「生鮮」
×
「健康」
×
「機能」
果物・野菜の
おいしさや健康機能性を
明らかにし消費拡大に貢献。
食物栄養科学科
杉浦 実教授
研究の結果、生鮮食品として初めてミカンが消費者庁の機能性表示食品に。
「果物は甘いから、糖尿病や肥満につながるのでは」。そんな思い込みが一般消費者のみならず医療従事者にも多く見受けられるが本当なのか。2000年から農林水産省の研究機関で果物の健康機能性についての研究を初めた私は、ミカン産地の静岡県内で、六千人規模のアンケート調査を行いました。
すると、みかんを毎日4個以上食べている人には、糖尿病が少ないことがわかりました。このアンケート結果から、みかんが糖尿病等の生活習慣病の予防に役立つのではないかと考えました。海外でも、果物摂取と糖尿病発症リスク低減に関する大規模な疫学研究の結果が幾つか報告されるようになってきた頃です。私もミカンと健康についてのより詳細なデータを得るため、2003年から浜松市北区三ヶ日町の住民約千名を対象にした栄養疫学調査(三ヶ日町研究)を浜松医大と共同で始めました。10年間にも及ぶ追跡調査の結果、みかんに多く含まれるβ-クリプトキサンチンの血中濃度が高い人、すなわちみかんを多く食べている人は、糖尿病の発症率が低く、骨粗しょう症の発症リスクも有意に低下することが明らかになりました。これら研究成果がもととなり、三ヶ日みかんが生鮮食品としては初めて、機能性表示食品として消費者庁に登録されました。2015年のことです。
骨を健康に保つため、β-クリプトキサンチンを3㎎摂取する必要があることもわかりましたが、みかんの品種や時期により含有量は異なります。そこで研究を進めた結果、糖度が高いミカンほど含有量が多いことがわかり、出荷前の非破壊光選果機による糖度保証でβ-クリプトキサンチンの含有量も保証できることを突き止めました。また特殊な波長の光センサーを使って果実中のβ-クリプトキサンチン含有量をかなり精度高く推定する技術も開発し、実用化にこぎ着けました。
こうして長く国の研究機関において、国内で生産量の多い果樹であるミカンやリンゴを中心に、農林水産物の機能性から加工・流通までを幅広く研究してきました。2018年度に同志社女子大学で教鞭をとり始めてからは、これまでの経験を生かして、食料の生産から流通までの課題解決に迫り、おいしさや健康機能性を考えられる人材の育成を目指しています。
日本では食の外部化が進み、生鮮物としての果物や野菜の消費量が年々減っています。スーパーで生鮮食品を買って家で調理する機会が減少している一因として、一般消費者の生鮮食品に対する興味や知識が薄れていることも挙げられます。果物、野菜、水産物などの旬とおいしさ、健康機能性を理解し、それらをPRして消費拡大につなげるためにはどうすればよいのか、学生と共に追求し、提言につなげていきたいと考えています。
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栄養疫学のデータ分析や実験、多様な取り組みを行う研究室です。
前述の三ヶ日町研究を行ってきた私は、現在、テーマを生活習慣病から健康長寿にシフトし、新たに三ヶ日町アクティブエイジング研究として更に追跡期間を延長した調査を浜松医大と合同で開始しました。どういう食生活をしている人が長寿であるか、心の状態も含めた心身の健康状態についての追跡調査を行っており、私の研究室に所属するゼミ生達も、これら疫学研究のデータ解析に取り組んでいます。
研究室の別のグループでは、生鮮農作物に含まれる健康機能性成分や栄養成分が品質とどう関わっているのか、農作物の価格の違いによる有効成分の差といったことを分析しています。さらに、生鮮農作物を加工して加工食品を作る際に出てくる、いわゆる加工残さの有効利用について研究するゼミ生もいます。
他には、食品成分の効果を、試験管レベルで評価する実験研究も行っています。培養細胞を用い、食品成分にどのような効果があるのかといったことを調べる実験を開始したところです。今後は疾病モデルの動物を使い、食品成分の機能性を実験的に評価し、ヒトレベルでもそれを検証していく予定です。更には食品成分の体内動態を解析するための高感度分析法の確立についても今年度から始めました。
さまざまな研究テーマがありますが、私から学生に細かく指示することはありません。学生が興味を持ったテーマに対し、自主性を大事にして卒業論文に結びつけてほしいと考えています。
指導で心がけているのは、自分で考えるということ。卒業論文だけでなく、3年次生で行う学生実験でも特に大事にしたいと考えています。
マニュアル通りに実験をし、レポート出すのではなく、結果をどう解析するかはもちろん、すべてのプロセスやひとつひとつの実験操作の意味を自分自身で考える。学生にとっては大変ですが、達成感は大きいようです。
実際、実験結果をまとめて考察するとき、実験室のホワイトボード前に学生が集まって議論が始まります。「どう計算したらいいのか」、「こう考えたらどうか」など、ホワイトボードに書きながら喧々諤々。私も議論の輪に加わります。実験レポートもコメントを書いて返すと、次の実験レポートでは、よい考察を書いてきます。優秀な学生が多く、伸びしろも大きいと感じています。
伸びしろの大きさは、少人数教育であることも大いに影響していると思います。学生実験では1回20人ほどの少人数で行うため、教員の目が行き届き、細やかな指導ができます。
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企業と共に取り組む「食品開発プロジェクト」がスタートします。
2019年度にカリキュラムを改変した食物科学専攻では、3年次生から「食品開発プロジェクト」という新しい科目がスタートします。京都の食品関連会社を中心に、各企業様からの協力を得ながら、社会の現場で実践的に課題発見力・課題解決力を養成し、商品開発にも挑戦します。このプロジェクトに欠かせない基礎知識を身につけるため、2年次生では「フードシステム開発論」をはじめとする新しい科目も導入しており、それら授業を私も担当します。
食物科学専攻には、将来食品関連企業で商品開発に携わりたいと考える学生が多く、目標実現の一助になるプロジェクトです。学生にとっては意義深い学びの機会となります。
本プロジェクト開始にあたり、我々教員たちはさまざまな企業を訪問し、お話をうかがいました。すると担当の方が同志社の卒業生であったり、経営者の方からは「私の妻が同女です」という言葉がよく出てきます。伝統校ゆえのネットワークの強さをひしひしと感じます。地域の教育力に支えていただき、新しいプロジェクトが大きく動いていきます。
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受験生のみなさんへ
食材のおいしさには、さまざまな要因があります。例えば、収穫直後が一番おいしい果物もあれば、時間をおいたほうがよい果物もあります。どういう時期にどんな旬の果物や野菜、水産物があるのかを知ってください。食料の生産から流通に関心を持ち、食のおいしさと健康を一緒に考えていきましょう。
卒業論文テーマ例
- インスリン抵抗性指標を用いた2型糖尿病発症リスクの予測
- ウンシュウミカンにおけるフラボノイド含有量と糖度との相関性
- 血中サイトカイン類プロファイルと生活習慣病リスクとの関連性の検証
- シクロデキストリンを用いたカロテノイドの可溶化法の検討
- HepG2細胞を用いた肝障害モデルに対するカンキツ機能性成分の抑制効果
- β-クリプトキサンチン製造のためのカンキツ未利用資源の有効活用について
- カンキツフラボノイド類の含有量と糖度の相関性解析
- 大豆摂取と肥満発症、肝機能異常症発症リスクとの関連について
- 抗酸化ビタミン・カロテノイド類の摂取パターンと動脈硬化リスクとの関連
- シクロデキストリンによるカロテノイドの可溶化および細胞への取り込みの検討
- LC/MS/MSを用いたフラボノイド類の高感度分析法の検討