「インクルーシブ」
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「発達」
こどもの豊かな
体験世界への理解を深め
特別支援教育を支えていきたい。
現代こども学科
勝浦 眞仁教授
エピソード記述を活用して「わからない」をすくいとる。
発達障がいや自閉症など配慮の必要なこどもたちが、どんな世界を生きているのか。そして保護者・家族のサポートのあり方とは。特別支援教育を専門にしている私の研究テーマです。
「インクルーシブ」とは、さまざまな人たちが個性や特性を認め合って共に生きる考え方です。その考え方は教育の場にも広がっていますが、一斉授業が行われる学校教育の現場でインクルーシブ教育を実現するには、様々な課題を抱えているのが現状です。
また、従来は障がいのあるこどもたちがインクルーシブ教育の中心でしたが、最近は、海外にルーツのあるこどもや、高い知能を持つギフテッドのこども、学習にこだわらない保護者の増加といった社会の変化に伴い、多様性の概念が広がってきました。そうした状況であるため、日本の教育・保育の現場はインクルーシブ教育の過渡期にあります。
これまでの教育現場では、配慮の必要なこどもたちを一部すくい取れなかったことが明らかになってきました。そのひとつが、女児の発達障がいです。衝動性の強い男児は支援の必要性がわかりやすく、例えば、ASDの8割が男児だと考えられていました。しかし最近では、性別による差はないかもしれないと言われています。女児が比較的おとなしいために配慮の必要性が見えなかった、すくいとれなかったのです。結果、大人になってから発達障がいだと診断される女性が増えています。
こうした目に見えにくい内面をできるだけ「すくいとりたい」と考える私は、教育・保育の現場に出向き「エピソード記述」という方法で研究を続けています。観察者がこどもや先生とかかわりながら、印象に残ったできごとや出会いをエピソードにして描き出すことで、新たな人間理解を作り出す方法です。ポイントは、客観的に事実を積み上げていく「記録」ではなく、観察者の主観を述べる「記述」である点です。従来は記録が主流だったために、すくいとれない部分が確かにありました。たとえば「こどもをほめた」という記録だけではなく、「私はこう感じたので、こうしてこどもをほめた」という観察者である保育者・教師の主観を織り交ぜて、意図や心の動きといったエピソードを描き出す。それによってこどもへの理解を深め、対話を開き、子ども自身の自己理解にもつなげていくことを目指しています。
具体的には、特別支援教育士・公認心理師という専門家の1人として、京都府の教育委員会やエピソード記述を導入している各地の保育園を訪問しています。小・中学校では、先生たちは配慮が必要なこどものネガティブな面にどうしても目が行きがちですが、その見方を変えることを仕事のひとつとしてきました。「困った子じゃなくて、困っている子だよ」を伝える役目です。「この子にはこんな素敵なところもありますよ」と伝え、環境の整備や異なるかかわり方を提案することで先生をサポートしたいと考えています。これらの研究を書籍にまとめて、先生たちの教材として活用してもらっています。同時に、現場の先生たちが懸命にこどもに向き合っている姿を描き出し、研究のそ上に載せることによって、社会全体でこどもたちへの支援を考える土壌を作っていきたいと考えています。
また地域連携のひとつとして、本学内に「発達よろず相談室」を設けています。発達上の特性のあるこどもや、その子のきょうだいの発達を心配されている保護者を対象に、私が相談に応じています。一緒に遊びながら、その子の特徴や強みについて家族と一緒に理解を深めながら、どうすれば安心できる環境がつくれるのかを考えています。学生もボランティアで参加してくれています。
特別支援教育に関心を持ったきっかけは、大学時代にボランティアで療育の現場に行ったことです。人間そのものに興味があった私は、10歳下の弟の成長を見るなかで発達を学ぼうと大学へ進学。「フィールドに出なさい」という恩師の指導のもと、配慮の必要な幼児がいる現場に行きました。そこでロープを登る遊具で楽しそうに遊んでいた子がいたのですが、療育の先生がこうおっしゃった。「足を持ってあげてください、その方が登りやすくなります」と。けれども私は「今この子はうまく登れなくても楽しそうにしているのに、自分が足を持つことで、この子が遊んでいる世界を壊すことになりはしないか」と考えました。こどもが感じる世界と、大人が考えるこどもの世界は違うのではないか、と。以来、こどもの理解にフォーカスを当てて研究を続けてきました。
とくに自閉症のこどもの世界にひかれました。砂場で、砂を握って落とす遊びを何度も繰り返しているこどもがいて、私は隣でその子と同じ遊びをやってみました。すると「パタパタパタ」と喋ってくれた。「砂を使って、音の世界を楽しんでいるんだよ」と教えてくれたのです。こどもの体験世界に触れる面白さを知り、人間として豊かなこどもに出会って視野が広がった経験です。
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多彩なゼミ活動で、学生は能動的に学び、成長しています。
ゼミのテーマは「インクルーシブな社会づくりのためにできることを考えよう」です。障がいのあるなしだけでなく、「困ったな」を抱えている人たちをどう手助けできるか考え、行動できる人になるのがサブテーマです。フィールドワークを中心に学び、教員や保育士を目指す学生だけでなく、一般企業へ進む学生もふくめて、将来にわたって人生を豊かにする観点や力を身につけてほしいと考えています。
そこでゼミ活動のひとつとして、自閉症の親の会に所属されている保護者の方に来学いただき、学生がインタビューを行っています。どんな思いで子育てをしてきたか、大変だったのはどういうことか、あるいは乳幼児期にほしい支援や社会のあり方など、お話を伺います。大事なニーズをしっかりと拾い上げられる人になってほしいと考えています。
そのほかゼミ活動として、京都府立南山城支援学校とのコラボレーションも活発です。例えば2026年に 45周年を迎える同校の渡り廊下の壁を楽しくしようと、ゼミ生がデザインを担当し、こどもたちと一緒に作るダンボールアートに取り組んでいます。
特別支援学校では、こどもの苦手な部分や得意なことに合わせてコミュニケーションをするため、さまざまなツール(教材)を活用します。2025年度は神奈川県にある国立特別支援教育総合研究所を訪問して、それらのツールを実際に手にして学びました。この経験にヒントを得て、卒業論文を執筆した学生もいます。
一般企業への就職を目指す学生の多くは、アンケート調査を行い、その結果を分析する手法で卒業論文を執筆します。 学校・保育の現場に進む学生は、一人ひとりをどう理解していくか、さまざまな方向から考える力を身につけるため、主に事例研究型の卒業論文を執筆しています。たとえばエピソード記述を使って、家族にインタビューを行い、研究テーマに対する理解を深めています。
本学では病棟保育・特別支援教育を現場で学ぶ「SENs講座」を開講しており、兵庫県立こども病院でインターンシップを行っています。そこでの経験を元に卒業論文を執筆した学生もいます。事例への理解を深め、自分の考えを掘り下げて、よい論文を書いています。
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現場で学べる機会が豊富。現代社会学部だからこそ、です。
「SENs講座」では、入院中のこどもと学生が出会い、小児がんや呼吸器・心臓の病気があるこどももいるなかで、どんな遊びを提供できるかを考えて実践しています。大変難しいですが、貴重なフィールドワークに学生は懸命に取り組んでいます。また、こどもだけでなく保護者の思いに触れる機会にもなり、まさに現場で多くのことを学んでいます。現代社会のさまざまな課題を解き明かすべく、フィールドでの学びを大切にする本学の現代社会学部ならではです。そして、本学部の現代こども学科だからこそできる学びだと思います。
もちろん、学びのチャンスはキャンパスの中にもたくさんあります。他学部・他学科の学生の活動にも触れられるラーニング・コモンズや、学生から使いやすいと評判の図書館、創造力を存分に発揮できる現代こども学科の演習室など、学内の設備も充実しています。
こうした環境のもと、学生たちはとても能動的に授業に取り組んでいます。その姿勢と前向きさが、現場での学びをさらに深め、大学卒業後にも生きてくると思います。例えば障がい児保育というワークショップ形式の授業では、学生自らが実際の場面を想定してロールプレイを始めることがありました。人と人がつながる、インクルーシブな遊びをどう生み出していくのかを考える授業でも、創造力を発揮してチームワークよく取り組んでいます。リーダーシップがとれる学生も多いため、共同的活動は本学の学生の強みを発揮できる場だと実感します。
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受験生のみなさんへ
視野が広がる体験やチャンスがたくさんある本学なら、きっと新しい自分に出会えると思います。ポイントは「楽しかった」で終わらないことです。経験の言語化を重視している大学なので、言語化をして自分の実感にきちんと落とし込むことで、新しい自分に気づくことができます。私たち教員も、そうした機会をできるだけ提供したいと考えています。
卒業論文テーマ例
- 病気の子どもを育てる親への理解と支援の在り方―母親へのインタビューを通して―
- 不登校の子どもと安心感一事例の語りからみる関わりと受け止め方―
- 周りとの違いに気づいた発達障害のある女児はどのような心情を抱くのか
- 幼児期における自己肯定感の育ち ―イヤイヤ期と「根拠のない自信」に着目して―
- インクルーシブ教育における『学ぶ場所の選択』が児童に与える影響
- 実習⽣が感じる「想定外」について
- 子どものやる気スイッチをオンにするためには?
- 長く愛される絵本の特徴と傾向
- 大学生における恋愛依存とその要因
- 居場所としてのおもちゃ
- インクルーシブ保育における音楽活動の現状と合理的配慮
- 赤ちゃんはなぜ可愛いのか―コミュニケーションと愛着の重要性―
- 自分って何?―多元的な自己と共に生きる―
- 自閉スペクトラム症の子どもにおける社会性育成のプロセス―弟の分析を通して―
- 若い世代の子育てに対する考え―男女差を意識してー
- ドッグセラピーと家族 ―ただいることの意味―