
「栄養学」
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「データサイエンス」
ヘルスケア分野の
課題解決に向けて
食卓に直結した研究を続けています。
食物栄養科学科
奥村 仙示准教授
低カロリーで満足度が高いお弁当の開発で、多様な企業とコラボ。
お弁当や惣菜、デリバリーといった「中食(なかしょく)」が増えるなど、食の選択肢が広がるなか、選び方や食べ方が重要になっています。私は「何を、どのくらい、どのように食べると、なぜ良いのか?」をテーマに研究しています。
着目したのがエネルギー(カロリー)密度(kcal/g)、食品1gあたりのエネルギー(カロリー)です。たとえば同じ魚でも、塩焼きとフライなど、調理の仕方によってカロリー密度は変わります。また同じ500kcalでも、魚やお汁といった水分や野菜が多く脂質が少ない日本食は「低カロリー密度」、パンやお肉を使った、水分が少なく脂質が多いハンバーガーは「高カロリー密度」です。
従来のようにカロリーの量ではなく、カロリー密度という食べやすさの指標をもとに、密度(density)に注目した食事(diet)「デンシエット(Densiet)」を開発しました。食事の最大公約数であり、バランスや食べ方のコツを伝える基準として商標登録しています。
デンシエット開発のきっかけは、当時私が勤務していた大学のあるまちで、糖尿病の方が多いという社会課題解決への取り組みでした。管理栄養士は多様な数字を使って栄養計算をしますが、それまでクローズアップされていなかった「食べ方」の数値化に着目。そして機能性食品ではなく、普通の食品を使った、低カロリーで満腹・満足できる食事を考えました。
この基準を使い、さまざまな企業とコラボレーションをして「しっかり食べてもカロリーは500kcal」のデンシエット弁当を作成しています。
1食あたり600 kcalまでは比較的容易に抑えられるものの、500 kcalになると途端にお弁当が小さくなります。そこで500 kcalで満腹度・満足度の高いお弁当ができるデンシエット食事組成基準を作成しました。食材宅配企業やスーパーマーケット、ホテルなど、各企業が自社の特徴を生かし、食事組成基準のもとで量や調理法を工夫して、「低カロリーでも、満腹度・満足度が高い」デンシエット弁当を販売しています。

私の研究の根本は、食べ方のコツを数値化して、客観的に伝えること。食卓に直結する研究ですから、伝え方も工夫しています。数値ではわかりにくい人には写真で伝えようと、本を出版。写真を見比べれば、どちらが「低カロリーで満足、満腹の食事」かが直感的にわかるようにしました。また「マヨネーズ 一見脇役 カロリー主役」などといった栄養川柳を作成して、楽しく、わかりやすく低カロリー密度のコツをカルタにしています。
低カロリー密度のデンシエットを追求する一方、高齢者が必要な量を「食べられない」という課題が顕在化するなか、少量で栄養を摂れる高カロリー密度の食事「デンシエットplus (仮)」の研究も始めました。
食べ物を飲み込む機能が低下した高齢者向けの食事は、食べやすいように工夫されているため、離乳食のような見た目になることもあります。そこで3Dフードプリンターを活用して、食欲がわく見た目に成形する、脂質やたんぱく質を加える設計をするなどといった、高カロリー密度食の作成に取り組んでいます。他大学の工学部と共同で研究を進めており、硬さや組成も調節しながら設計しています。
今後栄養学は、データサイエンスとより親和性が高まります。いくらおいしい食事でも、それを数値化できなければ伝える手段が分断されてしまいますが、データサイエンスを活用すれば、共有や展開が可能です。それが進展すると介護食、究極的には宇宙食など、栄養素を詰め込む形が実現し、ヘルスケア分野で私たちの研究が貢献できる領域が広がっていきます。

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AIや3Dフードプリンターを活用し、次世代の栄養学を追求。
「臨床栄養学研究室」では、デンシエットplus(仮)や3D フードプリンターを活用した高カロリー密度食の作成など、高齢者を取り巻く食の課題に対して、複数の視点からアプローチしています。
そのひとつが「一歩先の完全栄養食」です。現在のいわゆる「完全栄養食」は、日本人の摂取基準などに基づき、1食あたり1日に必要なたんぱく質や脂質、ビタミンといった栄養素の3分の1以上を摂取できるように開発された食品です。しかし、私が考える「一歩先の完全栄養食」は、機能性向上のために、タンパク質を構成するアミノ酸、脂質を構成する脂肪酸まで考慮して作成する食品です。そのために、高齢者の血中アミノ酸濃度をAIで予測するというデータサイエンスの新たなテーマを掲げ、同志社大学との共同研究を進めています。
これら複数のテーマのもと、臨床栄養学研究室の学生はグループで研究を行っています。テーマは異なるものの、キーワードは同じ高齢者であるため、グループ間のディスカッションは活発です。
学生自らが3Dフードプリンターを組み立て、CADのソフトも自分たちで使い方を習得するなど、自律的に研究に取り組んでいます。
学生には、将来に向けて多様な選択肢があることに気づいてほしいので、他大学の研究室や連携企業にも定期的に訪問する機会を設けています。学生たちはよい刺激を受けているようです。
もっと研究を深めたいと、大学院へ進む学生も増えてきました。また、企業とのコラボが多いことから、その経験をもとに管理栄養士の概念を広げ、自分のやってみたいこととビジネスとのつながりを考えて就職活動をする学生もいます。
将来、管理栄養士の国家資格に加えて、別の武器があれば強みになります。情報処理やAIなどプラスアルファの能力を身につけ、積み上げることで、社会において自分がイニシアティブをとれるポジションを得られます。学生一人ひとりが能力を存分に発揮して、充実した人生を送ってほしいと強く願っています。


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本学のリベラル・アーツを根っこに、大きく成長してほしい。
本学の学生は、授業でも研究に対しても一生懸命で、学びを素直に受け取る力を持っています。だからこそ、自分が好きなこと、挑戦したいこと、成長に必要なことをしっかりと見極め、得意分野を存分に伸ばしてほしいと考えています。そのためには、失敗を恐れず、自分の興味があることに挑戦してみることが大切です。
それこそが同志社女子大学の掲げる教育理念のひとつ、人間を育む、リベラル・アーツだと思います。教育理念の一つにリベラル・アーツを掲げる本学で、自分の頭で柔軟に考えて行動してほしい。時代がどんなに変わっても、人の成長の根本にリベラル・アーツがあることは変わりありません。
また、食物栄養科学科がある今出川キャンパスは、京都の中心に位置しているため、関西のさまざまな大学や企業とのコラボレーションがしやすい恵まれた環境にあります。学内における豊富なリソースに加え、学外のネットワークも活用して、個々の成長に必要な力を磨くことができます。
今後、ヘルスケア分野の市場が拡大していくなかで、管理栄養士として関わる分野が広がっていきます。本学で、正しく栄養や健康について伝えられる知識・技術をもった管理栄養士を目指して能力を高め、ヘルスケア分野で存分に活躍してほしいと思います。

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受験生のみなさんへ
人が生きるうえで、食は大切です。しかも社会的な課題を背景に、ヘルスケアの需要はさらに拡大すると予測されており、栄養学の専門職は次世代に求められる人材です。ぜひ貪欲に学んでください。
卒業論文テーマ例
- 高齢者用高カロリー密度食デンシエットplus(仮)作成のための市場調査
- 3Dフードプリンターを用いた高齢者向けあんこの検討
- 国民健康・栄養調査に基づく米国の食事のアミノ酸・脂肪酸摂取量プロファイルの調査
- 日本人における負荷試験と疫学調査を用いた水・緑茶・コーヒー摂取による生体への影響
- 高齢者の朝食時のグリシン摂取による骨格筋量への影響
- 肝切除前後におけるヒト肝臓のグルコース上昇の原因検討