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教員が語る同志社女子大学の学び

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「世界」

19世紀のイギリス小説。
作家が紡いだ言葉から
私たちの今を問います。

英語英文学科

木島 菜菜子准教授

C・ディケンズを中心としたイギリス文学を研究。

「今、古典文学を読み直す価値はどこにあるのか」
チャールズ・ディケンズを中心に19世紀のイギリス文学を研究している私は、多くの文学研究者と同様、常にそれを考えています。
現在は大きく分けて3つのテーマに取り組んでいます。1つめは、脱植民地主義の観点から英文学を読み直すことです。かつてイギリスが帝国として植民地を広げたことにより、世界の多くの地域で、近代化が西洋化とともに進みました。文学や教育など多様な分野で「西洋の考え方に縛られていないか」を問い直す研究が進むなか、私も「脱植民地主義的な観点からディケンズを読み直す」国際プロジェクトに参加しています。各国の研究者と議論を重ね、最近はロンドン大学発のオンライン雑誌への論文投稿や特別号の編集に力を注いでいます。

かつて日本も植民地をもっていた歴史があるため、私の立場から「脱植民地主義の観点」を研究するのは難しいところもあります。だからといって日本の植民地支配を研究しようとすると、ディケンズの研究から離れてしまいます。あくまでも私の軸足は19 世紀のイギリス文学です。
ディケンズの作品で、孤児のオリバーが様々な困難に立ち向かう『オリバー・ツイスト』という小説があります。私はこの作品と是枝裕和監督の『万引き家族』の比較研究を行いました。『万引き家族』は2018年にカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞し、イギリスでは”現代の『オリバー・ツイスト』”と紹介された映画です。社会の周縁に生きる人たちが、それぞれの作品の中心にどう捉えられているか。今の日本社会を生きる人間の観点から見えてくる古典作品の新しい読みの可能性を探っています。

2つめの研究テーマは視覚的な表象表現です。小説を読んでいると、見たこともない場面や風景が見えるように思うことがあります。「それはなぜか」に関心を持ち、研究を続けています。
作品の中の風景描写は、実は物語と関わりが深く、ストーリー展開や人物造形、登場人物の感情が反映されています。例えば、登場人物の目に映る風景を描くことで、その風景から人物の内面を表現する技法もあります。
18世紀から19世紀のイギリスでは、「絵のように美しい」ピクチャレスク美学の概念が広がり、小説にも影響を与えました。この背景には、貴族がヨーロッパ大陸に渡り、フランスからアルプスを越えてローマに入るグランド・ツアーの流行があります。ヨーロッパ大陸の風景画がイギリスに持ち帰られ、小説にもそうした風景描写が取り入れられました。19世紀半ば以降は田園風景が流行し、トマス・ハーディという作家もイギリスの田舎を舞台にした小説を書いています。歴史・文化・美学さまざまな要素が重層的に小説に影響を及ぼしていることがよくわかります。

3つ目のテーマは、19世紀の作家ジョージ・エリオットの研究です。男性のような名前ですが、女性です。当時は女性が書いた小説が軽視されやすかったため、男性の名前で小説を書くのはよくあることでした。リアリズムを探究した作家で、特別な人物や出来事ではなく、普通の人々の日常を描いた作品を残しています。「世界で一番好きな小説は何か」と尋ねられたら、私はジョージ・エリオットの『ミドルマーチ』を挙げます。それほど好きな作家の研究も、細々と続けています。

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「文学研究ほど楽しい分野はない」と私は思っています。多くの人が映画やドラマ、マンガ、ゲームの物語を好きなように、私も小説の物語が大好きです。登場人物に感情移入したり、ハラハラドキドキしたり、そうした素朴な読みこそ大切で、「なぜこんなに楽しかったのか」を考えることが研究の第一歩です。
初めてディケンズの作品を読んだのは、高校入学前の春休みでした。『二都物語』を読み、「世の中にこんな面白い小説があったのか」と驚きました。当時は研究者になるなど夢にも思わず、その後はディケンズの小説から離れていました。再会したのは大学院に進んでからです。

ディケンズの研究は良い論考がたくさんあり、とくに1970年代から80年代は言語に着目した研究が進みました。これら優れた研究者の論文を読み、考えをたどることで、私も思考力や議論の筋道の立て方を鍛えられました。
小説は作家が選んだ言葉の集合体であり、言葉が作品を作っています。時代を超えて読みつがれてきた作品は「なぜ、この単語が選ばれているのか」、「なぜこんな言い回しをするのか」を読者に問いかけ、世界の見え方を変えてくれます。

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ゼミで文学議論を重ねて、本当の英語運用能力を磨きます。

「古い作品は先行研究がたくさんあるのに、私たちが研究して新しい何かを見つけられるの?」と、ゼミに入ったばかりの学生は戸惑います。しかし、多くの先行研究を読むことで思考力や言語運用能力が鍛えられ、文学議論を重ねるなかで1つの作品に対して多様な議論ができることがわかります。やがて視野が広がり、「自分らしい何か」を見つけて卒業論文に取り組む学生の成長は、目覚ましいものがあります。

3年次の前期はゼミ生全員で同じ短編を読み、担当の学生にその作品の疑問点や時代背景に関するプレゼンテーションをしてもらいます。2025年度はトマス・ハーディの作品を取り上げました。読後の直感的な感想を共有し、作者の意図や文学技法を確認しつつ、その作品が何を描こうとしているのかを議論します。ここで学生が気づくのは、同じ作品を読んでも、人により着眼点がまったく違うことです。物事を多角的に見て、周囲の視点を受け入れ、そして自分の考えを言語化する経験であり、社会に出てから最も必要とされる能力です。

文学作品は作家が社会や世界を理解しようとして生み出すものであり、それを丁寧に読み進めることは異文化理解のアンテナを増やすことになります。人生は一度ですが、作品を読むことで時代を超えて数多くの人生に触れ、想像力や共感力が養成されます。こうした他者の立場に身を置いて考える力を磨くことも「古典文学を読み直す価値」のひとつです。

3年次の後期は長編小説に取り組みます。2025年度はシャーロット・ブロンテの『ジェイン・エア』を取り上げました。担当学生によるプレゼンテーションとディスカッションは英語で進めます。
学生にアドバイスするのは「英語を滑らかに速くしゃべる人が、必ずしも良いことを言っているわけではない。そこに気圧されないで」ということです。日本語でも考えながら話すと時間がかかるし、言い淀んだりする。英語でそれに慣れる練習を続けます。

4年次になると好きな1作品を選んで、日本語か英語で卒業論文の執筆に取り組みます。19世紀のイギリス文学だけでなく、『クマのプーさん』やカズオ・イシグロ、アガサ・クリスティなどの作品・作家を取り上げる学生もいます。『ジキル博士とハイド氏』と映画『スパイダーマン』に描かれる悪役の二重人格をテーマにあげる学生もいて、それぞれが好きな物語に向き合い、良い論文を執筆しています。

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個性を力に変えていく強さを持った学生たち。

同志社女子大学の学生はグループワークがとても上手で、授業でもゼミでもディスカッションが活発です。女子大の強みと言えるかもしれませんが、異性の目を気にすることなく素直に発言してくれます。また、多様な意見が出ても、リーダーが非常にうまくグループを運営しています。お互いの発言をうなずきながら聞いたり、相手の話を引き出すために聴く姿勢も見事で、頼もしく感じるほどです。

学生個々のコミュニケーション能力が高いことと、同じジェンダーという共通項があるため、議論を始めやすいメリットもあるでしょう。社会に出れば、ジェンダーも年齢も国籍も違う人とコミュニケーションをとるのが日常です。今は恵まれたこの環境のもとで、できるだけ多くの練習を重ねて、引き出しをたくさん作ってほしいと思います。

表象文化学部であることも、学生の成長を強力に後押ししています。一人ひとりの発想や独自の表現を大切にする学部なので、読み方や着眼点の違いも自信を持って言語化できます。「人と違っていいんだよ」、「人と違うことに価値がある」と常に伝えており、本学の学生にはそれを素直に受け取り、自分の力に変えていく強さもあります。「先生は何を言っても褒めてくれる」と学生は言いますが、「あなたたちは褒め甲斐がある」と私は思っています。

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受験生のみなさんへ

英語学習では、基本文法をしっかりと身につけるために高校での毎日の授業を大事にしてください。受験のための英語学習は、英語を学ぶ上でとてもいい材料です。そうして基礎を積んでおけば、大学で自分の好きなこと、興味のあることを徹底的に追求できます。英語英文学科を目指す人は日本語の力も大切なので、日本語の本もたくさん読んでください。

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木島 菜菜子准教授

表象文化学部 英語英文学科 [ 研究分野 ] イギリス文学 文学と絵画 風景

研究者データベース

卒業論文一覧

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卒業論文テーマ例

  • Kazuo Ishiguro’s A Pale View of Hills, the Deception of Memory and Self-Justification
  • ジョージ・オーウェルの政治観と『動物農場』と『1984年』
  • A Warning against Human Conceit in The War of the Worlds
  • Henry James, The Turn of the Screw: Relationship between Governess and Ghosts
  • 『わたしを離さないで』にみる記憶の再構築
  • The Multifaceted Nature of Love in Klara and the Sun
  • 非現実の中にあるリアリズム: Gulliver’s Travels研究
  • Henry James’s Daisy Miller : Does Daisy deserve her death or was she a victim ?
  • Frankensteinにおける科学の暴⾛と⼈間の責任
  • 『不思議の国のアリス』における非現実世界でのアリスの変化
  • Women in a Male-Dominated Society: Voices of Women in Agatha Christie’s The Witness for the Prosecution
  • カズオ・イシグロ『日の名残り』における自己省察と黄昏時
  • Arthur Conan Doyle, A Study in Scarletにおける善と悪の境界線の曖昧さ
  • アレゴリーとして読み直す『クリスマス・キャロル』-スクルージの人間的成長
  • George Bernard Shaw, Pygmalionにおける変化することの複雑さ
  • Jane Eyreにおける経済力と自由恋愛 ― 選ぶ自由をめぐる力の非対称性
  • Strange Case of Dr. Jekyll and Mr. Hyde と映画 Spider-Man にみる人間の二面性
  • A Midsummer Night’s Dreamにおける恋の盲目さと心で見る愛