「こころ」
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「伴走」
関わり方ひとつで
患者さんの表情が変化していく
精神看護のやりがいです。
看護学科
木村 洋子准教授
うつ病を持つ人と家族の支援について研究を続けています。
ストレスの多い現代社会においては、うつ病、パニック障害、摂食障害など、こころの病気を抱える患者さんは増えており、精神看護の重要性が増しています。このように例として挙げた中でも、こころの病気にはさまざまな症状や治療法があります。
こころの病気は、患者さんが自らの病を受け止めて、その人らしく、共に生きていく、ということがとても重要です。
精神科の看護師には、一般科の看護師が行う医療行為に加え、より専門性の高いコミュニケーションによるこころのケアが求められます。患者さんの気持ちを理解して抱えている問題を整理し、一緒に考えていくといった寄り添いが必要です。
例えば骨折をして外科病棟に入院した場合、看護師はベッドサイドで体温や血圧を測定し「食事は摂れましたか」といった確認をします。しかし、精神科の場合は「昨日は少し寂しそうな表情をしていたけれど、どうですか」そんな会話を交わします。摂食障害の患者さんには食事を摂ってほしいけれども、看護師は急かしません。細やかに患者さんを観察し、一人ひとりのペースに合わせ、まるで伴走するかのようなイメージです。
私も精神科の病棟で臨床経験を積み、その後は大学院で研究を始めました。臨床現場の課題として、患者さん家族のサポート不足を感じていたことから、うつ病を持つ人と家族への支援をテーマに博士の研究に取り組みました。
うつ病は体調の波によって患者さんはもちろん、家族も翻弄されます。ところが私が研究に着手した2000年当時は、家族に対するケアが十分に行われておらず、サポート方法も確立されていませんでした。事前インタビューを行うと、「本人が自分の病気を受け入れられず、家族としてどうすればよいかわからない」、「家族が相談できる相手がいないので苦しい」という声が集まりました。
そこで当時の医学部教授のサポートのもと、医療ソーシャルワーカーと病棟看護師と共に、外来の患者さんを中心に「家族教室」を開く機会を得ました。
まずは疾患と治療についてご家族にしっかりと理解していただき、治療の過程で悩みを聞きながら問題を一緒に考えていくなど、ご家族に伴走していけるような仕組みを作りました。医局内の教室であり、主治医から紹介してもらうことでご家族も安心して利用いただくことができました。
回を重ねることでご家族からは「絡まっていた糸をほぐしてもらったように感じる」、「本人との距離の取り方がわかるようになった」といった声があり、家族の変化によって、ご本人にも良い変化がありました。
また、夫、妻、子ども、親、家族の中で誰がうつ病を抱えているかによって、立場が違えば家族の受け止め方や必要な支援が異なることもわかりました。これら研究結果を論文にまとめ、また精神疾患に関する共著も執筆してきました。
国の施策により精神病床の平均在院日数が短くなる一方、家族形態の変化が進む最近では、地域で患者さんを支える流れへと変わってきています。地域の受け皿整備が進んでいる最中で、デイケアや訪問看護ステーションにおける患者さんのサポートが中心に行われています。
そこで私も、訪問看護ステーションからの協力を得て、新たにうつ病を抱える患者さんの復職支援にも取り組み始めました。休職が長引くと復職のハードルが高くなり、退職してしまえば経済的に立ちゆかなくなるため、生活リズムを整えながらのサポートについて実践と研究を続けています。
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授業・実習・卒業研究を通して、学びを確かな実践力に高めていきます。
看護におけるコミュニケーションは傾聴と共感が基本ですが、精神看護はそこからさらに進んで、患者さんが1歩を踏み出せるような関わりが必要です。
患者さんが抱える問題を看護師が解決するのではなく、患者さんが自分で答えを導き出せるように関わります。声かけひとつ、まなざしひとつで患者さんが変化していく様子を見ることができるのが精神看護のやりがいだと思います。
精神看護の基本は教科書で学びますが、臨床現場ではテキストに書かれていない諸課題が発生します。そこで授業では学生に対して「こういう場面ではどう考えるか」「こんなときはどう対応するか」といった問いかけをしています。
授業中に答えが見つからなくても、考える時間を持つことが大事であり、仲間の答えを聞くことで自分の発想を広げていくことを重視しています。そうして考えを深め、3年生で行う臨地実習で経験するひとつひとつがさらに豊かなものにしてくれます。
実習参加前の学生に精神科のイメージをたずねると、「関わったことがないのでわからない」という声がほとんどです。しかし実習後に同じ質問をすると、反応は大きく変わります。
「精神疾患はだれにでも罹る可能性があるとわかった」、「身近な病気だとわかった」そんな声が増えます。だからこそ現場での体験を意識づけし、学びを確かな技術・知識に結び付けられるよう、実習後の振り返りを大切にしています。
実習で精神看護に興味を持ち、患者さんの話をじっくり聞きたいと精神看護の道に進んだ卒業生もいます。患者さんに伴走できる看護師は、どんな診療科でも対応できると思います。
また、地域で患者さんを支える仕組みづくりが進むなか、病院だけでなく、訪問看護ステーションをはじめとしたさまざまな分野で精神を専門とする看護師の活躍の場は広がっています。
「精神看護学領域」である私の研究室では、うつ病を持つ人と家族への支援をテーマに掲げていますが、学生の卒業研究のテーマは多彩です。
子宮がんの再発について、がん治療後に子どもを持てるかどうかの不安や病気の受け止め方、それらをどうサポートしていくかなど、学生それぞれが関心のある内容や実習で得た気づきなど、自律的にテーマを設定します。
文献研究が中心になるのですが、まず文献を調査して先行研究のレビューやデータ収集をする段階までを丁寧に指導します。学生はそれらをすべて終えてから執筆に着手します。正しいプロセスを踏み、論文執筆に取り組む力を身につけてほしいと考えるからです。
看護研究は、臨床の現場に出てからも求められることがあるので、学生時代に研究に取り組んだ経験はその能力を発揮することができるでしょう。また特定の分野において専門性の高い優れた看護実践能力がある者として、日本看護協会より認められる専門看護師を目指すことにもつながります。学生たちは意欲的に卒業研究に取り組んでいます。
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本学は、学生時代に豊かな教養を身につけることのできる大学です。
看護職者がさまざまな患者さんと関わるときに、幅広い知識・教養を持っていることはとても大切です。そのためにも、それらを身につけて豊かな人間性を育むことができるのが学生時代だと思います。
その点、140年以上の伝統を誇る女子総合大学、同志社女子大学で学生時代を過ごせるのは幸運ではないでしょうか。同じキャンパスに音楽学科や社会システム学科、医療系では薬学部など多様な学部学科があり、この豊かな環境のもとでおおいに人間性を磨いてほしいと思います。
また、実習指導をしていて感じるのが女子大学であることの良さです。男子の目を意識することなく素直に自分の考えを仲間に伝え、互いに切磋琢磨できていると感じます。
私はチアリーダー部の顧問をしているのですが、本学の学生の粘り強さにはいつも感心しています。コロナ禍で課外活動に制限がかかるなか、オンラインを活用して工夫しながら練習を続け、感染予防策もよく考えて活動をしていました。そうした大変な思いをした学生が発表会で素晴らしい演技を見せてくれたときは、胸が熱くなりました。
地道な努力と果敢な挑戦を重ねてきた彼女たちが、社会に出てからも大きく羽ばたいてくれると確信しています。
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受験生のみなさんへ
看護職のやりがいは、常に人と一緒に時間を過ごすことではないかと思います。患者さんが治療を受けるなかで、看護職者がいろいろな関わりをもつことで回復が促進されます。その変化を見られるのが看護の醍醐味です。看護の面白さを一緒に学んでいきましょう。
卒業論文テーマ例
- 保健室登校の児童生徒に対する養護教諭の支援
- 乳がん患者の看護に関する文献検討―心理面の看護に焦点を当ててー
- 若年性脊髄損傷者の心理面への看護実践についての文献検討
―H・Eペプロウの人間関係の看護論を利用してー - 子宮全摘出手術を受ける子宮がん患者の入院期における心理状態の分析
―若年期で未妊娠女性の闘病記を分析してー - 地域住民による精神障害者への偏見につながるイメージに関する文献検討
- 大人になって発達障害と診断された人の体験に関する研究
- 救急で行われる自殺企図患者への看護に関する文献検討
- 地域で生活する統合失調症患者の生活上のニーズに関する文献研究
- 統合失調症を有する母親の育児への思いと必要な育児支援について
- 子どもの神経性食欲不振症患者の家族に対する支援についての推察
- 新人看護師のストレスについて
- 精神科病棟で入院するうつ病患者が抱く退院への思い
- 統合失調症患者の母親の思いについての検討―初発と再発の比較からー
- 地域で生活する統合失調所患者に対する訪問看護の支援内容について
- 児童生徒の不登校に至る原因の背景
- うつ病患者の家族の思いと求める看護
- 急性期病院で必要とされる認知症患者への看護実践
- 一般病棟における終末期にある患者の精神面に対する看護実践
- H S P(Highly sensitive person)の日常生活の特徴
- 病棟看護師の離職理由