dwcla TALK ようこそ新しい知の世界へ

教員が語る同志社女子大学の学び

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「音楽文化」
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「社会」

音楽と社会の
関わりを追究し、
音楽を応用する力を磨きます。

音楽学科

筒井 はる香准教授

19世紀のピアノの装置から音楽の歴史を探っています。

作曲家がどのような楽器を使って作品の構想を練っていたのかについて研究しています。私が大学院生の時、シューマン作曲の《アラベスク》を19世紀半ばにウィーンで作られたピアノで弾く機会がありました。この作品は内声部が表情豊かに書かれているのですが、現代のピアノで弾いてもその豊かさが演奏効果として表れにくいと感じていました。ところが当時のピアノで弾くと、内声部が歌い出したように聞こえたことに驚愕しました。この経験をきっかけに楽譜中心のアプローチから楽器に焦点を当て西洋音楽史を見ることに研究の舵を切りました。

現代のピアノは広い室内で響かせるための楽器で、調律が狂いにくく、音程が安定しています。しかし19世紀前半のピアノは、地域ごとに作り方は異なるものの、大方は鉄骨が入っておらず木だけで作られているものもあり、現在のピアノに比べて相当華奢でした。
こうした違いから、一般的に現代の楽器で弾いても演奏効果が少ないため過小評価されている作品もあるのではないかと考え、当時のピアノで弾くとどうなるのか、楽器に着目して音楽論を追究しています。音域の違いだけでなく、音の響き方や減衰の仕方が異なり、実際に当時のピアノで弾くと、楽譜に書かれてあることが納得できるという経験が多数ありました。

現在注目しているのがピアノの装置です。そのひとつが、ダンパーという弦の振動を止めることによって止音する装置です。現在は瞬時に音が止まる仕組みになっていますが、18~19世紀における英仏圏のダンパーは残響が残るような作りになっています。これは決してピアノ製作の技術が未熟だったわけではなく、響きに対する価値観が現代とは異なっていたと考えられます。
ただ、ピアノの装置は消耗品であるため、オリジナルを突き止めるのが非常に困難です。それゆえ正しく修復された楽器や修復前のオリジナルの状態の楽器と出合うことは大きな喜びです。均一的な音ではありませんが、当時の音や響きを確認し「あの曲はこんな風に響いたのだろうか」と想像ができます。固定観念を覆すようなピアノと出合うことは研究の醍醐味です。

これまでの研究成果は学会発表をするほか、2020年3月には『フォルテピアノ 19世紀ウィーンの製作家と音楽家たち』という本にまとめ出版しました。フォルテピアノとは、アメリカでピアノづくりが工業化される、それより前にヨーロッパ各国で作られたピアノの総称です。ピアノ製作家と音楽家の間で交わされた書簡も残っており、「材質は桜材で、音域は6オクターヴがいい」といったやりとりから、対話があった時代のものづくりを知ることができます。技術革新により社会が変化するなかで、ピアノの工業化も進むなど、音楽と社会の密接な関係が見えてきます。

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クラシック音楽からミュージカルまで、ゼミ生の研究のテーマは多彩です。

本学の音楽学科 音楽文化専攻では、音楽と社会を結びつけて考え学びます。教育、医療、福祉など社会のさまざまな場面で音楽を応用する力を育むことを目指しています。3年次と4年次にゼミナール科目があり、音楽文化に関する分野で卒業研究に取り組み、私も現在、4年次生のゼミを指導しています。
ゼミではまず、自分が何に関心を持っているのかを内省し、それを追究するための文献の調査方法を学び、考察を深めていきます。「研究の面白さがだんだんとわかってきました」という学生の声を聞くのは、教員として大きな喜びです。ロジカルシンキングを身につけると同時に、自分でテーマを見つけ出し、解決する醍醐味を味わってほしいと思います。

卒業研究のテーマは多彩です。60年代・70年代に放送禁止となったフォークソングを研究する学生、標題音楽の研究、オペラやミュージカルが好きな学生は音楽と歌詞の結びつきを研究したり、絶対音感について研究する学生もいます。音楽のジャンルもさまざまです。
研究の進捗発表会を定期的に設けており、ゼミ生が互いのよい点を見つけ出し、異なる角度からアドバイスをし合うなど、活発な意見交換が行われています。ジャンルやテーマが異なるため、学生にとってはよい刺激になり、興味関心も広がっているようです。

長文を書くことのハードルは高いのですが、論文執筆に取り組むことで論理的に考え、自分の意見を人に伝わるように発表する、という社会人として欠かせない能力を養成できます。ゼミには、教員になりたいという強い意志を持っている学生や一般企業への就職を希望する学生もおり、卒業研究で身につけた能力は、将来、教育現場やビジネスの場面で存分に発揮できると思います。
また、社会人になると自分のために時間を割いて勉強することが難しくなるので、学生時代に好きなテーマに没頭して学ぶ経験をしてほしいと考えています。

私は教職課程の授業も担当しており、例えば「音楽科教科教育法」の授業は、教育実習に行く前の学生が履修しています。学生が与えられたテーマに基づいて模擬授業を行います。生徒役の学生から模擬授業の感想をフィードバックすることによって、音楽の面白さを伝える感性を磨き、より深い学びを習得しています。

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他学科の学生も、音楽学科の授業で共に学んでいます。

音楽学科の1年次の必修科目として「音楽通史A,B」があります。Aは西洋音楽史、Bは民族音楽をはじめ世界の音楽を学ぶ授業ですが、他学部・他学科の学生も履修し、関心を持って学んでいます。音楽学科を擁する女子総合大学ならではの学びの豊かさであり、「リベラル・アーツ」を教育理念のひとつに掲げる同志社女子大学のよさだと思います。

私自身も本学で育ち、在学中は音楽以外に、哲学やドイツ語の授業を受けることができ、その経験はいまの私の基礎になっています。とりわけ西洋音楽を研究するうえで、キリスト教についての教養が下地として不可欠であり、それらをしっかりと学ぶことができました。このように幅広い学問領域を学ぶことができるのは、音楽の単科大学とは異なる思想から生まれた同志社女子大学音楽学科の強みだと思います。

総合大学ではあるものの大学の規模が大きすぎないため、教員と学生の距離が近く、教員同士のコミュニケーションも豊かです。学生にとっては安心して学べる場だと思います。私自身、在学中に恩師に学問の面白さを教えてもらい、恩師に憧れて研究者の道に進むことを決意しました。現在も心温かな人々に囲まれ、研究と教育に力を注ぐことのできる幸せを感じています。

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受験生のみなさんへ

音楽文化と社会は密接に結びついているため、音楽を通して社会を見つめたり、これからの時代について考えることができると思います。多様な価値観に触れ、視野を広げるには、とてもいい学科であり、キャンパスだと思います。

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筒井 はる香准教授

学芸学部 音楽学科 [ 研究テーマ ] 鍵盤楽器の製作史と文化史

研究者データベース

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卒業演奏曲目例(※1人につき3曲演奏)