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教員が語る同志社女子大学の学び

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「体温」
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「食品」

体温調節の機能は
食べ物で動かせる
それをサイエンスで証明します。

食物栄養科学科

森 紀之准教授

温度受容体を介して食品で体の調子を整えることができる。

唐辛子を食べると、辛さで体がカッと熱くなり、汗が出てきます。このように、食べ物を摂取することで体内で何らかの働きがあり、体にある変化が表れるという「出口」はわかっていても、なにが、どのようにといった「入口」は長く不明なままでした。
その入口が明らかになってきたのは、私が大学院に進んだ頃です。唐辛子の辛味の主成分であるカプサイシンの受容体、いわゆるセンサーのようなものが見つかり、体内のセンサーがカプサイシンを感知すると体が反応するメカニズムが解明されました。さらにその受容体は熱刺激も感知しており、温度刺激に対する受容体の存在が明らかになりました。ヒトの体内にはいくつもの温度受容体がエアコンのサーモスタットのような役割を果たし、体温調節に関わっていること、さらに温度受容体はさまざまな食品成分も感知することもわかってきました。

現在は、食品による温度受容体を介した体温調節に着目した研究を行っています。食べ物は栄養素の供給源としてだけではなく、近年注目が高まっている機能性食品に代表されるように体の調子を整える生理的機能があり、私の研究もそのひとつです。
食品による機能性は薬とは違って、穏やかな作用となり、日常的な介入として良いと思います。これまで経験則で用いられてきた体温調節に関わる食品について科学的なアプローチをし、体へ働きかける作用をサイエンスとして明らかにしていくことをひとつのテーマとしています。

これまでの研究のひとつにココアがあります。ココアは体を温める飲み物という印象がありますが、実際の体温変化や有効成分については不明な点が残っていました。そこで企業と共にココアの代表的な成分であるテオブロミンについて研究を進めました。
また、香料メーカーとの共同でウィンターセイボリーという主にヨーロッパで料理に使われているハーブの研究も行いました。その研究成果により、体(末梢)を温かく保つ機能を持つ食品として、ウィンターセイボリーの抽出成分を使った食品が機能性表示食品として認められました。
最近は「冷え」をテーマに研究室の学生と実験を開始したところです。

私が取り組んでいるのは「体温調節」という生理学が関わる研究分野で、それほど注目度は高くない研究領域です。その理由は、温度は実態がなく、エネルギーを示す物理的な数字であり、また体温調節に関わる要因は多数あり、証明が難しくモデル化も困難であることが挙げられます。
だからこそ、人があまり取り組んでいない領域で食品の可能性を追求し、そのアウトプットで生活の質の向上に貢献できる。やりがいのある、面白い研究だと思っています。

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ミントで受容体を刺激し「冷え」の改善ができないかを研究中。

私の研究室では実験を中心に行っており、2019年度は「温度受容体の感受性と冷えの関連性」をテーマに取り組みました。
女性を中心に多くの人が自覚している「冷え性」ですが、実は症状として明確な定義はありません。定義がないために病気ではないと捉えられ、アプローチが難しいのが現状です。
実際に研究室で被験者の体温を測定する実験を行い、データを収集したところ、冷え性だと自覚している人は手指の温度も低いことがわかりました。一方、手指の温度が低くなくても「冷え」だと言う人、手指の温度が低いのに「冷えではない」と言う人がいることもわかりました。

つまり温度ではなく、感覚だけ冷える、感覚の異常による「冷え」もある。この感覚こそ受容体の働きによるものであり、受容体に異常があればある種の「冷え性」が定義できると考えました。そこで受容体を長期的に刺激すれば本来の働きが戻ってくるのではないか、つまり、冷温受容体が応答するメントールを含むミントを毎日摂取すれば感受性が改善され、冷えが改善されるのではないか、といった仮説を立てました。

その仮説を証明するため、メントールに対する感受性の強さと冷えの実際の感じ方との関係を分析しました。現在のところ、冷え性の自覚がない人は、受容体の働きが鈍いことがわかってきました。こうした測定はすべて学生が担当し、データの収集・分析まで取り組み、それを卒業研究としてまとめています。
また研究室では、動物にメントールを与えて受容体の感受性を調べる実験も行っており、動物実験グループの学生が動物の飼育を含め、懸命に取り組んでいます。

私は、実験に取り組む研究室だからこそ身につく能力があると考えています。最近の学生は確証がないと取り組まない、あるいは失敗を避けて確実な方を選びがちだと言われることがあります。しかし、地道に実験を行う研究はその逆です。トライアンドエラーを繰り返し、失敗のサイクルを回すことで、前向きに次の一手を考える感覚が養われます。
また、成功率が8割以上になって動くのではなく、成功率5割で動きだすべきだと私は考えます。8割まで詰める間に他者に抜かれてしまうので5割で動き出す。この踏み出しは経験を積まなければ身につかない感覚です。社会では8割まで待っていては勝機を失うことが多く、実験で身につけたタフさが卒業後に必ず生きてくると思います。

研究室の学生の多くが、卒業後は管理栄養士として働いています。社会には多様な管理栄養士が求められており、現場に携わる人、将来の管理栄養士の仕事を作っていく人も重要であり、それぞれに求められるプロになってほしいと思います。
他者をサポートしたいという優しい気持ちをもって管理栄養士を目指す学生たちだからこそ、サポートを待っている人たちの疑問に答えられる専門性の基礎を、本学科で身につけてほしいと考えています。

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伝統食、流行の食を気軽に体験できる恵まれた環境。

私は同志社女子大学に着任してまだ数年ですが、今出川キャンパスは食について学ぶには実に恵まれた環境だと思っています。伝統の食はもちろん、流行の食、世界の食と多様な食と出合い、実際にその場に行って、食べて経験できる。学内のみならず、学外にも学ぶチャンスが多数あります。

お寺の精進料理、あるいは有名料亭など伝統あるお店にアルバイトとして入り、お店で学ぶこともできます。そうしたお店にどんな人が出入りしているのか、どういう考えをもって仕事をしているのかを見聞きできるのは、食のスペシャリストを目指す学生にとって貴重な経験です。プロの方々も学生には温かいので、学生時代に本物に接するよい機会になるでしょう。

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受験生のみなさんへ

受験勉強をしている間は、窮屈に感じることも多いと思います。けれども、ここで得た頑張りは、これから先の道を切り開いていく大きな力になります。今はつらいと感じていても、その先にきっと、頑張った分だけ得られるものがあります。精一杯力を尽くしてください。

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森 紀之准教授

生活科学部 食物栄養科学科 [ 研究テーマ ] 食品摂取による生体恒常性機能の調節

研究者データベース

卒業論文一覧

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卒業論文テーマ例

  • 冷温受容体の感受性に着目した冷えを形成する要因の解析
  • 硫黄化合物の末梢体温調節機能への影響
  • 食品成分の摂取による冷温受容体への刺激がエネルギー代謝に及ぼす影響
  • 冷温受容体を活性するメントールの長期間摂取がエネルギー代謝に及ぼす影響
  • 低カロリー甘味料の摂取が脂質代謝に与える影響