Vision150 将来構想(2017~2026)

同志社女子大学は、創立以来、「キリスト教主義」、「国際主義」、「リベラル・アーツ」を教育理念として、円満な人格を涵養し、国際的視野に立って建設的にかつ責任をもって生活し得る女性の育成に努めてきた。これまで、開学からの長きにわたり女子教育に携わってきた教育機関としての歴史を礎に、創立150年を迎える2026年に向けた新しい将来構想である「Vision150」を策定する。「Vision150」は、2017年度から2026年度までの10年間の活動方針を明示するものであり、同志社女子大学の目指す姿を教職員が共有し、社会に向けた明確なメッセージとして発信するものである。
なお、「Vision150」では、最初の5年間(2017年度~2021年度)を第1期、次の5年間(2022年度~2026年度)を第2期と区分し、5年間ごとの中期目標とそれを達成するための重点的な取り組み事項としてアクションプランを設定した。

近年の本学における改組改編を振り返ってみると、特に2000年以降、社会の動きや現代女性のニーズの多様化に対応すべく教育研究組織の改革に取り組み、大学の理念・目的に照らしあわせながら女子総合大学としての発展・充実の道を辿ってきた。
一方、今日の21世紀社会に目を向けると、グローバル化や情報通信技術の発展に伴い、様々な文化や価値観が流動化するなど、変化が激しく先行きが不透明な時代に移行しており、本学を取り巻く環境は変化を続けている。私たちは、大学が置かれた状況の変化と大学を取り巻く社会の変化を踏まえたうえで、Vision150の策定にあたる必要があると考えた。
本学は、開学以来、同志社創立者新島襄の志と「キリスト教主義」「国際主義」「リベラル・アーツ」という教育理念を大切に継承してきた。しかし、前述のとおり、社会は今後も激しくかつ多岐にわたって変化し続けると予想されており、それに伴って、本学に向けられる社会の期待と本学の果たすべき使命も変化を続けるであろう。理念や伝統など本学が変えてはならないもの、つまり「古きを大切にする」ことと、本学の優位性や独自性を維持しつつ社会の要請に対応していくこと、つまり「新しきを生きる」ことを両立させながら、未来を切り拓いていくことが求められている。

同志社女子大学は、中長期計画として「将来構想に向けた方針・方策」を策定し、7つの分野(理念、教育・学生支援、研究、施設・設備、社会連携、学生の受け入れ、管理運営・組織)における目標とともに2011年12月に学内外に公表し、2012年度から2016年度の5年間にわたり68事業を展開してきた。毎年度終了時には、事業の所管部署による自己点検・評価が行われ、当該事業の達成度を5段階に分類して進捗確認を行った。それらの自己点検・評価活動をとおして、この5年間でどのような成果が生まれ、どのような課題を残したのか、また新たな課題が生まれたのかを把握することにより、「Vision150」の指針とした。
本学では、「キリスト教主義」「国際主義」「リベラル・アーツ」を教育理念(Spirit)とし、同志社女子大学が育む女性像を「古きを大切にし、新しきを生きる。リベラル・アーツとともに品格と良心をもって、ゆたかな世界づくりに寄与する女性」と定め、これをMissionとしている。これらSpiritとMissionは、私たち教職員が将来にわたって変わることなく持ち続ける、ゆるぎない理念であり、「Vision150」を策定するうえでも重要な指針となった。
新島襄の女子教育に対する熱い思いと、その思いを受け継いで本学の礎を築いてきた先人たちの努力により、同志社女子大学は発展を続け全国でも屈指の女子大学として存在している。そうした自覚と責任、矜持を持って、設立当時とは大きく変化し複雑化した21世紀社会においても、同志社女子大学は、Spiritに基づいてより良い社会の実現に向けてリーダーシップを持ち行動ができる女性を育成し、「ゆたかな世界づくりに寄与する」Missionを果たしていく。

本学の目的とこれまでのあゆみ、本学を取り巻く環境等をふまえ、2026年に向けた同志社女子大学の新しい将来構想である「Vision150」のコンセプトは「21世紀社会を女性の視点で『改良』できる人物の育成」と定義したい。このコンセプトで用いている「改良」とは、新島襄が召天の1ヶ月前に、日本基督教婦人矯風会の書記を務めた佐々城豊壽に寄せた「世の革命者と成られよ。否世の改良者と成りて働かれたし」の言葉からとったものである。これから同志社女子大学の新しい歴史を築いていくにあたり、創立者新島襄が抱いた女子教育への思いを、私たちが受け継いでいきたいという決意表明として、新島襄の用いた言葉を「Vision150」のコンセプトの中に表現している。
Spiritである「キリスト教主義」「国際主義」「リベラル・アーツ」、そしてMissionである「古きを大切にし、新しきを生きる。リベラル・アーツとともに品格と良心をもって、ゆたかな世界づくりに寄与する女性」を育むことは、これからも変わらず私たち教職員が持ち続けるゆるぎない理念である。しかし、大学が厳しい環境にさらされる中、創立150年を迎える2026年に女子総合大学としてどうあるべきかを考えるとき、SpiritとMissionを時代背景に重ね合わせながら時代に応じた解釈を加え、「Vision150」として明確なコンセプトと目標、アクションプランを設定して大学構成員、とりわけ教職員で共有し学内外に広く発信して理解を得る必要がある。
第一に「キリスト教主義」とは、イエス・キリストの教えに基づく自由と愛の精神を尊重する人格教育、良心教育を実践することである。生活や雇用など、女性を取り巻く社会問題が深刻である中、弱者に対する暖かいまなざしや共感と共助の精神を持った女性の視点から社会を見つめ直し、考え、変えていく必要性が今後ますます増えてくるだろう。その時は、自己の利益にのみとらわれず、自由かつ主体的に他者への愛を実践できる女性、社会において「地の塩、世の光」となりうる女性がリーダーシップを発揮して社会を改良することになるだろう。
第二に「国際主義」とは、創立者新島襄の欧米における研鑽体験に基づき、言語・宗教・文化・歴史等の違いを超えて、国際的視野に立って世界を理解し、積極的にコミュニケーションを図り、国際社会に貢献しうる能力を養う教育を行うことである。今日のいわゆるグローバル化社会では、国境の意義が曖昧になり、組織を運営し経営的資源でもある「ヒト・モノ・カネ・情報」の流動性が増している。国同士の相互依存がより複雑に、より深いものになっているからこそ、世界規模・地球規模の視点は当然ながら、そこに女性の視点を加え、客観的に俯瞰し分析しうる能力を培うことの重要性を認識する必要がある。
第三に「リベラル・アーツ」とは、「人間とは何か、いかに生くべきか」という根源的な問いについて多様な視点から考察する精神を養う教育を展開することであり、高度な知識や技術の修得は当然のこととして、時代に相応しく生きる品位や徳性を持ち、バランスのとれた幅広くかつ奥行きのある人格を涵養することである。様々な社会問題を知り、考えて、主体的な態度と論理性、実践力によって問題の解決にあたっていく必要が一層増している。だからこそ、広範な視野を養い総合的な判断力と創造力を持って、専門的知識と技術が、社会をより良く変えるために正しく有効に活用できるための教育が必要とされている。
そして、Missionについては、Spiritに基づいた本学の使命としてどのような人物を育てていくのか、その提示を行ったものであって、単に表層的なキャッチコピーではなく、末永く多くのステークホルダーに対し、誰もが理解しやすく、かつ積極的な言葉で表現されている。このMissionは、私たち教職員の追求すべき人物像として普遍的な概念ではあるが、2026年までの10年間を見通すにあたっては、「女性の視点や感性を活かし自らの未来を切り拓きながら生きる」「人と人が幸せにつながる暮らし・世界・地球に貢献する」というエッセンスをより大切にしていきたい。それはつまり「21世紀社会を女性の視点で『改良』できる人物の育成」というVision150のコンセプトに込めた思いと言える。
「Vision150」は、「幹」「枝」「根」「葉」からなる大きな1本のツリーでその概念を表現する。「幹」はVision150のコンセプトを、3本の「枝」は創立150年を迎えるまでの10年間をかけて取り組むべき教育研究目標を、「根」は経営目標を、さらに3本の「枝」の先に大きく広がった「葉」は、教育研究目標と経営目標を実現するための中期目標を表している。大きなツリーで「Vision150」を表現することには、充実した経営力に下支えされた同志社女子大学が、社会と繋がり合いながら優秀な人物を輩出し続け、永続的に発展していくという決意が込められている。そして、「枝」「根」「葉」が太い「幹」を軸に結びついていることは、「Vision150」のコンセプトである「21世紀社会を女性の視点で『改良』できる人物の育成」を達成するために、同志社女子大学の教職員が力を結集して大学運営に携わっていくという私たちの姿勢を表している。

「Vision150」のコンセプトを実現するために、「創造性を育む教育の推進」「自分自身を生涯にわたりデザインできる女性の育成」「『学修するコミュニティ』の構築」「迅速かつ戦略的な意思決定を可能にする経営力の強化」の四つを長期目標として掲げたい。

1.創造性を育む教育の推進

10年後の2026年は、21世紀を迎えてから四半世紀が過ぎ、さらに先の時代がどのように変わっていくかを展望することは、様々な変化や要素を考慮する必要があり、一概に言い表すことは難しいだろう。しかし、戦争や環境・エネルギー問題など20世紀から積み残している課題に加えて、グローバル化や多極化がますます進展する中で、時代がより複雑化し、不透明感が増すであろうことは、おそらく間違いがない。そこでは、過去のノウハウに頼るといった従来の延長線上の発想では対応が難しく、幅広い知識と技能、柔軟な思考力に基づいて、新しい価値を創造することが求められる。

2.自分自身を生涯にわたりデザインできる女性の育成

人々は様々なつながりの中から世界中の異なる文化や価値観に触れることが可能になり、女性としての生き方、輝き方の選択肢は一段と広がりを見せている。それは同時に、国際的視野に立って歴史や事象を客観的に俯瞰し、「将来の自分が目指す姿」「社会がこうあって欲しいと思うかたち」を自らがデザインする力が生涯にわたり求められていることを意味している。当然ながら本学の目指すところは、生産年齢人口の減少に伴う労働力の確保という意味に留まる男女共同参画社会の実現ではなく、自らの意思を持って社会に参画し、社会をより良く変えていける力を身につけた、ゆたかな世界づくりに寄与できる女性を輩出することである。

3.「学修するコミュニティ」の構築

現代社会は常に新しい課題が生起しており、その社会をより良く変えるためには、地域社会とつながる学修機会の創出や国際社会を意識した幅広い視野の獲得を意識した教育プログラムが重要とされている。大学においても学校外での学修の比重が徐々に拡大しており、本学においても、これまで以上に、国の内外を問わず様々な人々や社会、地域、企業等と連携しながら、共に学修するという意識を持つ必要がある。そこで同志社女子大学は、大学全体を「学修するコミュニティ」の場と位置付け、本学に集った学生、教員、職員が共に学び、共に支え合いながら成長していく共同体の形成を目指していく。

4.迅速かつ戦略的な意思決定を可能にする経営力の強化

三つの教育目標を達成してVision150で掲げた人物育成を成し遂げるには、組織や財政、広報やキャンパス整備といった安定した土台、つまり経営の力が必要であることは言うまでもない。経営力の強化は、それ自体が目的ではなく、達成するべき教育目標のためにあることを忘れてはならない。それぞれの教育目標には、それぞれのロードマップがあり、到達するまでのプロセスは方法もかかる時間も異なるため、課題を包括的に洗い出し、必要になる予算、必要になる教職員の資質と規模、必要になる内外への広報、必要になる施設や設備の整備などの全体像を把握する必要がある。そのうえで、限られた経営資源を適切に管理して、事業に対して配分していかなければならない。

これからの時代だからこそ、女子大学は社会に無くてはならない存在であり続け、女子大学は女性が人生において成功を収めるための最善の場所でなければならない。そして本学は、女子総合大学としてのアイデンティティをより一層明確にすることが必要になってくるであろう。世界経済フォーラムが公表しているジェンダー・ギャップ指数が示すとおり、日本の女性が社会における意思決定に参画する機会は諸外国と比較して少なく、女性が生きやすい社会かどうか国際的な視点で語ると、日本は未成熟であると言わざるを得ない。このことは、女性の立場から社会を見つめ直し、考え、変えていくことが、まだ十分にできていないということを意味する。そうした中で、創立者新島襄が、日本女性の自立と社会改良への積極的な参画を強く願い女子教育に対して抱いていた思いを受け継ぎ、目標達成に向けて歩むことが、Vision150のコンセプトである「21世紀社会を女性の視点で『改良』できる人物の育成」を実証することになるであろう。

創立者新島襄は「大学の完成には200年かかる」と述べたと言われているが、創立150年を迎える2026年には、200年という教育の完成までの道のりの4分の3が過ぎたことになる。2017年からは、集大成となる残りの50年を目前にした、貴重な10年間になるという自覚を私たち教職員が持ち、教育研究活動に邁進していかなければならない。本学の起源となる女子塾を開校して150年を迎える2026年に向けて、私たち教職員は、女子大学で女子教育を行うという自覚と責任、矜持を持ちながら、SpiritとMissionを大切にし、リーダーシップを持って社会をより良く変えていく人物の育成に取り組んでいく。その一つ一つの過程を積み重ねることこそが、創立者新島襄の女子教育に対する思いを受け継ぐことに他ならず、同志社女子大学の発展と共に、真に女性が輝く社会を実現することにつながっていくのである。

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