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教員が語る同志社女子大学の学び

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「保健師」
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「まちづくり」

すき間ない地域の支援で
孤立する親子をサポート。
そのモデルづくりに取り組んでいます。

看護学科

高城 智圭教授

こどもの虐待予防をテーマにNPOとの活動・研究を展開。

大きな社会課題のひとつである、こどもの虐待。その背景には、親の孤立が相当数あり、虐待予防には親の孤立を防ぐことが重要だと言われています。そこでカギになるのが地域住民です。行政の医療・福祉といった専門家と連携し、地域でのすき間ない支援がこどもの虐待予防につながると、長年保健師として、母子保健活動を経験した私自身も考えています。

子育て広場など、親子が他者とつながり、親同士が子育ての悩みを吐露できる場は各地域にあります。しかし、さまざまな理由で家の外に出られない親子がいるのです。行政はハイリスクの家庭を優先的に支援せざるをえないため、専門職による支援の手が届かない、外に出られない親子はさらに孤立してしまいます。

そうした家庭を地域で支える施策として、1973年からイギリスで始まったのが「ホームスタート」です。研修を受けた子育て経験者であるボランティアが家庭を訪問し、親子に寄り添うことで虐待予防の成果を上げており、世界22か国で取り組まれています(2024年時点)。日本でも2006年にホームスタート・ジャパンが立ち上がりました(2009年特定非営利活動法人認証)。2024年現在、全国32都道府県まで活動が広がっており、私はこの団体の理事を務めています。

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イギリスを始め、諸外国の「ホームスタート」は、既に子どもがいる家庭を対象としていますが、ホームスタート・ジャパンの特徴は、出産後からではなく、妊娠中から切れ目ない支援を行うことです。産後1か月はお母さんが心身共に大変な時期で、この期間に虐待で亡くなるこどもがいるほど。そのため、出産してからの支援では間に合いません。産前から地域とつながり相談先がわかっていれば、産後のつらい時期にSOSを出すこともできます。
ボランティアが妊娠期から家庭をサポートするためには、イギリスの研修内容だけでは足りません。そこでホームスタート・ジャパンでは、日本独自の研修内容として、産前産後支援のボランティア養成講座のマニュアルを作成しました。私はその作成に携わるとともに、ボランティアをまとめるコーディネーター向けの講座で講師も担っています。

私が「ホームスタート」と出合ったのは、こどもの虐待予防の研究を始めたころで、ちょうどホームスタート・ジャパンが動き出した時期でした。その後、国が妊娠出産包括支援モデル事業、すなわち妊娠期からの切れ目ないサポートを始めた2015年に、ホームスタート・ジャパンでも妊娠期からの支援を検討し始めたことをきっかけに、「ホームスタート」に携わるようになりました。
現在はホームスタート・ジャパンに関わり、各地での取り組み事例を調査しながら、行政の立場である保健師と地域ボランティアがどう連携していくのがよいか、そのモデルづくりを研究しています。連携の具体例を「見える化」することで、こどもの虐待防止に貢献したいと考えています。

「ホームスタート」のボランティアは、福祉や医療の専門職である必要はありません。子育て経験者であるからこそできる傾聴と協働の2本柱で活動します。ピアサポートとも言いますが、最近は、かつて支援を受けた人が、今度は支援する側にまわるなど、保健師をはじめ行政と連携しながら、よい循環によって地域が活性化されていく事例が生まれています。

保健師はまちづくりの担い手だと、私は考えています。英語ではパブリック・ヘルス・ナース。コロナ禍で注目されたような個人の支援と同時に、地域全体の健康課題を捉えて支援します。地域で潜在化している課題を探り出し顕在化することで、住民が健康課題に気づき、解決しようと立ちあがっていく。そのプロセスを支援するのが保健師です。そうした「まちが揺れる」経験を、私も保健師時代に何度も味わい、現在の研究の土台にもなっています。

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自分の関心事を研究という形でまとめる、大切な学び・経験です。

「公衆衛生看護学」のゼミは、私を含めて3人の教員が担当しており、国際保健、学校保健、公衆衛生看護の3分野があります。
公衆衛生看護学は生活と健康の支援なので、それらに関わる、学生が関心を持ったどんなテーマも大歓迎です。自らが深く考え事象を明らかにする研究のプロセスを踏んでいくことを大事にしたいと考えています。

こうした自分の興味関心を研究という形でまとめていく経験は、卒業後、看護師になったときにも生きてきます。多くの病院では、入職3年目ぐらいに看護研究という卒業研究のような課題が課されます。その時に、学生時代の着眼点や研究手法がとても役に立ちます。

看護学部には、看護職になることを目標に入学してくる学生がほとんどですが、中には目標が曖昧なまま入学してくる学生や、入学後に目標を見失いそうになっている学生もいます。そんな学生には、私自身のことも伝えています。高校卒業後、当時はめずらしかった4年制大学の看護学科に進んだものの、将来は看護師になるつもりはありませんでした。それでも看護学科に進学した理由は、看護学を学んでおくと、病気、子育て、介護のことなど、一人の人として生きていく上で必要な知識や技術が身につくだろうと考えたからです。大学卒業後のことは、何もイメージしていませんでした。

ところが大学4年生の5月に保健師の実習に参加し、考えが変わりました。訪問したのはその年の春に入学した小学生のこどもがいる家庭。保健師の家庭訪問の対象は、就学前のこどもだけだと思い込んでいた私は、驚きました。実は訪問先のこどもには障害があり、生まれた時からずっと保健師が支援をしていたのです。そして入学後の学校生活について、こどもとお母さん、校長、養護教諭、担任、保健師との話し合いが行われ、そこに私も参加させてもらいました。支援の輪をつなげて、地域のこどもを地域で見守る、それをコーディネートする保健師はすごい。この仕事に就きたい。進路が決まりました。そんな保健師の仕事の魅力を、学生にも伝えつつ、覚悟を決めて、一つ一つ、目の前のことにがんばって取り組んでいけば、素敵な出会い(出合い)があるかもしれないよと少し背中を押してみたりもしています。

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地域をあげて学生を応援してくれる、恵まれた環境です。

同志社女子大学の「キリスト教主義」「国際主義」「リベラル・アーツ」の3つの教育理念は、まさしく看護学のことを指している、と私は考えています。
看護学に大切な、人を理解しようとすること。そして目の前にいる人が何に困っているか、どう思っているか、宗教や文化の違いを超えて関心を持つことは、「キリスト教主義」「国際主義」の考え方と同じです。自分に何ができるかを考えて行動するためには、幅広い知識や教養、すなわち「リベラル・アーツ」が必要です。

そうした教育理念のもと、教職員のきめ細やかなサポートを得て懸命に学んでいるからでしょう、実習先の施設では、本学の学生の誠実さやひたむきな姿勢をほめていただくことがとても多いです。
最近の保健センター実習でも「同志社女子大学の学生さんは、学ぼうという意欲がとても強い」と保健師の方に驚かれました。また乳幼児健診の場面では、看護師の方から「同志社女子大学の学生さんは、子育て中のお母さんとの距離のとり方がとてもいいですね」と感心されました。人とのよりよい距離の取り方には、観察力と想像力、行動力が必要で、本学の学生はそうした力をしっかりと培っているのだと、うれしくなります。

学内だけでなく、学外とくに地域で学生の学びを応援してくれる環境が整っていることも本学の特長です。実習や保健師活動の見学など、京田辺市をはじめ地域をあげて学生の活動や挑戦を応援してくれています。地域に開かれた大学で、地域に支えられた大学で学べるのは、大変恵まれています。

附属病院がないため、多様な病院で実習に参加するのは大変ですが、自分が将来どんな病院で働きたいかを考えられる絶好の機会になります。病院見学だけではわからない、院内の様子や看護の考え方を実習で知ることができるのは、進路を決めるうえで大切な判断基準になります。こうした経験を生かして、自分が本当にやってみたいこと、挑戦したい道を見つけ出してほしいと思います。

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受験生のみなさんへ

看護学を学ぶことは、将来、さまざまな道でのキャリアアップにつながります。看護師、保健師、助産師、養護教諭はもちろん、専門看護師を目指す、あるいは福祉等、医療や保健以外の分野に進んで能力を発揮することもできます。多くの可能性を秘めた看護学を、同志社女子大学という総合大学で学ぶ面白さを経験してください。

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高城 智圭教授

看護学部 看護学科 [ 研究分野 ] 住民ボランティアと保健師との協働による虐待予防、
保健師の実践能力向上のプログラム開発

研究者データベース

卒業論文一覧

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卒業論文テーマ例

  • D大学看護学生における生活習慣と主観的健康状態・主観的健康感の関連性
  • 4年生からみた各学年におけるストレスの内容、大きさ、コーピング方法
  • 本学の看護学生4年生の生活習慣とPMSの程度の関連
  • 看護学実習中の生活習慣・ストレスと体重の関連性
  • D大学看護学生の臨地実習経験による日常生活の手指消毒への意識・行動の影響
  • 本学の看護学生のダイエット方法の取得方法及びその情報の信用要因の実態
  • D大学看護学生の防災意識とその関連要因
  • 退院支援の中で看護師が行う、感染症予防を目的とした患者教育についての文献レビュー
  • スピリチュアルケアの看護実践に関する文献レビュー