「健康」
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「社会」
「和食スコア」の開発など
世界の健康問題解決への
貢献を目標にしています。
食物栄養科学科
今井 具子教授
膨大なデータを科学的に分析し、社会への提言を目指す研究です。
「毎日おにぎり1個(50gの米に相当)を食べることで肥満度を下げられる」。2019年、英国で開催された欧州肥満学会において、私たちの研究グループの論文が世界の注目を集めました。肥満度の上昇で健康リスクが高まるなか、複数の国の肥満率と米の供給量を比較研究した結果、米をある程度食べている国の方が肥満率は低いことを明らかにしました。
総カロリー摂取量をはじめ多様なデータを分析し、教育・喫煙・医療費といった社会経済的要因を考察。そのうえで1日50gの米を食べることで肥満度が低下することを示し、提言したものです。
このようにエビデンスに基づいて栄養を考え、1人の患者さんといった特定の人ではなく、社会全体の健康づくりを考える学問が公衆栄養学です。たとえば、小集団として本学の学生の食生活を調査して科学的に分析し、健康づくりの実践に向けて筋道を考えます。その筋道をもとに活動し、それを評価・検証して京都の大学全体にまで拡大。そしてデータから導き出された結果を分析して、社会に提言する。食品の流通までを含めて、健康づくりへの貢献を目指す研究分野です。
最近私達の研究チームでは、和食の優位性を発信して世界の健康問題解決の糸口にしたいと「和食スコア」を開発しました。国連食糧農業機関のデータベースから国民1人あたりの食品供給量と総エネルギー量を求めました。そのうえで食品群別供給量のうち、伝統的な和食で多く利用される米、魚、大豆、野菜、卵、海藻の供給量について、国別に多い順に3群に分け、各々 1、0、-1 点と点数化。逆に和食では利用の少ない小麦、乳製品、赤肉は供給量が少ない順に 3 群に分け、1、 0、-1 点としました。合計点は-9 点~9 点の範囲で、スコアが高いほど健康的な和食であることを示します。
この指標のもと世界132カ国の地球規模の国際比較研究をした結果、和食スコアが高い国ほど肥満率、虚血性心疾患発症率が低く、健康寿命が長いことが明らかになりました。和食の主食である米が脂質の取り過ぎを予防することや、和食で多用する魚に多く含まれる多価不飽和脂肪酸が、循環器疾患の死亡率を抑制することなどを理由に挙げました。
和食はユネスコ無形文化遺産ですが、栄養学領域でのエビデンスは未だほとんど蓄積されていません。今後、和食スコアを指標とした研究を進め、世界に広く発信していきたいと考えています。
また最近は、地理学の研究者の方々と食の貧困問題に関する研究も行っています。高齢化社会が進み、地域の食料品店の閉店で「フードデザート(食の砂漠化)」が課題になるなか、住宅と店舗までの地理的な距離を示すフードデザートマップが作成されています。しかし、食べ盛りの子どもがいる家庭では肉や野菜などの食材がそろったスーパーが便利ですが、高齢者の一人暮らし男性なら惣菜のそろったコンビニが便利など、地理学的情報だけでは不十分です。そこで公衆栄養学の観点で情報をスコアリングし、実態に即したフードデザートマップの作成に取り組んでいます。このように異分野とのタイアップが進むなど、公衆栄養学の社会的ニーズは非常に高まっています。
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保育園や小学校、地域の高齢者に食育活動を行うゼミです。
「公衆栄養学研究室」では、地域の健康づくりと食育活動をテーマに、幼稚園・保育園、小学校、高齢者サークルの各チームに分かれて活動を行っています。
幼稚園・保育園チームであれば、まず国民健康栄養調査をはじめ国や地域が発表しているデータから幼児の食育の現況を把握し、課題を抽出します。そして、自分たちでどんな食育活動の支援ができるかをチームでディスカッションし、企画を考案。それをもとに、地域の保育園や幼稚園の希望をうかがい提案をします。
コロナ禍で活動の制限はありますが、たとえば野菜嫌いの子どもたちに対して、ゼミ生が一緒にトマトを植えみんなで収穫し、トマトを使ったピザを作るといった活動を継続してきました。野菜を題材にした人形劇を行うなど、学生は非常に積極的です。
幼稚園・保育園での調理実習や高齢者サークルでの健康教室といった活動は、チームの枠を超えて全ゼミ生が参加します。活動後は全員で振り返りをして意見交換をし、反省点や課題を次の活動へ生かしていきます。
地域の食事調査のデータを基に、歴代ゼミ生が開発した食事バランス診断アプリ「ニャに食べた?」の運用も活動のひとつです。広く一般の人に向け、健康的な食事を取ってもらおうと開発したもので、最近は京都のウォーキングスポットを紹介するなど、総合的な健康アプリとして学生がバージョンアップしています。
さらにコロナ禍で食育活動が制限されるなか、研究室のホームページでは、子どもたちに向けて包丁の使い方を紹介する動画の配信など、学生がさまざまなコンテンツを企画し、情報発信をしています。
ゼミ活動を重ねるごとに4年次生の個々の成長は目覚ましく、これまでの活動を卒業論文としてまとめ、3年次生への引き継ぎも熱心に行っています。学年・グループを超えたチームワークのよさが「公衆栄養学研究室」の特長だと思います。
ゼミ生は管理栄養士やフードスペシャリストなどの資格を取得し、卒業後は栄養教諭や食品関係の企業に勤務するなど、それぞれのフィールドで社会の健康づくりに力を注いでくれています。食にたずさわる仕事は、日々の生活を含めてすべてが経験として身につき、役に立ちます。それらを糧に、目の前のことだけではなく、持続可能な社会の実現に向けて将来の展望が持てるような広い視野をもち、活躍してほしいと願っています。
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地域からの信頼を得て集中して学べる恵まれた環境。
「自分が突きつめたいことに集中できる」。これが女子大の醍醐味ではないかと、学生を見ていて感じます。異性の目を気にして気持ちが分散されるようなことがなく、学業に専念して充実した大学生活を送ることができるのではないでしょうか。
また、高齢者サークルや幼稚園・保育園、小学校での食育活動を行うなかで実感するのが、同志社女子大学に対する地域の方々の信頼の厚さです。創立140年を超える伝統ある大学で、卒業生が多方面で活躍している実績にも関心を寄せていただいています。地域の信頼を得て、安心して学生生活を過ごすことができると思います。
そんな本学の伝統を象徴する学科のひとつが、食物栄養科学科でしょう。京都で最も歴史のある管理栄養士養成校であり、京料理に代表される伝統ある食文化を丁寧に指導すると同時に、商品開発に挑戦するカリキュラムをスタートさせるなど、新しい取り組みにも積極的です。伝統と挑戦を重ねてきた京都という街にふさわしい大学だと思います。
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受験生のみなさんへ
宇宙食の研究開発が活発になるなど、社会の進展とともに、食物栄養のフィールドは大きく広がっています。食べることは生きることの基本ですから、領域が広く、奥も深い。学びがいのある学問です。食物栄養の可能性を追究していきましょう。
卒業論文テーマ例
- オンラインを活用した食育活動による園児及び保護者の食意識の変化について
- 小学生のコロナ禍における食生活の変容
- 2016年度から2019年度の高齢者サークルに対する健康づくり支援とその効果の相関性
- iPhone用健康管理アプリの改良 利用状況の把握及びその有用性の検討
- 食育カルタやお便り等による園児及び保護者の食意識の変化について
- 大学生がサポートする小学校での食育活動の有効性
- 高齢者サークルに対する健康づくり支援とその効果の検討