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教員が語る同志社女子大学の学び

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「有機化学」
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「社会貢献」

分子を自在につくり
薬のもとになる物質や
生命の起源にも迫ります。

医療薬学科

山本 康友准教授

どう原子を結合し、何を作るかが研究のテーマです。

化学反応を駆使して目には見えない原子同士を結合し、自在に分子を組み立てて医薬品の候補となるような物質をつくりだす。これが「創薬有機化学」の分野です。
そのため原子を結合して「何を作るか」と、原子を「どう結合させるか」が研究の2大テーマであり、私たちは現在、両方のテーマで主に3つの研究を進めています。

「何を作るか」の研究の1つ目は、本学薬学部の教員が発見した、睡眠の質を改善する物質を合成しようというものです。この研究を進めることにより、薬のもとになる化合物や眠りのメカニズムを解析するツールの開発など、睡眠の質の向上に貢献できる可能性があります。

「何を作るか」の研究の2つ目は、1方向だけにねじれる新しい分子の創成です。ヒトの体は主に炭素でできていますが、炭素は4つの原子と結合できます。1個の炭素に4つの異なる原子が結合した分子には、右手と左手のように鏡写しの関係にある2種類の異なる分子があり、これらは異なる性質を持ちます。右手型だけ、あるいは左手型だけを作り出すことは有機化学における大きな研究テーマになっています。そして私たちの体は、片方の型の分子だけで構成されているのですが、それがなぜかは未解明の部分も多いのです。
そこで私が着目しているのは「分子のねじれ」です。分子のねじれにも右巻き、左巻きがあるはずで、このねじれにより右手型の分子だけが生まれてきた、というストーリーがあり得ると考え、さまざまな条件下で1方向だけにねじれる分子の創成を目指しています。私たちの体が片方の型だけでできている謎へのひとつの解になり、生命の起源に迫れるのではないかと考えています。

3つ目は「どう結合するか」、方法論の研究です。化学反応を進める際に、触媒を使うことがよくありますが、私が注目している触媒が「ホスファゼン」という、リン酸の類縁体です。リン酸はリン・酸素・水素の3つの原子による化合物で酸性を示しますが、酸素を窒素に変えることで性質が大きく変わり、強い塩基性を示します。それを触媒として使うことによって新たな化学反応の開拓にチャレンジしています。原子と原子の結合の仕方に新たなバリエーションが増え、効率的な合成方法が開発されるのではないかと考え、研究を進めています。

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正解が日々変わる社会で、本当に求められる能力とは。

「創薬有機化学研究室」では、前述の3つのテーマに分かれて学生が研究活動を行っています。まずテーマごとに短期的な方針を決めてそれに基づいて実験を行い、ある程度実験データが蓄積されると、学生各々がデータを整理していきます。その上で研究の大きな方針を決定し、さらに実験を進めていきます。
実験はうまく進まないことの方が多いのですが、私は指導において、データを読み解き、何が問題で、どんな解決策があるか、そのストーリーを学生自身が自発的に考えて欲しいと考えています。安易に答えを示して指示を出すことは、極力避けるよう意識しています。
なぜなら、研究活動を通して、実社会で求められる能力を身につけてほしいと考えるからです。臨床現場のみならず、社会では答えのない問題や正解が日々変わる状況に直面します。課題を見つけ出し、その解決に向けたアプローチ方法を考え、行動する力が必要です。
正解がない、何をやっても正解だというのが研究活動であり、活動を通して磨いていく能力は、薬剤師にも欠かせない力となるはずです。

また学生には、できる限り学会発表することを勧めています。学内では、研究に対して専門的な質問をするのは主に教員ですが、学会発表ではさまざまな人から質問を受け、自分では気づきもしなかった新たな視点を得ることができます。それによって研究活動への取り組み方が変わり、卒業論文の精度がさらに上がっていきます。

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気づかないうちに身につく教養は、総合大学ならでは。

薬学を学ぶ上で、同志社女子大学の英語教育は非常に有益だと思います。私たちの研究室の学生は、実験の手順を知るために英語の論文を読むことが多く、また卒業論文についても、そのまま研究論文として使えるよう、実験手順やデータに関してはすべて英語で書きます。本学の充実した英語教育のカリキュラムは、学生にとって大きな力になります。

また、キャンパスでは毎朝チャペルアワー(礼拝)が行われ、音楽学科の学生が奏でる音楽を耳にし、メディア創造学科の学生のクリエイティブな作品を目にして、留学経験のある国際教養学科の学生たちと交流を持つこともあるでしょう。そうした学生生活を通して、気づかないうちに身につく教養は、医療の担い手を目指すにあたり人としての基盤となるはずです。豊かな心を育むキャンパスで、社会貢献につながる研究活動に大いに力を注いでほしいと思います。

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受験生のみなさんへ

薬を合成するための有機化学は、薬学そのものです。薬を服用すると病気が治るのはなぜか、どうしてその薬が効くのかを原子レベルで考え、構造式を紙に書いて具体的に解釈し、説明できる面白さがあります。もちろん、すべてを明らかにするのは難しいのですが、明確に原子レベルで物事を考えることができる、手応えのある学問分野です。

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山本 康友准教授

薬学部 医療薬学科 [ 研究テーマ ] 高い反応性を持つ化学種の構造研究と不斉反応への応用

研究者データベース

卒業論文一覧

dwcla TALK

卒業論文テーマ例

  • アキラルジアミドの分子集合によるキラル超分子ゲル形成
  • アンモニウム中心連結型トリアミドのゲル化機能
  • 末端にアミノ基を導入した直鎖ジアミド分子の分子集合とゲル化機能
  • ゲル化により糖を検出するセンサー分子の合成研究
  • 睡眠改善物質oxypinnatanine誘導体の合成研究
  • Oxypinnatanineのフラン部分の合成研究
  • Longitubanine A 誘導体の合成研究
  • ホスファゼン塩基によるヒドロアミノ化反応の開発
  • ホスファゼン塩基触媒によるアルケンの分子内ヒドロアルコキシ化反応
  • マイクロ波照射条件による触媒的分子内ヒドロアミノ化反応
  • 段階的ヒドロアミノ化によるjavaberine Aのラセミ全合成
  • Javaberine Aの不斉全合成と8位ベンジル基の立体選択的構築
  • (S)-laudanosineのN-脱メチル化
  • CoralydineおよびO-methylcorytenchirineの全合成
  • 脂肪族α,β-不飽和エステルに対するリチウムアミドの不斉共役付加-環化反応
  • 3-(1-ナフチル)アクリル酸エステルへの不斉アザマイケル付加―環化反応
  • 超原子価ヨウ素触媒によるフェノールの酸化的カップリング反応
  • アザマイケル付加-カルボ亜鉛化タンデム環化反応
  • ω-アルケニルGrignardの付加-酸化によるワンポット複素環合成