dwcla TALK ようこそ新しい知の世界へ

教員が語る同志社女子大学の学び

写真

「古典」
×
「絵本」

言葉だけではなく
絵から読み解く古典文学。
日本文化を探究します。

日本語日本文学科

宮腰 直人准教授

中世から近世にかけての古典文学の絵画化を研究しています。

今の絵本の原型は、江戸時代にはすでに完成していました。私が専門としているのは、『鳥獣人物戯画』に代表される絵巻物や江戸時代の絵本など、中世から近世にかけての古典文学の絵画化です。絵と言葉で語る文化は、日本のマンガの源流とも言えます。

私が学生時代に研究していた江戸前期、17世紀後半につくられた絵本『義経地獄破り』は、源義経が弁慶らを率いて地獄の鬼を退治し、地獄でいくさをする物語が描かれています。彩色の美しさで知られる奈良絵本のひとつで、原本は非常にきれいな状態のまま、アイルランドのダブリンにあるチェスタ−・ビーティ・ライブラリーに所蔵されています。

初めて『義経地獄破り』を見たときは、「なんてきれいな絵本が残っているんだ」と驚きました。同時に、義経が弁慶たちと地獄で暴れ回るストーリーの面白さに惹かれ、この絵本を研究対象とし、博士論文を執筆しました。論文の執筆と並行して解説も加えて、書籍として出版しました。

さらに『義経地獄破り』以外にどんな物語があるかの調査も始めました。すると江戸で人気を呼んだ金平浄瑠璃でも、義経同様に人気の武者・金平が地獄で暴れ回り、閻魔大王や鬼をこらしめる話があり、絵本も存在したことがわかってきました。この地獄破りのストーリーは人形浄瑠璃(古浄瑠璃)でも上演され、当時の人々から人気があったようです。

文学は言葉を読み解いていくイメージを持っている人が多いと思いますが、実は挿絵にもいろいろな表現の工夫があり、それらを読み解いていくことも古典文学を探究する醍醐味だと考えています。

日本の浮世絵が海外にわたり、世界でさまざまな影響を与えたことは知られていますが、実は江戸時代の絵本や絵巻も海外の美術館や図書館に所蔵されています。言葉はわからなくても視覚的に楽しめることが、その理由の1つでもあります。『義経地獄破り』の原本を調査すると、読み込まれた形跡が認められ所有者に親しまれていたことがわかります。なぜ海外に絵巻や絵本がたくさん所蔵されているのか、その歴史的な経緯をたどっていくことも課題であり、私も今後そうした調査に取り組んでいくつもりです。

インターネットやデジタルカメラの普及により、視覚的な資料を扱う環境が整ったことで、絵本や絵巻を研究対象にする動きが国内外で活発化しています。
最近の研究では、絵草子屋や書肆(しょし)、今で言う出版社が絵本をつくる様子が徐々にわかってきました。現在はこうした絵本の作り手や読書のあり方に着目した研究にも力を注いでいます。

そのひとつとして、17世紀後半から18世紀前半の京都で活躍した居初(いそめ)つなという女性絵本作家の研究に取り組んでいます。つなは『鉢かづき』や『伊勢物語』『源氏物語』のダイジェスト版などを描いていました。近年、多くの作品に署名が残されていることが報告され、注目を集めています。2023年春に、京都府の八幡市立松花堂庭園・美術館で「世界初の女流絵本作家? 居初つな」という展覧会が開かれ、好評を博しました。本学が所蔵する江戸時代の女性向け教養書にも、つなの名前が記されています。これから、つなをはじめとした絵本の作者や制作背景に焦点を当て、絵本・絵巻の研究を進めていきたいと考えています。

写真
写真

Read More

古文が苦手な学生も、ビジュアルから古典作品の面白さを発見。

日本語日本文学科では、2年次の基礎演習で「日本語学」、「日本語教育」、「近現代文学」、「古典文学」、「日本文化」の5分野に分かれて学びます。私のゼミは「日本文化」に所属しています。言葉だけではなく、絵や映像といったビジュアルから作品を読み解きます。

この授業で取り組んでいるのが、現代のかぐや姫の絵本の比較分析です。江戸時代の『竹取物語絵巻』のデジタルデータ等も活用しながら分析します。古文が苦手な学生も、絵本なら言葉でつまずくことはありません。文章を中心に分析するか、挿絵を中心にどんな風に描かれているかを分析するかは学生次第です。

ゼミでは各自のプレゼンテーションを重視していて、分析の内容をパワーポイントで巧みに表現する学生も多いですね。教室のスクリーンに絵本の挿絵や図像を投影することで、視覚資料を共有でき、議論も深まっていきます。絵は漠然と「見るもの」ではなく、新たな解釈を加えることができる「読むもの」であることを実践的に体験してもらうことを目指しています。

実際に、絵から古典が好きになったという学生がいます。1年次の日本文化入門の授業で説話絵巻の代表作『信貴山縁起』の複製本を観察し、「絵は見るだけじゃなく、読んで解釈できるんですね。絵を読みとくのはとても面白いです」と、以来古典文化に興味を持って学んでいます。『信貴山縁起』のなかには、主人公・命蓮の物語とともに、中世の人々が猫を飼っていた様子や菜摘みや洗濯をする女性達の働く姿が描かれています。こうした暮らしの場面への注目から日本文化への関心を深めていく学生もいます。

私のゼミでは視覚的な資料を扱っているため、卒業論文では絵巻物や浮世絵、絵本やマンガ等、表象文化学部らしく多彩な表現方法に注目して研究に取り組んでいます。
論文のテーマも多様で、絵巻や日本美術のなかの鬼、妖怪、幽霊画を取り上げた研究もあります。また、ユニークなところだと江戸の浮世絵や草双紙に描かれた動物の擬人化表象に取り組んだ研究もあります。マンガだと荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険』や楳図かずお『漂流教室』を分析した論文があります。

写真

Read More

ビジュアルやファッションからも文化を研究できる学科です。

また、私のゼミでは、本学のすぐそばにある相国寺 承天閣美術館に出かけます。伊藤若冲の水墨画など優れた作品が収蔵されている美術館で、本物の絵をじっくりと観察することができます。いつでも本物の美術品と対峙することができるのは、実に恵まれた環境だと感じます。京都御苑をはじめ文化的な資源に触れるチャンスが多いことも、同志社女子大学で学ぶ魅力のひとつです。在学中にたくさんの日本美術にも関心を持ってもらえればうれしいです。

日本語日本文学科は、文学にとどまらず、伝統的な日本文化について関心のある学生が多いです。例えば、天平文化のファッションに関心を持つ学生は、天平文化を広く紹介しようと留学生と一緒にファッションショーを開催しました。本学のラーニングコモンズで華やかにおこなわれたファッションショーは、学生や教職員が喝采を送り、大成功をおさめました。ビジュアルやファッション、いろいろな角度から日本文化を追求できるのが本学科の特長です。

一般的に大学の日本語日本文学科というと、文学や日本語学等、ことばを中心とした学問領域を扱うことが多いのですが、本学科では、そこに「絵本研究」や「編集技術」といった「表象と表現」科目を配している点に特色があります。知識を学ぶだけではなく、それを表現し、発信することにも力を注いでいます。ファッションショーの開催は、授業の学びを基礎にしてさらに学生たちの興味関心をイベントというかたちで実現し、発展させたことになります。各自の関心に応じてさまざまな取り組みをおこなうことができるのも本学の魅力です。

写真

Read More

受験生のみなさんへ

大学入学後は、ぜひキャンパスを飛び出して、モノや人との出会いを大切にしてください。美術館や博物館はもちろん、神社仏閣やコンサート、ライブもいいですね。そこに行かなくては経験できない時間を過ごしてほしいです。バーチャルではなく、多様な経験と物の見方や考え方を増やす絶好の機会が同志社女子大学にはあります。

写真

宮腰 直人准教授

表象文化学部 日本語日本文学科 [ 研究テーマ ] お伽草子や語り物に取材した絵巻・絵本の研究

研究者データベース

卒業論文一覧

dwcla TALK

卒業論文テーマ例

  • 『平家物語』における王朝文化の研究―「小督」の章段を中心に―
  • 『宇治拾遺物語』における説話配列の研究
  • 道成寺説話の表象研究ー清姫の変化に注目してー
  • 鬼の表象研究―『北野天神縁起』を中心に―
  • 幽霊画の表象研究
  • 森徹山筆『仏涅槃図』の研究―伝統的図像の継承と独自性をめぐって―
  • 『新形三十六怪撰』研究―明治20年代の妖怪表象―
  • 江戸時代の妖怪観の研究―『稲生物怪録絵巻』を中心に―
  • 河鍋暁斎『閻魔大王奪衣婆図』の研究
  • 鈴木春信によって描かれた和歌の研究―「春」と「恋」の和歌を中心に―
  • 鈴木春信の作品研究―『絵本花葛羅』における和歌の絵画化を中心に―
  • 広告としての浮世絵の研究―江戸時代の呉服屋に注目して―
  • 浮世絵における影の表象
  • 江戸時代における猫の表象分析ー合巻『朧月猫草紙』を中心に
  • 鶉の表象文化研究―〈鶉餅〉の意匠を中心に―
  • 青年漫画『あしたのジョー』論ー「あした」の表象ー
  • 『漂流教室』論ー後期・楳図かずおの表現手法と表象ー
  • 美術表象としての『ジョジョの奇妙な冒険』ー「黄金の風」を中心に
  • 古都・京都の表象研究ー観光写真における「名所」に注目してー
  • 川端康成『古都』論ー「美しさ」を書くということー