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教員が語る同志社女子大学の学び

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「アート」
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「科学」

患者さんが安全に
より安楽に過ごせる
看護技術を追究しています。

看護学科

木村 静准教授

オリジナルな看護技術の開発に向けて科学的検証を進めています。

すべての患者さんに、安全で安楽に過ごしていただくためには、体の向き(体位)を変えたり、身体を洗うといった基礎的な看護技術が欠かせません。患者さんの日常生活をケアするこれら技術は、疾病や診療科を問わず求められます。
私は看護を学び始めた大学時代、看護技術について「マニュアル通り、ひと通りの手順を踏めばよいのでは」と勝手なイメージを持っていました。しかし、看護技術の指導教員に出会い、その面白さと奥深さに魅せられました。「先生に学びたい」と思い、恩師のもとで約10年間を過ごし、現在はその時に共に学んだ仲間とのグループで研究を続けています。

看護技術の「技術」を英訳すると、テクニックやスキルにもなりますが、恩師はアートと捉えることが大切であると教えてくれました。確かにartには技術の意味もあり、フローレンス・ナイチンゲールも看護を科学的で創造性に富んだ「アート」だと表現しました。
25年間、研究を続けてきた私も、アートであることを実感しています。通り一遍ではなく、工夫次第で技術を進化させることができ、患者さんの役に立てる。科学的な視点から新たな方法を創造し、オリジナル技術を開発する、アートの醍醐味を感じています。

研究グループでは、患者さんに少しでも楽になっていただける姿勢や援助方法、看護師の身体的負担を軽くする技術の探究を目指し、プロセスを踏んで検証を進めています。
まず自分たちで考案した方法について、グループ内で実験をし、さまざまな科学的データをとっていきます。たとえば、体位を変える看護技術がありますが、患者さんの体のどこを持ち、どう体の向きを変えてさしあげれば、患者さんがいちばん楽かを検証します。患者役と看護師役のそれぞれの研究者の体にセンサーをとりつけて筋電図や心電図のデータを収集し、どの方法がいちばん体に負荷が少ないのかを数値化していきます。
実験結果をグループでディスカッションすると、仮説が必ずしも正しいわけではなく、ひとつの技術を開発するには数年要することからも、看護技術の奥深さを感じます。

こうした研究グループでの検討を経て、健康な若年者、次いで健康な高齢者に協力いただき、最終的には病院に入院しておられる患者様を対象とし検証します。その後、技術の科学的検証ができれば公表し、実際の臨床や在宅でのケアに活かしていただきたいと考えています。現在、私は髪を洗う看護技術を中心に研究を続けており、その成果を学術論文や学会発表にて公表しています。

重視しているのは科学的検証であり、根拠です。「なんとなくよいだろう」ではなく、データをもとにした技術の追求を25年間続けています。そして、人との出会いも大切にしてきました。恩師はもちろんのこと、研究グループの仲間、学生一人ひとりとの一期一会をかみしめて研究を続けていくことが、出会った人たちへの恩返しにつながるのではないかと考えています。

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学生個々が持つ技術への問いに対し、実験・検証を行うゼミです。

看護技術は看護の礎であり、私が授業を担当する基礎看護技術は1年次から始まります。大学入学直後で学びのベースがそれぞれ異なる学生がいるなか、だれもがわかる丁寧な指導、一人ひとりが看護に関心を持てる授業を心がけています。
基礎看護技術の授業は2年次の春学期に終了しますが、4年次になってから私の「看護技術の科学的検証」ゼミを希望してきてくれる学生がいることをうれしく思っています。

学生は3年次から病院実習に参加し、大学で学んだ看護技術とは異なる技術を医療現場で経験をします。「なぜ病院ではこの方法をとっていたのか」、「授業で学んだ方法と何が違うのか」といった疑問をもち、ゼミに来てくれます。そのためゼミでは、実習で経験した方法と大学で学ぶ方法の両方を実験し、科学的根拠にもとづいて比較していきます。

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まず、それぞれの疑問を持ち寄ってディスカッションをし、何がどう違ったのかを明確にして分析作業を行います。体位の変換や足をお湯につける足浴など、学生が関心を持っている技術が異なり、各人の興味の対象を大切にしながら、実験方法を組み立てていきます。
たとえば、病院でベッドに寝ているとどうしても体がずれてしまうので、ベッドの上の方へ体を引き上げるケアが必要になります。患者さんの横から体を持ち上げるのが一般的ですが、ある実習先では脇の下に手を入れて体を引き上げていたと学生が言います。そこで、この2つの動作を患者役と看護師役になりどちらの方法がより楽か、筋電図や心電図をつけて測定し、実験をします。こうして各人のテーマで実験を重ね、卒業論文にまとめていきます。

自立的に問いをもち、科学的根拠をもとに検証をして考察を深めていく。臨床現場に出る前の学生時代に、こうした経験をすることはとても重要だと思います。「みんなはこのやり方をしているけれども、この方法が果たしてよいのか」と常に疑問を持つことでこそ、新しいものが生まれてきます。私は模倣で終わる人を育てたくはないと思っています。
卒業生は実習施設に勤務している学生も多く、実習指導を担当する本学科の教員から卒業生のがんばりを聞いています。最初の数年は仕事を覚えるだけで精一杯ですが、5年、10年経ってから自立的に問いをもち、よりよい看護技術の探索に取り組んでくれるものと期待しています。

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本学のリベラル・アーツは、ナーシング・アートにつながると思います。

同志社女子大学ではリベラル・アーツの教育理念のもと、幅広い知識と技能、柔軟な思考力、そして新しい価値を創造する力を育むことを教育の柱としています。「どんな看護を実践すれば患者さんの安楽を支えられるのか。」新しいケアの方法やオリジナル技術を開発するナーシング・アートを体現していくにはまさにこのリベラル・アーツの考え方が大切になってくるのだと思います。本学で学ぶ4年間でその本質に触れ、臨床の現場に出られてからも未知を探求する姿勢を持ち続けてほしいと思います。

本学の学生は、様々な経験を通してバランス感覚の備わった女性が多いと感じます。そうした人がもつ笑顔のやわらかさや柔軟なコミュニケーション力は、看護師という対人援助職に重要な資質だと思います。そうした学生を指導する私たち教員も、一人ひとりを大切に、しっかりと育てていきたいと思っています。

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受験生のみなさんへ

人の生命に関わる仕事ですから、やはり覚悟をもって学んでほしいと思います。人のために何かをしたいという意志と、人に対する誠実さが求められます。看護実践能力は、知識・技術・態度の3要素で構成されると言われますが、態度とは誠実さだと思います。いつでも身につけられる知識・技術とはまた違った、何より大切な要素ではないかと考えます。

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木村 静准教授

看護学部 看護学科 [ 研究テーマ ] 看護技術の科学的検証

研究者データベース

卒業論文一覧

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卒業論文テーマ例

  • 上方移動援助方法の違いが対象者の心身に及ぼす影響
    ―上腕の筋電図と主観評価からみた検討―
  • 仰臥位から側臥位への体位変換時の背抜きの有無が、体圧に及ぼす影響について
  • 熱布清拭が対象者の心理面へ及ぼす影響について
    ―心電図、POMS尺度からみた検討―
  • 背面の熱布清拭時におけるバルタオルの使用の有無が、背部の皮膚表面温度と主観的な温度感覚に及ぼす影響の検証
  • 2時間の仰臥位姿勢保持が寝床気候と患者の安楽に与える影響
  • 2時間の同一体位が対象者の心理面へ及ぼす影響
    ―臥床体位の違いからみた検討―
  • 2時間の臥床体位の保持が心身に及ぼす影響
    ―血圧、脈拍、心理アンケートからみた検討―
  • 転倒予防を目指した環境整備についての文献検討
  • 看護援助におけるボディメカニクスの活用が看護師の腰痛予防に及ぼす効果に関する文献検討
  • 口腔ケアを拒否する高齢者に対して行う有効なアプローチに関する検討
    ―口腔ケアの援助方法とその受け入れ状況からみた文献レビュー―
  • 睡眠障害の患者に対して行う看護ケアとその有効性に関する文献検討
  • 褥瘡予防のためのポジショニングに関する文献検討