「疫学」
×
「行動」
×
「予防」
社会を通して個人を見て、
個人から社会を考える。
医療職には大切な視点です。
看護学科
萩本 明子准教授
喫煙に関する行動変容を研究しています。
私の担当科目や研究分野は小児看護学と疫学になります。
そこで、疫学と看護のつながりについてお話ししたいと思います。
がんや脳卒中などの生活習慣病をはじめ、さまざまな疾病の危険因子として知られているのが喫煙です。40歳から74歳の人を対象に、生活習慣を改善し、生活習慣病を予防するために実施される特定保健指導においても、喫煙への指導が強化されています。
喫煙による健康被害の大きさが広く認知、政策に反映され、国内では喫煙率が減少傾向にあります。こうした背景には、多くの疫学研究の成果があります。代表的なものがコホート研究で、特定の集団を長期間追跡し、生活習慣などの要因と疾病発症の関係を解明するために調査を行います。どんな要因を持つ人が、どういった疾病に罹患しやすいかを究明し、因果関係の推定を目的とした分析疫学の手法のひとつです。
私は大学院時代から、禁煙をテーマに研究を続けており、コホート研究にも参加してきました。紙たばこに関するエビデンスは相当蓄積され、研究結果が通称『たばこ白書』の作成や政策提言につながるなど、社会の動きに還元できていると思います。
最近は、欧米では電子たばこ、日本では加熱式たばこが売り出されています。これらの新しい形態のたばこは発売されてから日が浅く、紙たばこほど研究が進んでいません。エビデンスを積み上げるために研究チームが立ち上がっており、私もひとつのチームに加わり研究に参加しています。
共同研究により、加熱式たばこを吸っている人を集めてコホート調査を実施。加熱式たばこの使用状況や禁煙への意向、禁煙行動などの変化について追跡調査をし、データ分析をしています。
たばこ会社は、加熱式たばこは紙たばこに比べて有害物質の数も量も少ないとしており、紙たばこをやめるまでの移行措置として加熱式たばこを使えるのではないか、という意見を持つ人もいます。一方、紙たばこと加熱式たばこでは燃焼のさせ方が異なるため、有害性の比較のエビデンスがないまま、安易に加熱式たばこを推奨するのはよくない、という考えもあります。いずれにしろ加熱式たばこのエビデンスの積み上げは、社会的に重要な課題となっています。
こうした研究は、人の行動変容に関わる研究であり、看護の側面から見ると「予防医療」の1次予防、すなわち病気にならず健康に歳を取っていくにはどうしたらよいかという考え方につながっています。超高齢社会の今、医療の世界では、早期に病気を発見して治療する2次予防だけでなく、1次予防が注目されており、健康な状態をできるだけ長く保つために、禁煙や食生活・運動習慣の是正といった行動変容が重視されています。健康に長生きするために行う「予防医療」が、対象の生活や生き方を支える看護の視点からも重要になっています。
私は、看護とは患者さん一人ひとりに寄り添い、患者さんの生き方に伴走して支えることだと考えています。そのためには、看護や医療に対する知識だけでなく、様々な分野の知識や教養が必要だと実感しています。また、看護では、患者さんという個を通して、社会を見ます。一方、疫学は疾病を数量的に扱い、社会という集団の健康維持を実践する公衆衛生学の分野です。すなわち社会(集団)を通して、個を見ることです。
医療には、個から社会を見る、社会から個を見る、両方の視点が必要だと考えています。その両方があってこそ、医療者は冷静にものごとを考えられるのではないかと思っています。
Read More
「母子と家族」について、各々関心を持つ課題で卒業研究に取り組みます。
多くの人がイメージする“病棟の白衣の天使”だけが、看護学を学んだ人のキャリアではありません。実際に私の仲間でも、看護師として臨床現場で活躍している人だけでなく、海外で働く人、研究者や教員になった人など、それぞれのキャリアを進んでいます。企業が医療の知識を持つ人材を求めるいま、本学科の卒業生でも一般企業に就職した人がいます。世の中のイメージ以上に、看護学科で学んだ人のキャリア形成は自由度が高いと思います。
私自身も、です。看護学を学んだ後、助産師免許を取得し、産科をはじめ数年間臨床現場で働き、大学の助手として看護教育にも携わりました。しかし、まだまだ知識も技術も足らず、もっと研鑚を積みたいと考えて修士・博士課程に進みました。そして非常勤で仕事を続けながら、研究に力を注ぐことができました。現在は本学科の小児看護学領域で、概論科目や各論科目、学外実習の指導を担当し、保健師科目では疫学の授業も担っています。
そんな私のゼミでは、小児看護学を担当していることもあり、「子どもと家族」及びそれを取り巻く「看護」をテーマに、学生が卒業研究に取り組んでいます。小児科の看護師や養護教諭、助産師を目指すゼミ生も多く、自分たちが疑問や興味を持ったテーマに真摯に取り組んでいます。
実は小児看護学は、学部での研究が非常に難しい分野です。対象がお子さんであることと、年齢・成長発達によって生理的反応や認知反応が大きく異なり、例えば1歳・5歳・10歳の子どもではまったく違う配慮が必要ですし、異なる結果にもなります。外部組織でのデータ収集も困難なため、ゼミでは文献レビューを中心に考察を深めていきます。
ゼミ生の研究テーマは、若年者のやせについてや、入院中の子どものストレス、子どもが在宅医療へ移行するときの母親の心理的な反応、NICUについてなど、さまざまです。
課題設定は学生の興味関心を尊重しています。研究は地道な積み上げとテーマに真摯に向き合う姿勢が必要で、雑多な作業もあるため、学生がやる気になれる課題設定をサポートしています。
本学のように卒業研究や看護研究の単位をどこの大学も設けていますが、目標設定は大学によって異なります。本学の場合は4年次の春学期に研究計画書を作成し、年内で集中して研究をするなど高い目標設定を掲げています。学生にとっては大変ですが、授業や実習では得難い、研究への取り組みや考え方が将来おおいに生きてくると思います。
多くの病院では、入職から数年後に「現場の課題をどう解決するか」といった看護研究が教育プランに組み込まれています。ゼミでの経験を生かし、課題解決の方法論を駆使して解釈を深める、その課題解決能力は臨床現場で発揮できると思います。
Read More
多様な病院での学外実習は、一人ひとりの貴重な財産になります。
本学では、規模や役割が異なる病院・施設に学外実習の受け入れをしていただいていることから、学生は実に多様な経験を積むことができます。例えば同じ小児科でも、病院の規模・役割によって受け持つ患者さんの病状などはまったく異なります。各病院・施設から同志社女子大学に対して信頼をいただいている、そのありがたさを感じます。
大学病院のみならず、がん専門など特定の疾病に対する役割をもった病院や地域医療を担う病院などを学生のうちから知ることができるのは、将来のキャリアを考えるうえでも、とても良い経験になり、学生一人ひとりの貴重な財産になっています。
キャンパスから少し足を伸ばすと著名な寺社仏閣があり、桜や紅葉の名所も多く、季節の移ろいを日常的に感じます。京都出身ではない私にとっては、本当に恵まれた環境だと思います。看護職は人と向き合う仕事ですから、ただ専門性を追究すればよいわけではありません。治療法や病気に関する医療的な知識・技術に加えて、さまざまな患者さんとコミュニケーションがとれる教養や人間性が問われます。本学の教育理念のひとつであるリベラル・アーツのもと、総合大学である本学で幅広い知識を身につけ、また京都という恵まれた環境で豊かな感性を磨いてほしいと思います。
Read More
受験生のみなさんへ
目標達成に向かう患者さんを支えていくのが看護職です。他者の自己実現に向けて伴走できるプロになる、そうした視点を持っておく必要があります。また、人を対象とし、命とかかわり、様々な職種と協力し合う仕事ですから、コミュニケーション能力と冷静な判断力、責任を負う覚悟は何より大切です。今はまだできなくても、努力と訓練で伸ばすことはできると思います。
卒業論文テーマ例
- NICU退院後に母親が持つ不安・困難感についての文献検討
- 医療的ケアを必要とする子どもを持つ母親の思いについての文献検討
- 医療的ケアを必要とする子どもの母親が在宅移行時に抱く不安・困難感についての文献検討
- 重症心身障害児の母親がたどる受容過程と受容に必要な要因
- 在宅療養を行う重症心身障害児(者)を持つ母親の困難感についての文献検討
- 中高生の小児がん患者が抱える復学に関する不安と課題についての文献検討
- 学童期、思春期にある先天性心疾患児の疾患理解と患児の思いの文献検討
- 小児がん経験者の晩期合併症が社会生活に及ぼす影響についての文献検討
- 入院中の幼児期の子どもに対する遊びの援助の現状と問題点についての文献検討
- 学童期以降の子どもが入院中に抱えるストレスとその対処法に関する文献検討
- 乳幼児期の入院による母子分離状態がもたらす子どもの変化に対する文献検討
- 終末期にある小児がんの子どもとその家族への支援を行う看護師が抱く葛藤に関する文献検討
- 小児がんを持つ子どものきょうだいがおかれている現状に関する文献検討
- 子ども虐待と子育て中の母親が抱える育児困難についての文献検討
- 自閉症スペクトラム障害の子どもをもつ保護者の生活上の不安や困難についての文献検討
- 小学校高学年・中学生のやせ志向・体型認識の文献検討
- 乳児院看護師の医療的ケア児に対する専門的関わり及び養育に関する文献検討
- 看護学生は実習前後で重症心身障害児(者)に対して印象がどのように変化するのか
- 自閉症スペクトラム障害に対する理解度・認識またはイメージについての調査
~看護学生を対象として~