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教員が語る同志社女子大学の学び

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「スポーツ」
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「フェアプレイ」
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「笑顔」

体育の授業を通して
こどもと先生を変える
指導モデルを開発中です。

現代こども学科

梅垣 明美教授

ボクシングを対象としたフェアプレイ醸成。

素手での殴り合いを、群衆が輪(リング)になり囲んで見ることから始まったボクシング。激しい闘いにやがてルールが持ち込まれ、スポーツとして発展してきました。
こうしたスポーツの近代化が私の研究テーマのひとつです。18世紀から19世紀におけるイギリスで、フェアプレイやスポーツマンシップがどのように醸成され、スポーツとして発展したのかという経緯を、ボクシングを対象に研究しています。

ボクシングを選んだのは、約30年前に同志社女子大学の図書館で出合った貴重な資料がきっかけです。当時、他大学の大学院に籍を置いていた私は、18世紀から19世紀のイギリスに関する資料が充実していた同志社女子大学の今出川キャンパスの図書館に通いました。そこで当時の貴族階級向けの雑誌のなかに、ボクシングの記事を発見したのです。

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死者が出るほど壮絶だった競技において、どのようにルールが定められ、フェアプレイに対する考え方が形成されていったのかを雑誌の記事から読み解いていきました。当時は賭けの対象になっていたことから、記事には対戦の内容・結果、試合の経過も書かれています。
18世紀は体格差が考慮されず、公平さへの配慮はありませんでしたが、やがて体重別やラウンド制が導入され、19世紀後半には現在のルールの原型ができました。

こうしたフェアプレイに対する意識の変化の背景には、精神的、社会的な変容が大きく影響しています。精神的な要因としては、信仰復興運動が盛んになった時期であり、キリスト教徒のあいだで、改めて信仰が問われた時期であることが考えられます。
社会的要因として、産業革命も挙げられます。1743年に制定されたボクシング・ルールを掲載した記事には、危険な素手ではなくグローブを使用したイラストが描かれています。産業革命によりグローブの開発が進むなど、社会の工業化もスポーツの近代化に影響を与えました。

公平性に対する考え方の変化が見えやすいボクシングを研究してきた経験を生かし、現在はスポーツ倫理学のフィールドで、フェアプレイやスポーツマンシップをどう捉えるかというテーマで論文を発表し、共著を執筆しています。

例えば、1992年の全国高校野球選手権大会で、4番打者だった松井秀喜選手が5打席連続で敬遠され、社会的にも注目を集めた事柄を取り上げ、スポーツマンシップについて論じています。「優勝よりも優秀であれ」という言葉が示すように、正々堂々と戦ってトップに立つことが一番のフェアプレイであり、スポーツマンシップだと私は考えています。

スポーツマンシップは個人の倫理観だと捉えられていたのは20世紀まで。現在はインテグリティ(高潔さ)が重視され、チーム・組織として公正さをどう保つかが重視される時代です。
プロ野球選手である佐々木朗希投手が高校時代、故障予防のために県大会の決勝に彼を出場させなかった監督の判断が今も議論になっています。目の前の勝利よりも、個人の将来やスポーツ界の未来を重視する選択肢があると認めることも、21世紀のスポーツ倫理です。

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体育の授業による人格形成。

一方で、私は教科教育の「体育における人格形成」についても研究しています。体育の授業の目的には知識や技能の育成がありますが、私は態度育成を重視し、理論の追究と実践を重ねてきました。身体活動を伴う体育は、こどもたちの性格や考え方がよく見える教科であり、体育の授業で態度を育成することは人格形成につながります。部活動のような規律訓練ではない学びであることを追究したいと考えています。

戦前教育が原因で、戦後は体育の授業における社会的態度の育成を批判する気運が世界中に広がりました。そして1980年代に入り、各国で一部の若者が問題行動を起こし社会課題となるなか、アメリカで「Character Education(人格教育)」が注目され始めました。
「Character Education」を体育の授業で取り入れようと「責任学習モデル」を開発し、実践したのがアメリカのヘリソン教授です。個人的責任と社会的責任を果たすことを指導するこのモデルの実践により、こどもたちが大きく変わっていきました。
私は日本にも取り入れたいと考えてヘリソン教授の論文を訳し、体育の授業で実践しました。

「責任学習モデル」は、最後まであきらめずに取り組もう、先生の話はきちんと聞きましょう、友だちの努力を応援しよう、といったことを、こどもたちが自己評価するシンプルな指導モデルです。先生は採点をするのではなく、こども自身の自己評価に対するアドバイザーを担い、常にフィードバックをしてこどもと対話を重ねます。
私は全国の学校に出向き、このモデルを体育の授業で実践することで学校が変わっていく様子を目の当たりにしました。こどもたちが笑顔になってあらゆることに前向きに取り組み、指導に疲れていた先生が活力を取り戻していく。その様子を見たときの喜びが、私の研究の原動力になっています。

最近は既存の責任学習モデルではなく、さらに進化させたモデル開発に力を注いでいます。生きていくために必要な力である非認知能力の重要性が問われるなか、その能力を高める指導モデルとして国内外に発信していきたいと考えています。

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スポーツに限らない、多様なテーマの卒論に取り組むゼミです。

私のゼミのテーマは「こどもを育てる運動・スポーツの探究」ですが、運動やスポーツに限らず、さまざまなことに関心を持つ学生が集まっており、卒業論文のテーマも多彩です。エンターテインメントに興味のある学生は、EXILEのライブコンサートにおけるエンターテインメント性や観客の精神性をテーマに論文を執筆しています。また女性のワークライフバランスについて社会学的なアプローチで迫り、学内アンケートをとって女子大生の結婚観をテーマに掲げた学生もいます。

学生に伝えているのは、関心の対象に関わる先行研究の論文をできるだけ多く読むことです。そこからテーマを絞り込み、オリジナリティのある卒業論文を執筆していきます。テーマ選びに悩む学生に対しては、希望の進路に関わる資料や論文についてアドバイスをすることもあります。例えば幼稚園教諭を目指す学生には、幼児教育の現場で導入が進んでいる非認知能力の育成に関する資料を紹介したことで、彼女も非常によい論文を執筆しました。

論文執筆を通して、学生はさらに能力を伸ばしていきます。だからこそ一人ひとりの個性・可能性をよく見て、成長を後押しするような言葉がけを大切にしています。計り知れない可能性を持っている学生の成長は、私自身の何よりの喜びです。

ゼミ活動では、現代社会学部としてフィールドワークも重視しており、ゼミ生の希望に合わせて、内容も柔軟に変えています。2021年度は学生の希望を募り、プロバスケットリーグのBリーグを観戦しました。ゼミ生の一人は、自身のバレーボール部での経験も生かしながら、プロバレーボールリーグのVリーグの活性化をテーマに卒論を執筆しています。

2021年度のゼミ生は小学校教諭3人、保育士・幼稚園教諭4人、一般企業3人と進路はさまざまです。どんな道に進むにしろ、学生それぞれがその人らしく、いきいきと笑顔で過ごしてほしい。悩みがあれば、できるだけ力になってその解消を支えたい。卒業後もさまざまなライフイベントが続き、考えこむこともあるでしょう。そのときに、前向きに乗り越えられる力を本学での4年間で身につけてほしいと願っています。

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保育を学んできた学生の「そうぞう力」の高さには驚きます。

まず本学の特長のひとつとして、学びの充実度が挙げられます。教育学部ではなく現代社会学部であることから、教育一色ではなく、広く社会科学の観点から現代社会について学び、考えたうえで専門領域に集中していく環境がとてもよいと思います。

また、保育課程の教育が学生に好影響を与えていることも実感します。保育について学んでいる学生の発想は柔軟で創造性に富んでおり、一人ひとりの潜在能力の高さに驚くことがよくあります。教育現場の指導者には柔軟な「想像力」と「創造力」が必須であり、本学の卒業生は、教育現場で確かな「そうぞう力」を十分に発揮してくれているでしょう。

教育力の高さも本学の特長です。現代こども学科では、各領域の第一人者である研究者がそろっていることにも驚きます。これだけの教授陣をそろえることは簡単なことではありません。そうした第一人者が中心となって、教職員が学生一人ひとりを丁寧に見て成長を後押しする教育は、本学ならではだと感じます。

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受験生のみなさんへ

大学時代は人生が変わる出会いが経験できる時間です。そんな出会いが与えられるのを待つのではなく、自分からアクションを起こしてください。徹底的に深めたいと思う学問との出合い、先生や仲間との出会い、それらを通じて人生は大きく動き出すと思います。

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梅垣 明美教授

現代社会学部 現代こども学科 [ 研究テーマ ] スポーツとキリスト教の関係・体育における人格形成

研究者データベース

卒業論文一覧

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卒業論文テーマ例

  • 放課後児童クラブの実態と考察:イギリスの取り組みとの比較を通して
  • 女性のワークライフバランスの維持に向けた支援の検討
  • 現代における女子大学生の結婚観:女性活躍推進に着目して
  • 感覚統合を育む幼児のための運動遊び・保育環境に関する検討
  • ディズニー・プリンセス作品に見られる女性像・男性像の変遷
  • 弱視児童と共に学ぶアダプテッド・スポーツを取り入れた通常校体育授業の検討
  • 児童の運動有能感を高める体育授業の研究
  • 非認知能力を育む幼児教育のあり方
  • 赤ちゃんと音の関わり:胎児と乳児への音楽による効果
  • 幼児期の被服行動と大学生の被服に対する価値観の関連性について