「食」
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「科学」
×
「楽しみ」
味や香りを科学し、
おいしく、豊かな
食への貢献を目指します。
食物栄養科学科
真部 真里子教授
生きる楽しみを支える「風味、おいしさ」を追究しています。
味噌汁の塩味の強さは、家庭によって異なります。そこで、家庭の味噌汁調査を行ったところ、薄味を好む家庭は天然だし、とりわけかつお節を使っていることがわかりました。「かつお節には薄味をおいしくする秘密があるのではないか」と考え、さらに研究を進めることにしました。
私の研究領域である「調理科学」は、生活に密接した「調理」を、自然科学や人文社会学的な幅広いアプローチから追究し、体系化する学問です。なかでも私は「風味、おいしさ」をテーマにしていますので、人の感覚を使った食品の嗜好や品質を調べる「官能評価」が不可欠で、機器による分析と組み合わせて研究しています。
さて、「かつお節」の研究では、かつお節には、うまみ成分による料理をおいしく整えてくれる効果だけでなく、塩味増強効果もあること、それがかつお節に多く含まれるヒスチジンというアミノ酸に由来することを明らかにしました。また、面白いことに、薄い塩水にかつお節のにおいだけを付けたものを飲んでも、脳が「うま味がある」と誤解し、私たちはおいしいと感じることもわかりました。
醤油の香りについての研究も行っています。醤油の香りに塩味を強く感じさせる力があれば、使い方を工夫して、塩分を控えた食事をおいしくできるのではないか、と考えたのが出発点です。結果、醤油の香りには塩味を強く感じさせる効果がありましたが、残念ながら加熱するとその効果が失われてしまいました。そこで、ほかの調味料を合わせることによって、加熱しても塩味増強効果が維持できないかと考え、研究を続けています。
こうして導き出したデータを企業で活用くだされば、塩味増強効果を利用した調味料の開発が実現し、減塩した食事をもっと楽しめる可能性が出てきます。食事は命に直結し、生きる楽しみでもあります。多くの人の彩り豊かな人生に貢献できる研究を、と考えています。
生きる楽しみという観点から、嚥下食の研究も行っています。嚥下食とは、加齢や病気によって嚥下機能が低下した人のために、食べ物を軟らかくしたり、とろみをつけ飲み込みやすいよう工夫した食品のことです。においは「好き嫌い」の「嫌い」を決定づけるので、嚥下食を作る過程でのにおいの変化を明らかにし、改善することによって、楽しく食べられる嚥下食の開発につながるのではと考えています。
また、食文化の視点からも研究を行っています。桜餅に代表される葉で包まれたお菓子は、古くから愛されてきた日本の食文化です。葉の種類や包み方によってお菓子の香りはどう変化するかや、その香りを若い世代がどう感じているかなど、香りと食文化伝承の両面から研究を行っています。
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実験・実習を重ねて、社会に必要とされる能力を磨きます。
私のゼミでは、主に前述の研究テーマのもと、学生が卒業論文に取り組んでいます。官能評価は、本学の倫理審査を通したうえで本学科の4年次生を対象に、インフォームドコンセント(説明と同意)を得てから実施します。衛生管理を徹底して実験室にブースを設け、サンプルをそろえて入念に準備を行います。人を対象にした評価であるため責任も大きく、学生にとっては緊張の連続です。回を重ねるごとに、担当する学生の顔つきが引き締まり動きも変わっていきます。結果が出たときの達成感はひとしお、といったところです。
官能評価後は機器分析が必須です。ガスクロマトグラフという分析機器を使ってにおいの成分を分離した上で、官能評価結果の鍵になる物質を絞り込みます。それらが食品に使用可能なものであれば、取り寄せて、その効果を官能評価で確認します。
官能評価も分析もコツコツと積み上げていく地道な活動です。それらを根気よく続けて卒業論文にまとめ、4年次生の卒論発表の場でプレゼンテーションします。120%の力を出し切って学びの成果を発表した後は、今までとは違う世界が見えてくるはずです。そうした経験を経て自信を身につけ、社会に大きく羽ばたいていってほしいと考えています。
ゼミも学科の授業もチームでの実習・実験が中心であり、一人ひとりが役割を担って自律的に動かなければ何も始まりません。自分の力を最も発揮できるのはどんな役割か、リーダーシップをとるとはどういうことかを4年間の実習・実験から体得していきます。
チームでの作業は個々の責任も大きく、失敗や成功もありますが、それらはすべて社会で生きてくる経験です。周囲に目配りをしながらチームメンバーの動きを見て、同時多発的に仕事をやりこなす能力は、どんな職場においても実践力になります。
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キッチンで自然に体が動く、それだけの技量を持つ学生たち。
本学の食物栄養科学科では、1年次から調理実習があり、衛生管理や調理器具の使い方は非常に厳しく指導します。例えば、ザルに少し食品が残っていると竹串で丁寧に取るなど、どの学生も基本に忠実です。本人は自覚がないかもしれませんが、調理の基本を徹底して守る姿勢は感心するほどです。だからこそ、家庭で自分が台所を切り盛りするときに、自然に体が動くという卒業生がとても多いのだと思います、3年次の調理実習で学んだ豪華な料理をお客さま用レシピとして大切に残しているという学生もいます。「食」「調理」「健康」の基本が身についていることは、人として何よりの強さだと思います。
暮らしのなかの課題に気づく授業科目が1年次にあり、食だけでなく、住居学や被服など生活すべてに興味・関心を持ち、学べるのが生活科学部の特長です。
さらに教養科目だけでなく、他学科の授業科目、大学コンソーシアム京都や同志社大学の科目も受講して、どんどん知識・教養を広げてほしいと思います。
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受験生のみなさんへ
「これは役に立ちそう」、「これならできそう」ではなく、「面白そう」を基準に、学びに挑戦してください。「面白そうな学び」は、今だけでなく数年後に生きてくることがとても多いのです。そして、自分の視野を広げられるかどうか、という点からも進路を考えてください。未知数を楽しむことにチャレンジできるのが大学であり、そのチャンスが豊富な大学が同志社女子大学です。
卒業論文テーマ例
- 鰹だしに含まれる呈味成分が塩味増強効果に及ぼす影響
- だしの風味が塩味・うま味の認識に及ぼす影響―日本と台湾の比較―
- 鰹だしの後鼻腔経由のにおいによるおいしさの増強
- 和食における煮汁の香りが塩味に及ぼす影響
- 醤油のにおいが塩味に及ぼす影響
- チキン・ブイヨンの減塩効果に関与する物質の検索
- チキン・ブイヨン中の油脂が減塩効果と風味に及ぼす影響
- 嚥下調整食への展開方法によるにおいの変化
- 「凍結含浸法」による嚥下調整食への展開が風味・嗜好に及ぼす影響
- 調理加工法が離乳食のにおいに及ぼす影響
- 包みとしての植物の葉からだんごへの香り移り-桜餅を中心に
- サトイモの含め煮におけるうま味成分の浸透
- 食経験と教育がふなずしの嗜好性に及ぼす影響
- ふなずしのうま味生成に関わる低分子ペプチドとアミノ酸の変化
- 食嗜好におけるにおいの重要性-味噌汁を用いて-
- 家庭での味付けが塩味嗜好に及ぼす影響