「人」
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「ことば」
幕末から明治を生きた
知識人たちの言語生活を
考究しています。
日本語日本文学科
大島 中正特任教授
「ことわざ」を手がかりに日本語による言語生活の歴史に迫ります。
人×ことば=ことわざ(言業)。これは私が作った公式です。人とことばとの相互作用により、ことばのワザがうまれることを表現しているつもりです。本学の日本語日本文学科の学生たちは言語や言語による種々の表現に関心を持っていますが、言語はちょっと固いと感じる人もいる。そんな学生には、人間に関心を寄せて考えてみましょうと伝えています。人間への興味・関心から日本語を探究することもできるからです。
私は最近、人物に軸足を置いた研究を始めています。たとえば「新島襄の言語生活」です。同志社の創立者・新島襄に関する研究はさまざまなされていますが、その言語生活についてはほとんど不明です。言語生活も「ことわざ(言業)」であり、食生活と同様に人間の営みにおいて大切なものです。
日本語の歴史とは、言語生活の歴史だと言う研究者もいます。しかし、新島襄の声を知る者はいません。手紙や説教・演説の原稿などからその言語生活を追究しています。
20歳を過ぎて渡米した新島は、母語話者でない自分が英語を習得できたのは、英語が話す力を基礎にして読み書きできるからだと考えたようです。翻って自分たちは、候文や漢文の習得に相当の時間を費やさなければならない。「日本人のかくも漢字を用いるは大いなる誤りなるべし」と弟宛の手紙に記しており、新島の日本語へのおもいの一端をうかがい知ることができます。
帰国後の新島は、政府の要人たちへの書簡には漢籍の素養がある知識人であることを示すべく、論語のことばを引用したりしています。自分の知的レベルをしめすためにことわざ類を利用するのも、「ことわざ(言業)」だといってもよいでしょう。
こんなことばも残っています。「西人(せいじん:西洋の人)いわく、教育は社会の母なり、と。われは言わん、女子教育は社会の母の母なりと」。女子教育がいかに重要であるかを伝えるため、西洋の金言類を利用したようです。
また私は、新島の義兄であり同志社の結社人である山本覚馬の言語生活についても研究をはじめています。覚馬は、薩摩藩邸に幽閉された際、卑見を申しのべる建白書を弟子に口述筆記させました。その写しの一つが同志社大学の図書館に保存されています。それを活字にし、原文(漢文体)を訓み下して、さらに現代日本語に訳し、英訳するというプロジェクトを主宰。5人の研究者で取り組み、2020年3月に本が完成しました。今後は新島・山本を中心に、幕末から明治を生きた知識人が書き残した、さまざまな「ことわざ(言業)」を手がかりに、人それぞれの言語生活を探求していこうと考えています。
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和菓子の命名や洋画の日本語訳等々、学生の関心はさまざまです。
私のゼミが掲げるテーマは、日本人の言語生活です。日本語に関することであれば何でも構いません。ゼミ生には、就職活動や教育実習などのよい気分転換になるテーマを選びましょうとアドバイスしています。
実際にこれまでのゼミ生の活動を見ていると、卒業論文に積極的に取り組むことで、就職活動もうまくいき、両者が支え合うという好循環が起こっています。例えば、和菓子好きの学生は、和菓子の命名をテーマに卒業研究に意欲的に取り組みながら就職活動も順調に進めていました。
色鉛筆の色名を精力的に調べたり、洋画の日本語訳の吹き替え版と字幕版の違いを徹底的に追究した学生もいます。学生の興味・関心は実に多彩です。
ゼミ生に伝えているのは、仲間の研究を自分のこととして考え、10人いれば10の卒業論文を書くつもりでゼミ活動に取り組んでほしい、ということです。他人の論文は弱点がよく見えるので、そこから自分の弱点もわかり、論文の精度を上げることができます。
卒論の進捗発表会も定期的に開催しています。発表者の言葉をよく聞き、それに対する質問のしかたや相手への伝え方を学び、コミュニケーション能力を磨く。また、ひとつのものごとに対して考えを深めることにより、他分野についても「このデータはおかしいのではないか」、「もっと専門家の意見を聞く必要があるのではないか」といったクリティカルシンキングを養成できます。
卒業論文を完成したときのゼミ生の成長は、目を見張るばかりです。
私は、耳で聞いてよくわかる文章を書くことが理想だと考えます。仲間内で容易に理解しあえる「話し合いことば」に対して筋道を丁寧にたてた「語りことば」があると指摘する研究者がいます。耳で聞いて肚(はら)にストンとおちる表現こそが理想であると考えます。
例えば、朗読(文芸にかぎりません)、漫才、落語、講談など、聞き惚れるような言語表現は、まさしく修練のたまものというべきものでしょうが、そこまで到達した作品でなくても、よい語りことばはたくさんあります。よい文章を書き、話すためには、すぐれた語りことばに耳を傾けることが大切だ。学生たちには常にそう伝えています。
本学科には朗読の授業もあり、放送部や演劇部に所属していたのかと思うほど音読が上手な学生がいます。そうした学生のレポートは、筋道のしっかりと立った文章である場合が多いです。生涯にわたって、名文・名講演の類に多く接して言語感覚を磨き、言語生活を日々豊かにしてほしい。そう願っています。
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日本文学に思いを馳せながら鴨川を散策できる地の利。
日本語日本文学科のある今出川キャンパスは、京都御所のすぐそば、日本文化の中心地にあります。私自身も新入生のみなさんには「本学での贅沢な時間を満喫してください」とお話することがあります。都を流れる鴨川の周辺を散策するだけでも、日本語や日本文学についてさまざまなことに思いを巡らせ、感じることができるでしょう。この地の利を最大限に生かすことを私たち教員も日々考えています。
また、歴史上の人物と直接会うことはできなくても、同志社女子大学で学ぶことで新島襄をはじめとする日本の近代化に関わった人たちについて知り、彼らとつながることができます。私が展示の企画などに長年関わっている本学の「史料センター」では、本学の140年を超える歴史をたどりながら、日本の近現代史に触れることもできます。
コロナ禍で、オンライン授業をはじめとした多様な学び方があることを実感しますが、同時に、肌で感じとり、その環境に身を置いて考えを深めることの大切さをひしひしと感じています。
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受験生のみなさんへ
高校時代にこそ、苦手分野や嫌いなことにも挑戦してほしいと思います。嫌いだと感じても、それは一時的なことで、やがて好きになる可能性があります。苦手科目も必要に迫られて勉強していくと得意になることがあり、不得手であっても、その学びが将来役立つこともよくあります。
卒業論文テーマ例
- 類似表現「自転車に乗れる」と「自転車が乗れる」―格助詞ガの再検討―
- 動詞『する』が構成する機能動詞結合の自他性
- 奈良県南部地域方言のシヨル系・シトル系を用いたアスペクト体系―吉野郡天川村洞川中心に―
- 用法の変化による意味の広がり-動詞慣用句「あいた口が塞がらない」を中心にー
- SNSを中心に流行する表現―「優勝する」「しか勝たん」の広がりについて―
- 副詞的に使われる「基本」「最悪」
- 表現の系譜と分類―川端康成の共起制限破り「夜の底」を起点に―
- 漢語系接頭辞「大-」「中-」「小-」の研究―新聞記事を言語資料として―
- 日中両言語の畳語―『窓際のトットちゃん』と《窗辺的小豆豆》―
- 外来語についての言い換え・言い添え―「アイデンティティー」と―「インフォームド・コンセント」を中心に―
- 字幕翻訳と吹き替え翻訳の比較―『27 Dresses』を言語資料として―を中心に―
- 漫才の言語学―2001年に上演された漫才における「ボケ」の分類を中心に―
- もの言う動物―絵本における動物のイメージ―
- 和菓子名の特徴と命名法について
- 怪獣名の語形上の特徴―濁音が多いのはなぜか―
- キャラクターのネーミング―ポケモン名の特徴を通して―
- 読みにくさから見る混ぜ書きの条件―小学校の教科書をデータとして―
- 二重表記(フリガナツキ)からみた日本人の漢字観―川柳・俳句・短歌を中心に―
- あて字の特徴とは―コロナ禍におけるスポーツ新聞を中心に―
- 人名が果たすメトニミー機能―著名人を中心に―