「国際」
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「保健」
異文化背景を
持つ人たちの健康支援を
共に考えていきましょう。
看護学科
橋本 秀実准教授
アフリカ・セネガルでの母子保健活動が出発点です。
新型コロナウイルス感染症に象徴されるように、世界的な視野で健康問題を考えることは不可欠となっています。すなわち「国際保健」です。世界の人々の健康と保健医療への理解を深め、健康に影響を及ぼすさまざまな要因を追究する領域。なかでも私は、文化的背景の異なる患者さんへの看護である「異文化看護」を専門としています。
例えば、在日外国人の方々の健康に焦点を当て、在日ブラジル人のお母さんのヘルスリテラシーを図る方法を開発し、ヘルスリテラシーの影響要因や保健行動との関連についての研究を行いました。ヘルスリテラシーとは、健康について適切な判断をするために必要な健康情報やサービスを入手し、理解する能力のことです。
調査・研究を進めていくと、母国と日本の保健医療の考え方や社会制度の違いにより、育児に困っているお母さんが相当数いる現状が明らかになりました。さらに、乳幼児検診に行っても言葉や文化が異なるため、看護職がどのように保健指導をするかに悩むケースがあることも明らかになりました。
直近では、留学生の健康問題に関する研究を開始したところです。日本人学生が海外に留学した際に、発生しうる女性特有の健康問題や性感染症、性被害の問題。女子学生の健康をどう守っていくかに焦点を当て、「日本人留学生の海外における性行動とその関連要因」をテーマにしています。
私は養護教諭として働いていたこともあり、児童・生徒・学生の健康問題に常に関心を持っています。現在は、目の前にいる女子学生たちが生涯を通じて健康に生きていくために何が必要かを考えたいと思い、このテーマに着目しています。
いずれも「女性の健康」が私の研究の柱です。というのも国際保健を志したのが、青年海外協力隊に参加し、アフリカのセネガルで従事した母子保健活動がきっかけだからです。貧困を背景とした母子保健の問題は、根本にジェンダー不平等があることを知り、その後、南アフリカ共和国で行ったエイズ患者さんの在宅訪問・予防教育でも、同様にジェンダー不平等の課題に突き当たりました。そこで女性を中心とした保健、健康問題を追究したいと考え、国際保健の知識を深めるためにアメリカに渡り、公衆衛生学を学びました。
こうした経験を経て私が考える究極の「異文化看護」とは、価値観を押しつけないことです。海外だから外国籍だからではなく、日本でも育った地域・環境が違えば、価値観・文化は異なります。患者さん個々の人生観・価値観を理解し、尊重することが異文化看護の基本です。世界の医療現場でも日本国内であっても、看護職を目指す学生のみなさんにぜひ理解してもらいたいと考えています。
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多様な価値観に触れることが「異文化看護」の学びです。
授業では「国際保健」や「国際看護活動論」などを担当しています。どちらも講義形式ですが、単に知識の修得を目指すものではなく、グループワークを通して学生個々が考えを深めて仲間と意見交換をし、それを発表するアクティブラーニングを重視しています。
例えば「国際協力はなぜ必要か」をテーマにグループワークを行うと、「日本も少子高齢化など多数の問題があるのに国際協力ができるのか」といった声をはじめ、さまざまな意見が出てきます。正解を得るための議論ではなく、仲間の意見を聞くことで自分を見つめ直す機会とし、同時に多様な価値観への理解を深めてほしいと考えています。
実際の医療の現場では、どうしても目の前の患者さんと病棟・病院の限られた世界で物事を考えがちです。だからこそ、できるだけ広い視野を持ち、世界の中の日本、日本の中の地域について考え、患者さんは一時的に病院にいるのだということを意識できる看護師になってほしいと考えています。それが国際保健の根本につながっていくと思います。
「公衆衛生看護学」をテーマとする私のゼミには教員が3人おり、国際保健、学校保健、地域保健の分野に分かれます。
学生それぞれが自分の興味・関心を寄せるテーマで卒業研究を掘り下げています。女子大生の痩せすぎや対人関係で生じるストレスといった学生にとって身近なテーマから、SDGsやベトナムの伝統的健康管理行動など、グローバルな視点の研究もあります。
ゼミ生の中には養護教諭や保健師を目指す学生もいますが、そういった学生も含め多くは卒業後、看護師として臨床現場に出ます。その後、養護教諭や保健師の道に進む人もいます。
今後、社会のグローバル化が進むと、医療、教育、行政の現場で外国人の方や異文化背景を持つ患者さんに対応する場面が増え、国際保健や異文化看護への理解はさらに重要になってくるでしょう。患者さんの個性を把握し、その人にあった看護を提供する「個別性を重視した看護」を実践するための能力を、授業やゼミを通して身につけてほしいと考えています。
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「この大学だから、あの穏やかな学生さんが育つのですね」。
看護師に求められるのは、専門的な知識・技術、多様な価値観を受け入れる教養、そして「こころ」だと私は考えています。目の前の患者さんに必要なケアを提供するためには、その人のことを真摯に考える「こころ」があってこそ、です。
ところが、知識や技術については教員が指導できても、こころはそうはいかない。こころを育てるのが最も難しいと、これまでの看護師教育を通じて感じています。
幸い、同志社女子大学には教育理念のひとつに「キリスト教主義」が掲げられています。「自らのためだけでなく、他者のために学び生きる」とは、まさに、こころの教育です。教員としては伝えやすく、学生も理解しやすいと思います。実際に本学の学生は、とてもこころの優しい学生が多いと感じています。
共同研究をしている他県在住の先生が、以前「同志社女子大学を見てみたい」と訪ねていらっしゃったことがあります。緑豊かな環境、充実した施設、学生の優しさに感心され「だから、あの穏やかな学生さんたちが育つのですね」とおっしゃいました。
私は、本学看護学部の施設の魅力のひとつに「プラクティカル・サポート・センター」が挙げられると思っています。血圧測定モデルや心肺蘇生モデルをはじめ、自己学習ができる最新の設備がそろっているだけでなく、看護師免許を有するインストラクターの方が常駐してくださるので、学生はいろいろと相談に乗っていただいているようです。教員の私たちにとっても心強く、ありがたい存在です。
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受験生のみなさんへ
コロナ禍で医療従事者にスポットが当たるいま、仕事の大変さと同時に社会にどれだけ必要な存在であるかが浮き彫りになっています。働くうえで厳しい面があるのは事実です。しかし社会に不可欠な、やりがいの大きな職業だということを理解し、志を持った方に看護職を目指していただけたらと思っています。目の前の患者・対象者、そして地域の人々のために、日本の、世界の未来のために、健康の保持増進をはかる専門職を志す皆さんとともに学べることを楽しみにしています。
卒業論文テーマ例
- 大学生の喫煙要因・喫煙防止要因に関する文献検討
- 日本の医療の場におけるムスリム患者への宗教的配慮に関する文献検討
- 女子大生の痩せすぎと健康問題リスクの認知度の関連
- 大学生のSDGsに対する認知・意識・行動について
- 学校における救急処置に関する文献検討
- 青年期における性感染症に対する知識や予防行動の実際について
- 不顕性ノロウイルス感染に関する研究の動向とノロウイルス感染拡大予防策についての考察
- 幼児期の家庭での性教育に関する文献検討
- 終末期の意思決定の際に生じる“自身の場合”と“家族の場合”との選択の相違に関する研究
- ベトナムの伝統的健康管理行動に関する文献検討
- 思春期の子どものストレスと生活習慣の関連性についての文献検討
- 日本の基礎看護テキストにおける異文化看護教育の現状と課題
- 大学生の対人関係で生じるストレスとそのコーピング方法についての文献検討