「アメリカ文学」
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「表象」
文学研究を通して
米国の社会問題の
根についても考える。
英語英文学科
福島 祥一郎准教授
世界中の作家に影響を与えたエドガー・アラン・ポーを研究。
「文学研究とは、何をするのですか」、「どう役に立つのですか」。19世紀アメリカ文学の研究者である私は、受験生を中心にこうした質問をよく受けます。
一般的な文学研究のイメージは、作家の生い立ちを調べ、どんな意図でその小説を書いたか考察することでしょう。しかし、現在の文学研究はそれだけにとどまりません。より多様な研究に開かれています。
私の研究分野で言えば、作品の分析を通じて、19世紀のアメリカ社会と作品との関係を明らかにしたり、そこでの人々の生き方がどのように描写されているかを考えたりします。こうした視点は、黒人差別の問題など現代にまで続くアメリカ社会の課題をより深く理解することにもつながりますし、文化のアメリカ化が進行した日本、および世界について、これまでとは異なった視点から考えることを可能にしてくれます。この裾野の広さが文学研究の醍醐味だと思っています。
私は“探偵小説の父”と呼ばれるエドガー・アラン・ポーを学部時代から研究していますが、ポーに興味をもった理由のひとつにその影響力の大きさがあります。ポーに影響を受けたと語る作家は、時代を問わず世界中にいます。日本では夏目漱石、芥川龍之介、江戸川乱歩、イギリスのコナン・ドイル、アガサ・クリスティ、フランスのボードレール、アメリカのスティーブン・キングも、です。なぜこれほど多くの文学者に影響を与えているのか、これほど影響力のある作家を研究すれば、近代文学、あるいは近代の社会について何かわかるのではないか、と考えたのが研究の出発点でした。
ポーが活躍した19世紀半ばは、アメリカが急速に近代化・都市化した時代です。ニューヨーク市の人口が40年で約8倍に増加し、読み書きができる中産階級が増えていきました。雑誌が次々と創刊され、その誌面を埋めるかのように多くの小説が書かれました。この時代は、アメリカを代表する作家が何人も生まれたこともあり、後に、文学史上、アメリカン・ルネサンス期と呼ばれるようになります。
ただし、都市化により人間関係が希薄化し、隣人が誰かわからないという状況も生まれました。そうした社会の変化をいち早く見抜いたポーは、探偵小説や犯罪告白小説などの新しいジャンルの物語を次々と生み出していきます。
例えば「黒猫」や「告げ口心臓」という作品は、目の描写が非常に多いのが特徴ですが、そこには「見る」・「見られる」という都市の人間関係に特有の不安を読み取ることができます。また「告げ口心臓」におけるのぞき見の描写には、気味悪さとともに「見ること」の暴力性が描き出されており、ポーの問題意識の一端が伺えます。
ポーの生きた時代は、現代まで続く社会課題の根がいくつも潜んでいます。現在アメリカで起きているBlack Lives Matter運動も、その運動の意味を正しく理解するためには、アメリカにおける奴隷制の歴史を避けて通ることはできません。現代の問題に向き合うには、どのように歴史が展開してきたかを知り、考える必要があります。ただし、漠然と歴史を眺めたのでは具体性に乏しく、深まりません。そこで必要になるのが、具体的なテキストです。文学作品は作家の思想や意図だけでなく、当時の政治や文化、さらには社会の雰囲気や慣習など、多くのものが詰まっています。そこに表象されたものを掘り下げていくことによって、私たちはその時代をより深く知ることが可能となり、単なる歴史年表からではうかがい知れないものを発見することができます。そうした経験は、今につながる社会課題を考えるためにも不可欠なことでしょう。文学研究はまさに時代を読む技法でもあるのです。
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文学だけでなく19世紀のアメリカ文化にも迫っていきます。
私のゼミのテーマは「19世紀アメリカの文学・文化」です。3年次生のゼミでは19世紀のアメリカを題材とした映画『グレイテスト・ショーマン』を観て当時の社会背景を探り、21世紀の映画として成立させるためにどんな点が改変されたのかを探っています。さらに『若草物語』を読んで女性たちの置かれた状況についてディスカッションをし、ナサニエル・ホーソーンの女性を主人公とした作品などから、ジェンダーについても考えていきます。
ポーと同時代の日本は、江戸時代末期にあたりますが、その頃の文章を読むのは、現代の日本人にとっても相当な訓練が必要になります。
なぜなら日本語はこの200年で大きく変化したからです。一方、英語は日本語に比べて言葉の変化が少なく、外国語学習者でも19世紀の作品を原文で読むことが可能です。当時の文章は文体が固く、また会話体が少ないなどの読みにくさはありますが、文章構造のしっかりした当時の作品を読むことでリーディング力を身につけることもできます。
またゼミではディスカッションも重視しています。ある目標を持ったチームが、目標を到達するために議論を重ねる習慣は、日本ではまだ不足気味です。アメリカ文化や文学を通して自分の問題意識を広げるなかで、自分の言葉で発言できる力を身につけてほしいと思います。その際、簡単なスピーチは英語で行ってもらいます。
学生の卒業論文のテーマは、文学にとどまりません。現在の4年次生ゼミはアメリカ文化に興味がある学生が多く、フェミニズムの発展史に関心を寄せるゼミ生もいます。アメリカを代表する作家ジョン・スタインベックを研究する学生から、奴隷制や公民権運動の問題を映画から読み解く学生までさまざまです。
私が指導で重視しているのは、学生自身が自分なりの問題意識を持ち、それを掘り下げていくことができるかということです。さまざまな文脈を考慮に入れながら物語を読み、解釈していくことは、簡単なことではありません。しかし、文学作品に表象されたものの奥にある様々な問題を自分で見つけ出し考え抜く経験は、社会の矛盾や課題を発見する力につながります。問題の本質にアプローチするために、小説など表象から読み取っていくプロセスを学び、そうした力を身につけてほしいと考えています。
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互いを尊重・受容し、意見交換ができる学生たちです。
同志社女子大学の学生の特長は、「真面目さ」ではないかと私は思っています。その「真面目さ」とは、ただ与えられた課題をやり遂げるといった単純なことではなく、問題を真剣に考え抜く一途さや、相手を受容し、称賛する誠実さです。そうした学生が多いため、ディスカッションでは人の目を気にして意見が言えないといったことがなく、互いを尊重し信頼して、建設的な意見交換ができます。
1200年の歴史を誇る古都の中心という立地の良さ、静かに勉強できる環境に恵まれているという点も真面目さを育む理由のひとつだと感じます。何より、キリスト教主義、国際主義、リベラル・アーツという教育理念を守り、教員がその理念からぶれることなく指導ができるため、学生は落ち着いて学べるのだと思います。
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受験生のみなさんへ
新型コロナウイルスという未曾有の危機に直面し、不安を抱えている受験生がたくさんいるかと思います。つらいことも多いでしょう。ただ、「つらい」という経験からしか見えてこない「風景」があり、それを経験したことで得られる新しい「ものの見方」があります。いまの状況を自分がどう感じているか、この状況により生まれた思いや考えをどうか大切にしてください。必ずやこれからの人生の糧になるはずです。
卒業論文テーマ例
- 『怒りの葡萄』からみる世界恐慌時代の貧富の格差と土地
- 『若草物語』からみる19世紀の女性の価値観
- フェミニズムの観点から見た19世紀アメリカの黒人女性と白人女性
- アメリカ人女性の人種差別と社会進出
- 化粧品から見えてくる人種差別問題
- 奴隷制度の定着から現代への道のり