諸井克英　特任教授 | 人間生活学科 | dwcla TALK ようこそ新しい知の世界へ

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「社会」
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「心理」

何気ない日常に潜む
人の行動と心のメカニズムを
追究しています。

人間生活学科

諸井克英特任教授

研究対象はあなたたちの眼の前にあります。

最近、私たちが音楽との接触のために慣れ親しんできたレコードやCDなどを若者が手にしている姿をあまり目にしなくなりました。どんなに小さい町にも存在したレコード店は消失。でも、実は、このことと反比例してライブパフォーマンスの勃興現象。小さな町にも存在するライブハウス。これは、私たちが音楽から撤退しているのではなく、音楽との接触の仕方が変容していることを示しているのです。
相対的には音質が劣る音楽ファイルであってもネット世界からダウンロードして楽曲情報を入手し、アーティストとそのファンたちが共有する空間経験を享受するのです。ダウンロード行動がこの空間経験のためのいわば準備体操となっているのです。コロナ禍のために、このライブパフォーマンスというかたちにも変容が迫られます。元々ライブパフォーマンス空間の本質は「密閉・密集・密接」(いわゆる3密)の体験にあるからです。コロナ禍のために音楽接触の仕方がさらに変容することになるかもしれません。

このように、私たちが何気に行う「音楽を享受する」ことも社会心理学の研究対象となります。要は、社会心理学とは、実験、質問紙調査、観察などを駆使しながら、一定方法で公共的に行い、当該の日常行動の底にある心理学的メカニズムを明らかにする作業なのです。
社会心理学の定義や方法は、研究者によって異なります。私の場合には、眼の前に散乱している日常行動の中から興味・関心に従って題材を取捨選択し、その行動を支える心理学的メカニズムを明らかにしていれば、それが社会心理学。そのため、今までに取り組んできた題材は、孤独感、愛玩動物、家族関係、テーマパーク、動物園、音楽など多種多様。

例えば、既に公刊した『ハイロウズの掟－青年のかたち－』(写真参照)。この書物では、ザ・ブルーハーツ(今はザ・クロマニヨンズ)が表出している様々な楽曲から青年のかたち―つまり、青年心理学で展開されている伝統的青年像から新しい青年像への変容―を透過できることを論じています。また、日本各地に散在している動物園が果たす社会心理学的機能について、数年前に院生(人間生活学科の上に設置されている大学院・生活デザイン専攻)と取り組みました。その成果を『動物園の社会心理学―動物園が果たす役割と地方動物園が抱える問題―』(写真参照)として公刊しました。
最近では、プロレス・ブームに私自身が感化されたこともあって、プロレスのかたちや観戦者の底にある心理学的メカニズムを読み解いた成果を『表象されるプロレスのかたち－眼前のエンターテインメント－(仮題)』として来春に公刊予定です。このように、眼の前に潜む多種多様な現象を社会心理学という「まな板」にのせることを自ら心がけています。

社会心理学の学びは多様な業界・職種に応用できます。

「社会心理学研究室」では、学生それぞれが日常生活の中で経験する様々な現象から、独自のテーマを設定し、卒業論文に取り組んでいます。結果として、題材は、多種多様。しかし、先行文献の収集・理解、研究の立案、データ収集(観察や質問紙など)、データの解析、解析結果の考察、というように研究の道筋は共通です。
友だち関係や親子関係などは定番の題材ですが、アイドル、遊園地の園内で流れる音楽などを取り上げる学生もいます。京都・鴨川の河岸で「等間隔で座るカップル」を題材にした学生もいました。実際に現場(鴨川)に行って観察し、写真でデータ収集。これによって、「人は一定の距離を保って座るのか」という仮説を考察しました。
もちろん、自分の興味・関心に基づいて行った研究で事前に予想した結果が出ないこともよくあります。予想した結果が出ないことも重要な「ひとつの結果」であることを学生さんに理解してもらいます。

「社会心理学研究室」で一定の方法にしたがって、日常的な現象を解明する作業は、実社会でも必ず役に立ちます。例えば、全国に店舗展開する企業が、競合他社の動向を観察し、市場調査などのデータを収集・分析、予測に基づいて出店戦略や商品戦略を立案します。また、企業は、どのような学生を入社させ、入社後に適切な配置を行うかという人材戦略を稼働させます。これらは、基本的には社会心理学の研究方法と実践との大きな重なりをもっています。その点で、社会心理学は企業が営む様々な活動と親和性の高い学問といえ、「社会心理学研究室」での学びは、社会に出て求められる種々多様な職種に応用可能となります。例えば、今年度の卒業論文主題として、「チョコレートパッケージ」に関する認知の仕組みに取り組んでいる学生がいます(写真の学生さんが装着しているマスク上のチョコレートはその延長線上)。しかし、企業が求める直接的題材でなくても、応用可能性は十分にあるのです。

さらに、コンピューター・ワークとの親和性が高い点も指摘しておくべきでしょう。「社会心理学研究室」では、ワード、エクセル、パワーポイントなどマイクロソフト御三家ソフトはもちろんのこと、膨大なデートを統計処理できるIBM-SPSS統計ソフトの扱い方もトレーニングします(写真)。企業社会では、目的をもってデータを収集・分析し、結論を引き出す能力が求められますが、統計ソフトを駆使する能力も基礎的に培っていくことになります。

学部・学科・専攻の枠を超えた学びの柔軟性があります。

「くらし」「こころ」「まちづくり」という3分野が設けてある人間生活学科では、その3分野のどれかに偏って学ぶわけではありません。自分自身の興味・関心に従って目標を設定し、学びのプログラムを設計するよさがあります。さらに、どれも「生活」に関する学問であるため、自分自身の生活体験や人間関係と関係づけながら履修できます。例えば、私の授業では、対人関係、テーマパーク、音楽などと敷居がなく自分自身が営んでいる日常生活と結びついていることもあって、「社会心理学研究室」の学生だけでなく、多くの学科生や他学部・他学科の学生が受講しています。

また、同志社女子大学の学びの特長のひとつとして「共通科目」があります。全学部・学科の学生が、現代社会に必要な知識や教養を身につけるための多様な分野の科目が揃っています。この科目の受講は、学部・学科、専攻に縛られることなく、学生それぞれの興味関心に合わせて学べる柔軟なカリキュラムになっています。ここでも多様な心理学の科目を受講できます。また、学科・専門科目の場合にも、所属学科でなくても、生活科学部人間生活学科では社会心理学、現代社会学部社会システム学科では臨床心理学を受講することも可能です。

このように、リべラル・アーツに基づく教育を展開している同志社女子大学では、心理学に限っても、様々な「場所」で心理学の学びを実践することができることができるのです。

受験生のみなさんへ

人間生活学科では、私の専門である「社会心理学」のみならず、「被服」「住居」「家族」「地域」「福祉」と、人々の暮らしに関する様々な問題を多角的に学ぶことができます。この学科には、あなたが学びたいこと、追求したいと思える学問があります。あなたたちの学びの意欲に応えることのできる、高い専門性をもった教員が各分野で待っています。もちろん、コロナ禍にも屈することなく万全の対策を施した上で、SPSSトレーニングに励んでいる先輩たちも(写真)。