「発達」
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「異文化」
こどもの発達の
文化間比較を行い
教育現場に還元しています。
現代こども学科
塘 利枝子教授
大人の期待が映し出される世界の国語教科書を比較研究。
世界各国の小学校の国語の教科書を比べると、こどもや家庭の描かれ方の違いがよくわかります。例えばイタリアでは、小学校低学年の教科書に離婚や国際養子の問題が描かれ、ドイツの教科書でも外国籍の家族が描かれています。一方、日本の小学校低学年の教科書では離婚家庭を扱っているケースはありません。また、大人がこどものどんな行動を「よい」と考えるかといった「よい子」の描かれ方も、国によって異なります。
発達心理学を専門とする私は、大人の期待や社会・文化の違いがこどもの発達に与える影響に着目し、次の2つのテーマで研究を行っています。
1つ目のテーマは、日本を含む東アジアと欧州、全8か国の教科書に描かれているこどもの比較研究です。2019年度は世界の教科書を集めたドイツの「ゲオルク・エッカート国際教科書研究所」を拠点に、1960年代から現在まで各国の教科書に描かれているこどもの姿の変遷と文化的な違いを分析しました。
その結果、国語の教科書に描かれたジェンダーや家族役割に大きな違いがあることが明らかになりました。例えば、2020年の日本の教科書には父親が料理をする姿が今までとは異なり少し多く盛り込まれるようになりましたが、それでも同じ東アジアの台湾や中国と比べても少ないのが現状です。現実には母親の方が家事をすることが多いドイツでも、教科書には父親が家事をする場面が意識的に多く描かれています。
国語科は文字の読み書きの指導が主な目的であり、価値観を教える教科ではありませんが、だからこそ無意識の価値観や大人の期待が国語教科書にもそのまま反映されていると考えられます。次世代の価値観をどう変えていくかといった役目も教科書は担っていると考えられるでしょう。
2つ目のテーマは、帰国児童・生徒や外国にルーツを持つこどもたちの認知発達やアイデンティティとの関係についてです。異なる社会・文化の中で、それぞれの期待を背負って育てられたこどもの発達や異文化適応について、教科書分析研究と関連させながら研究を進めています。
日本でも地域によっては、外国にルーツを持つこどもが半数以上いる保育所や小学校もあり、こどもたちの異文化適応には保育者や教師の理解が不可欠だと考え、保育所や小学校における調査も行っています。
これらの研究成果は、現場の保育者や教師への研修という形で還元しています。外国にルーツをもつこどもたちが、言葉が話せないために発達障害だと見誤られるケースや、幼児期に日本語がわからないままで学習についていけないこどもたちもおり、その場合の指導方法について講義しています。
家族や友達との間で日本語を話していれば、学校の中で学習に必要な日本語能力は育つと思われがちですが、そうではありません。生活言語だけではなく学習言語の習得が欠かせず、学習言語を学び始める小学校低学年での日本語教育が重要になるのです。
日本においては、発達心理学の分野での異文化間研究はあまり進んでいません。しかし、現実には、外国にルーツを持つこどもたちが増え、二言語・三言語に日常的に触れるこどもたちの発達に注目が集まり始めています。教育現場においては課題が顕在化しており、発達心理学と異文化を掛け合わせて研究をしてきた私のもとには、現場の保育者や教師から研修の依頼や相談が増えています。
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テーマは自由。ただし社会科学の方法論で卒論に取り組みます。
私のゼミでは、異文化と発達障害を2大テーマとしていますが、ジェンダーに関心がある学生や教育実習を経てから新しい視点を得てテーマを変更する学生もおり、卒業論文のテーマは多様です。
どんなテーマであっても、現代社会学部らしく、社会科学の方法論で研究することを必須としています。資料や文献を単にまとめるだけでなく、学生を対象とした調査や卒業生へのインタビュー、または小学校教科書分析などを行って実際のデータと向き合い、現状の課題の分析・解決を目指した研究を重視しています。
例えば、教科書の学習指導要領が変わった前と後で、小学校道徳の教科書がどのように変化したかをテーマに、卒業論文に取り組んだゼミ生がいました。道徳の教科書の年代間比較とともに学年間比較を行い、学年によるこどもへの期待の違いを明らかにしました。ちょうど「日本子ども学会」が同志社女子大学で開催された年だったため、学生は他大学の研究者に交じってポスター発表を行い、学会の参加者から高い評価を受けていました。学生にとってはとてもよい経験になったようです。その学生は現在、小学校教諭として活躍しています。
こうした優れた卒業論文を作成するために、ゼミでは段階的な指導を行っています。まず文献の調査をはじめとした情報収集の方法を身につけ、次に論文の構成を理解するために本を読み込む力、さらに文章を要約して書く力を鍛えます。その後は卒論の作成に取り組み、相手にわかりやすく伝えるプレゼンテーション能力の向上に取り組みます。これらはどんな職種にも求められる能力であり、社会に出る前にゼミでしっかりと身につけていきます。
ゼミ生は小学校教諭、幼稚園教諭や保育士になる人、企業に就職する人などさまざまで、このように多様な進路をとる学生で構成されることがよいと考えています。保育士が目標だったけれども一般企業への就職を目指す場合や、一度は企業に就職したけれども小学校の先生になりたいと考える、そんなキャリアチェンジも十分にありえます。
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社会のあり方とこどもについて学べるのが本学科です。
現代こども学科は、教育学部ではなく現代社会学部の中に設置されたことに意味があります。こどもはさまざまな世界の多様な価値観の中で生きており、その状況を見極め、同時に社会のあり方がこどもにどんな影響を与えているかに焦点を当てて学ぶことができるからです。
そんな本学科が重視しているのは、想像(imagination)と創造(creativity)、2つの「そうぞう力」の養成です。こどもたちの状態を想像しながら、社会のさまざまな職種の人とコラボレーションして、何かを創造していく、そういった力をつけて現代こども学科の学生は卒業していきます。
卒業生へのサポートや卒業生と在学生とのつながりの強さも、本学科の特長のひとつです。私のゼミでも卒業生が相談メールをくれたり、学年を超えてSNSでつながっていたりして、お互いのコミュニケーションが活発です。卒業生が学科全体の特別講師として登壇してくれたり、平日に休みがとれる保育士はゼミに来て話をしてくれることもあります。社会人としての心構えや学生時代にこれをやっていればよかったといった話は、大学教員の言葉よりもまっすぐ学生の心に届いているようです。卒業生の姿を通して社会のさまざまな現状を知り、学生同士が情報交換できる場があることは、将来にわたって有益だと考えています。
また、上級生が下級生のサポートをしてくれる場面も多く、上級生の姿が学生の人生設計や学びによい影響を与えていると感じます。このような上級生と下級生の連携のよさは、同志社女子大学の学風そのものでしょう。私は以前、本学の卒業生に対するアンケート調査に関わったことがあります。「同女が好きです」という声がとても多く、そうした卒業生の思いに支えられて140年を超える歴史があることを実感しました。
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受験生のみなさんへ
いろいろなことに首を突っ込んでみてください。無駄だと思わず実際に体験し、自分がほんとうに好きなモノを探してみましょう。
やめたくなったらやめればいいし、戻りたくなったら戻ればいい。コロナ禍で「体験すること」が少し難しくなっていますが、工夫しながら積極的に好きなモノ探しに取り組むことが、将来につながっていくと思います。
卒業論文テーマ例
- 不登校児の母親の気持ちの変容過程と家族関係
- 自閉症児が在籍する特別支援学級での環境支援
-TEACCHプログラムの構造化を利用した物理的な環境構成- - 食玩から見る企業戦略
-江崎グリコ「グリコ」のおまけの歴史的経緯をふまえて- - 日本とフィンランドの国語教科書比較から見る設問の特徴
-PISAでの好成績に繋がる要因に着目して- - 異文化間で生活する子どもへの支援
―アイデンティティに焦点をあてて― - なぜ変わった名前が増えてきたのか
―名前と子ども観との関係から考える― - 地域の子育て支援の現状と課題
―京田辺市子育て支援Book製作を通して― - 子どものけんかへの保育者の葛藤解決
-3歳児と5歳児の比較- - 不登校当事者からみる不登校の意味づけと学校の存在意義とはなにか
- 外国人児童に対する日本語指導と学習指導のあり方とは
―中国にルーツをもつ児童の「DLA」の分析を通して― - 女子大学生の自己表明と自己肯定感・特性的自己効力感について
-アクティブラーニングの視点から- - 発達障害児の友達関係に対する母親の認識と期待
- 道徳の教科書からみる他者への援助行動に関する教育
―困っている他者を扱った教材に焦点を当てて― - セクシュアルマイノリティ当事者の自己肯定感と当該児への教育的支援
- ベトナムにルーツをもつ日本生まれ育ちの女子大学生のアイデンティティ形成
- 女子大学生の職業選択に関与する要因
- アセクシャル・ノンセクシャルの人々を通してみる日本の恋愛・結婚・家族観
―恋愛や結婚は当たり前にすべきものなのか― - 特別支援学校高等部生の就労先決定に向けての支援
-発達障害者支援センターと特別支援学校の支援から- - 児童にとって安心できる居場所づくり
-養護教諭の視点から- - 2歳児のふざけ行動
-ふざけ行動の生起と消失のメカニズム-