関して医療現場で発生する過誤事例の調査
  • 肺アスペルギルス症患者におけるイトラコナゾールの体内動態と治療効果の関係解析に基づく適正使用方法の研究
  • 発熱性好中球減少症例におけるメロペネムの血中濃度解析による至適な点滴時間の検討
  • 持続的血液濾過透析の設定条件によるメロペネムの患者体内動態の様相