「異文化接触」
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「表象」
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「旅行」
他者の視点で自国を見て
世界の関係性を考える
「コスモポリタン」として重要な教養です。
国際教養学科
Andrew. C. ELLIOTT教授
幕末以降の日本と欧米の異文化接触を、多様な資料から追究しています。
2008年に観光庁を設置するなど、観光立国実現に向けて取り組んできた日本。実は国を挙げてのインバウンド観光促進の歴史は、明治時代の終わりごろにまでさかのぼります。
1912年に国際観光旅客奨励会(ジャパン・ツーリスト・ビューロー)が設立され、インバウンド需要、とくに欧米からの観光客に対する設備整備など、明治政府が観光ホスピタリティ政策に注力するようになりました。
同時期にイギリスやフランスでも観光業が活発になりましたが、日本では海外からの観光客、いわゆるインバウンドに焦点を絞った政策を打ち出した点が特徴的です。国内の施設・設備を欧米人のスタンダードに合わせるようリフォームをするなど「日本のホスピタリティをいかに国際スタンダードにまで引き上げるか」が議論の中心であり、昔ながらの旅館の改築や欧米風ホテルの建築、ベッドシーツの色や枕選定に至るまで非常に細かな検討が行われました。このように、日本では観光による経済的な効果に加えて、いわゆる国家ブランディングの確立も期待していたわけです。
1930年には初めて政府の中央機関として国際観光局が設置されました。欧米やアジアにある植民地からの観光客誘致を目的に国際ホテルが建てられたほか、国内だけではなく、朝鮮半島や満州への観光ルートも設定されました。大日本帝国を世界に見せるプロパガンダとして観光が使われたのです。
こうした幕末以降、太平洋戦争までの近代の観光史が私の最近の研究領域です。なかでも日本と欧米の異文化接触、異文化表象を研究の柱としています。ガイドブックや旅行記などのテキスト分析によって日本や欧米のイメージを取り上げる研究もしていますが、現在は旅行・観光による実際の人と人との接触によってアイデンティティにどんな変化があったかに特に着目しています。そこで日本の観光政策、そして欧米の訪日観光客の体験とホスピタリティを提供した日本人の体験を対象に研究を続けています。
観光客の体験については、旅行記などの出版物や日記・絵はがきなどを調査対象として追究しています。絵はがき自体はインターネットを通じて世界中から収集できるものの、そこに書かれているのは、ほとんどが非日常体験です。つまり、日本で見た印象的な景色や神社仏閣については記されていても、宿泊したホテルのベッドの色や枕などに関する感想はほとんど記述がありません。そうした日常の体験は印象に残りにくく、クレームなどが無い限り旅行の評価対象にはなりにくいのです。だからこそ、そうした当たり前の快適性に着目して異文化接触を探っています。
一方、ホスピタリティを提供した日本人、例えばホテルのスタッフや鉄道会社の従業員の体験については、日記など生の声を記したものはほとんど残っておらず、訪日観光客の体験以上に資料の収集は困難です。そこで1920年から30年代にまとめられた旅館の従業員向けトレーニングマニュアルや、欧米の観光客向けに会話やサービスを提供するための日英フレーズブックなどを集めています。それらを分析することにより、サービスを提供する側も異文化接触によって、どのようにアイデンティティが変化したのかについても突きつめています。
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海外留学で得た新しい視点で卒業論文に取り組む学生も多いです。
私のゼミのテーマはJapan, the West and Cross-Cultural Representation。幕末から現代における異文化接触、そして日本から見た欧米へのイメージと欧米から見た日本のイメージなど、ビジュアルテキストに描かれた異文化表現を追究するゼミです。例えば、1853年のペリー来航という出来事について、アメリカに残っている写真や水彩画、日本について書かれたテキストと、日本に残っている瓦版や版画などをそれぞれ分析し、そこに描かれている異文化表現を多様な視点から考察します。太平洋戦争時のプロパガンダのイメージ図や戦後の日本に関係するハリウッド映画をはじめとした映像なども分析の対象です。
ゼミではまず、ビジュアルテキストの分析方法やプロセスを丁寧に指導します。さまざまな情報が盛り込まれたビジュアルテキストをどう政治的、歴史的に分析するかを学んだうえで、学生それぞれの興味関心に沿ってテーマを設定し、英語で卒業論文を執筆していきます。
国際教養学科では、日々の授業でも英語での発信力向上を目指した指導を行っていますが、卒業論文の執筆においてはより高度な能力が欠かせません。ゼミ活動でアカデミックなコミュニケーションスキルやライティングスキルを高めていきます。
学生の卒論テーマは非常に幅広いです。戦争中の日記について、タトゥーに対する日本と欧米のイメージの違い、あるいはハリウッド映画に描かれている日本女性像など、異文化表象に関するテーマを選ぶ学生もいます。1年間の海外留学で得た新しい視点で異文化接触を考えるゼミ生も多いです。
国際教養学科では、2年次の秋学期から1年間、英語圏の大学への留学がカリキュラムに組み込まれており、帰国後ゼミがスタートします。留学から戻ってからの学生の成長にはいつも感心します。英語運用能力の向上はもちろんのこと、アカデミックなテキストを読み込んで深い議論ができるようになり、日本人である自分のアイデンティティを客観視できるようになっている学生も多いです。
現在はコロナ禍で渡航を控えたり留学のタイミングを変えるなど、学生個々の事情によって変則的です。それぞれの考えを尊重して柔軟に対応できるのも、学生の成長に対して親身にサポートする同志社女子大学だからこそだと思います。
留学先では、想像した世界と現実との違いを知り、日本におけるダイバーシティの現状を実感するでしょう。ゼミのテーマとも関係しますが、私達の「もの」の見方がメディアも含めて社会に形成されているので、できるだけ様々な立場から「もの」を批判的に見るように意識するべきだと思います。このために、留学は重要な経験になるでしょう。歴史的視点の大切さも実感するでしょう。例えば、1930年代の日本の領土は、日本列島に加えて、朝鮮半島や台湾などを含み、大日本帝国として地理的にも広く考えられていました。そうした歴史を理解した上で、より広い視点で日本を見て考えてほしいと思っています。
自国の歴史や文化をクリティカルに見て、世界との関係について距離をもって考えることが、難民問題などグローバルな社会課題の解決に向けて欠かせません。学生にはそうした教養をもち、国の境界を超えて本当のコスモポリタンを目指してほしいと考えています。
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知識を身につけるだけではない、
「世界」を考える力の習得を目指す学科です。
学生も教職員も、本学ではキャンパスで会う人たちがとてもフレンドリーです。心穏やかに学習できる雰囲気があり、そのための施設も完備されています。女性であること、社会における女性の立ち位置をクリティカルに見つめて考えることができるのも女子大ならでは、ではないでしょうか。私の母国イギリスには女子大がないので、女子大だからこそ学べる良さを本学で感じています。
国際教養学科は、自国について批判的に距離をもって相対的に学び、世界について考えを深めることができる学科です。知識を身につけることも重要ですが、「国際」というものについての多様な意見・考え方に触れ、「世界」や「国」の関係性だけではなく「世界」や「国」が意味する内容も常に変化していくことを学び、未来に向けて多様な側面から考察する力の習得を目指しています。21世紀、これからのグローバル時代を生き抜く人たちのために不可欠な学科だと思います。
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受験生のみなさんへ
生まれた場所や今いるところから外に出てチャレンジすることは、自分にとってプラスになるだけではありません。広い視野から世界の課題を考え発信することで周りに好影響を与え、よりよい社会の実現に向けて行動できるなど、地域・社会にとっても多くのことがもたらされます。そうしたチャレンジをしてみたい、というみなさんと本学で出会える日を楽しみにしています。
卒業論文テーマ例
- Female Images in Korean and Japanese Tourism Advertisements
- History Textbooks and the Memory of the Atomic Bombing in Japan and the US
- The Image of Ninja in Japan and the US
- Film and Western Images of Japanese Women in Early 21st Century
- National Identity and School trips in Japan
- Radiation in Postwar Japanese Films
- Resistance Against the Asia-Pacific War in Japanese Private Diaries
- Differences in Attitudes toward Power Spots between Men and Women in Japan
- Japanese Women, Job-Hunting, and Self-Presentation
- Media Images of Female Migrants in Japan, 1960s-2015