「作品研究」
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「音楽の価値」
作曲家の想いを現代に翻訳する。
ヴァイオリン奏者としての
役目だと考えています。
音楽学科
山本 裕樹教授
楽曲の研究と、楽器を扱う自分自身の探究を続けています。
私はヴァイオリニストとして演奏のあり方を研究するなかで、「より高みを目指す」ことを大前提に、2つのテーマを掲げています。1つは作品の研究です。ひとくちにクラシック音楽と言っても、作品が書かれた時代や国・文化はそれぞれ異なり、演奏に向けて作品を掘り下げることは不可欠です。
研究の重要な資料が楽譜ですが、例えば日本語が時代によって変化するように、音楽の“文法”も時代によって変わり、18世紀の楽譜を今の文法で読み解くと読み誤りが生じます。
演奏の環境も現代とは異なり、作曲家がどういう意図で作品を書いたか、現代に翻訳をするのが私の役目であり、ステージに立つまでの研究の時間にも幸せを感じます。
テーマの2つ目は、自分自身を掘り下げていくことです。ヴァイオリンは非常にシンプルな作りであるため、奏者の身体そのものとの結びつきが強い楽器です。演奏が上達するには、身体をいかにうまく扱うかによってくるため、自分の身体をよく知り、使い方を探究する必要があります。コンディションは日々変化し、演奏するホールの大きさも異なるなか、どんなときも心身の状態を整え、環境に合わせた演奏ができなければなりません。例えば、雨の日は雨の日らしい演奏が大事だと考えています。未だ自分自身を掘り下げることに懸命で、知れば知るほど学ぶべきことが増え、その大変さと探究の喜びを感じています。
コロナ禍で演奏活動は思うようにできていませんが、これまでは年に一度自ら企画をし、リサイタルを開いてきました。ステージの中心に音楽があり、お客さまとよい時間を共有することを大切にしています。必ず実行しているのが、今まで研究したことのなかった作品を1年かけて掘り下げ、発表することです。論文発表のようで緊張しますが、毎回新たな発見や気づきがあり、音楽の深淵を追究する旅は生涯ルーティンです。
仲間と共に室内楽のコンサートも開いてきました。ヴァイオリンは単旋律楽器であり、基本的にはチームプレイの楽器です。多くの人との演奏でドラマが生まれ、その醍醐味を学生1人ひとりが経験できるよう、指導においても心がけています。
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スキルを上げアンサンブルを経験し、技術・表現力を磨きます。
授業は週に1回の個人レッスンが基本です。それまで受けてきた指導も、音楽を学ぶ目的も学生により異なるため、最初の授業で丁寧にヒアリングしてから指導を始めます。1年次から4年間を通して同じ担当教員が指導をするため、演奏技術の向上のみならず個々の成長がよくわかります。
レッスンの基本は、学生自身に気づいてもらうこと。どうすればもっとヴァイオリンと自分の身体をうまく操れるかに気づいてもらう。楽器の扱いそのものが難しいためそこに集中しがちですが、そうではなく、学生が身体と心に向き合い、自分自身を掘り下げることを重視しています。
楽譜を正確に読み、作品を探究する指導にも力を注いでいます。作品が書かれた時代背景を知ることで、単にきれいだと思っていた曲の奥深さに学生自身が気づくことがよくあります。楽器との結びつきから自分自身を知り、作品への興味を深め、理論的に音楽を理解することによって、4年間での成長は目を見張るものがあります。
楽器は演奏するためのものであり、人前で弾くことが目的です。本学頌啓館ホールで行う実技試験はもちろんのこと、学外での演奏会、コンクールやオーディションに参加するなど、学生は意欲的にチャレンジをしています。
私は「室内楽」の授業も担当しています。弦楽器だけの編成や管弦打楽器のアンサンブルなど、学生が希望する編成に登録し、1学期あるいは1年をかけてじっくりと取り組みます。普段から個人レッスンを受けている学生ですから、この授業では技術の指導よりもチームプレイとしての演奏活動に主眼を置いてコーチングします。
最初は、球技でいうところのパスの出し方から始め、チームでひとつの音楽をつくり上げるためのディスカッションを行っていきます。抽象的な表現ではなく、具体的な言葉で相手に意見を伝えること、そして他者の考えを尊重することの大切さを学んでほしいと思います。個人レッスンで自分のスキルを上げることと、他の人とアンサンブルすること、どちらも音楽を学ぶ上では非常に重要です。
学んだ成果は、病院での院内コンサートや京都市内の博物館でのミュージアムコンサートなど、アウトリーチ活動で発表しています。
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音楽から学び、リベラル・アーツを通して音楽を知る。本学ならではです。
本学科での4年間で学生に必ず学びとってほしいと思うのは、豊かな時間を共有する喜びです。音楽をともに創る仲間とお客さまがいてくださるなかで、偉大な作曲家たちによる作品を読み解き演奏する役割を果たし、皆さんと喜びを共有する。そこに至るまでには膨大な練習量が欠かせず、苦悩もありますが、喜びの共有は音楽の価値のひとつです。
同志社女子大学では、音楽そのものを学ぶのと同時に、キリスト教主義、リベラル・アーツの精神をベースにした幅広い教養から音楽について考えることもできます。西洋で生まれたクラシック音楽は、キリスト教主義がベースにあります。共通科目で聖書を学ぶうちに個人レッスンでの経験が結びつき、作品への理解が一気に深まる、そんな学生も多いです。教養を身につけることによって視野が広がり、多様な事象をキャッチできるアンテナが増える。それは必ず卒業後のキャリアに生きてきます。
また、パイプオルガンを備えた新島記念講堂をはじめ、施設の充実も本学の魅力であり、音の響きを扱う人間にとって、広い空間での学びは感性を育成する理想の環境です。
演奏専攻で学ぶ学生は、さまざまなバックグラウンドを持ち、各自が自分の未来を思い描いて入学してきます。卒業後はプロの演奏家や教員、あるいは一般企業へと進んでいきます。多彩なテーマを掲げる仲間と学び、他学部他学科の学生との交流を通して、多様な価値観に触れる。そうした経験は、音楽の専門家にとって最も重要な豊かな人間性の育みへとつながっていくと思います。
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受験生のみなさんへ
1つの方向から山を登るのではなく、北や南、あるいは今までとは異なる方向から登ることで新しい景色に出合い、視野が広がっていきます。大学で学ぶというのは、そういうことだと思います。今までと異なる角度から音楽を学び、新しい景色に出合ってください。
卒業演奏曲目一覧
- harp
Fantaisie pour Harpe
C. Saint-Saens (1835 - 1921) - violin
Sonate für Klavier und Violine c - moll op.45
Ⅰ. Allegro molto ed apassionato
E. Grieg (1843 - 1907) - violin
Violin sonata No.3 in D mionr Op.108
Ⅱ. Adagio
Ⅳ. Presto agitato
J. Brahms(1833 - 1897) - violin
Violinkonzert D-Dur op.35
Ⅰ. Allegro moderato
P. Tschaikowski(1840 - 1893) - violin
Konzert für Violine und Orchester D - dur op. 61
Ⅰ. Allegro ma non troppo (kadenz : Kreisler)
L. v. Beethoven(1770 - 1827) - violin
Scottish Fantasy Op.64
Ⅲ. Andante sostenuto
Ⅳ. Finale Allegro guerriero
M. Bruch(1838 - 1920) - violin
Concerto pour Violon et Orchestre en Fa dièse mineur op. 19
Ⅲ. Rondo
H. Vieuxtemps(1820 - 1881) - violoncello
Fünf Stücke im Volkston Opus 102 für Violoncello und Klavier
R. Schumann(1810 - 1856) - contrabass
Elegy no.1 for Double Bass and Piano
Konzert für Kontrabas und Orchester h-moll Ⅰ. Allegro moderato
G. Bottesini(1821 - 1889) - contrabass
Concerto Op.3 For String Bass and Piano
Ⅱ. Andante
Ⅲ. Allegro
S. Koussevitzky(1874 - 1951)