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教員が語る同志社女子大学の学び

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「疲労」
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「食」
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「健康」

食と疲労のメカニズムを
解明し、病態を探り、
健康維持・向上へ貢献。

食物栄養科学科

田中 雅彰教授

食習慣や食環境の乱れが疲労の危険因子であることを明らかにしました。

多くの人が経験する「疲労」。
その正体は、体に負荷をかけることで、筋肉細胞や神経細胞の機能が落ちて細胞が傷つき、場合によって壊れてしまうことを指す身体の状態です。「疲労」は、「痛み」「発熱」と並ぶ三大バイオアラームのひとつであり、慢性的な疲労は社会問題にもなっています。私の研究テーマはこの「疲労」です。

疲労をためないようにするにはどうすればよいのでしょう。私たちは、細胞内の栄養を酸素で燃やすことで活動のエネルギーを得ています。一方、この過程で細胞にとっては猛毒である「活性酸素」が発生します。細胞を傷つけないためには活性酸素を増やさないよう、体内の抗酸化力を働かせる必要です。そのために、重要な役割を果たすのが「食」です。

疲労をためない「食」のためには、抗酸化成分が含まれた食品を上手に摂取することがまずは重要です。代表的な抗酸化物質が、リンゴの皮に含まれるアップルフェノンです。リンゴを長期間保存しても腐らないのは、皮の強烈な抗酸化作用によって実が守られているためで、Ⅰ日1個のリンゴで医者いらずと言われる通り、健康によい食品です。

さらに、体に負荷がかかると酸素と栄養を使うころとで、活動エネルギーが減ってしまうため、疲労を回復する食品を摂ることも重要です。炭水化物、タンパク質、脂質だけでなく、細胞がこれら栄養を上手に利用してエネルギーにするためのビタミン類も適切に摂る必要があります。

「食」と「疲労」については、別の側面からも研究しました。小学校から中学校にあがる時期の児童・生徒はとても疲れやすく、小児の慢性疲労症候群と呼ばれ、場合によっては疲れが原因で不登校になることもあります。
そこで、小学校から中学校へ上がる元気なこどもたちの3年間の経過を見る共同研究を行いました。すると、数人が中学校に入ってからの「疲労」が顕著に表れており、その原因を解析したところ、「食」であることがわかりました。
不規則な食事時間、また朝食を抜くことで必要な栄養が摂れていないこと、さらには「孤食」など環境も含めた総合的な食が疲労の危険因子であることが明らかになりました。

また「食」は、学習意欲とも深い関わりがあることがわかりました。学習意欲がガクンと落ちたこどもの原因を解析すると、短い睡眠時間と同じくらい、何を食べているか、どう食べているか「食」が危険因子であることがわかりました。

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こうして私は、「未病」の代表的な症状である慢性疲労と学習意欲の低下が「食」と非常に深い関わりがあることを研究で明らかにしてきました。

疲労に関心を持つようになったのは、内科医として患者さんを診ていたときのことです。無事に退院されても、また同じような状態になって入退院を繰り返す患者さんが多く、症状が出る前の健康な状態を維持する手立てはないかと考えました。
そして、半年以上続く慢性的な疲労が、関節痛や脳機能障害といった「慢性疲労症候群」と呼ばれるさまざまな症状を引き起こすこと、さらに同じ病気でも、疲労度の高い人の方が治療後の経過が悪いことなどがわかり、疲労の研究に集中するようになりました。

私が医学生だった当時、医学の教科書に「疲労」の記述はありませんでしたが、最近は研究が進んでいます。例えば「疲労」の状態が6ヶ月以上続くと「慢性疲労症候群」と判断され、日常生活に支障をきたすレベルまで進むと筋痛性脊髄炎という病名まで出てきます。
また、最近は精神的疲労ではなく、脳疲労と言われます。疲労にはさまざまなタイプがありますが、最終的には脳が最も疲労によるダメージを受けることがわかってきました。

現在は、実際に「食」がどのように「疲労」と関連するのか、どんな食事を摂れば病気になりづらく、元気に意欲高く学生生活を送ることができるのかをテーマに研究しています。
食材ごとの実験ではなく、食環境もひとつの大きなターゲットです。普段の食事のデータを解析し、どういった素材や成分を優先的に摂取することが重要になるのかを明らかにすることにも取り組んでいます。若い世代が楽しく意欲的に学び、卒業後もそうした食習慣を続けて笑顔で毎日を過ごしてもらうことが研究の目標です。

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食を通した科学的な健康支援を目指し、テーマごとに研究に没頭。

私の研究室には、健康維持・向上のために食をどうとらえるかに関心を持ち、食で健康を支えたいという意識が非常に高い、管理栄養士専攻と食物科学専攻の学生がいます。
研究室配属直後は「疲労って何? どんな実験・研究をするの?」という反応ほとんどです。なにしろ研究室には実験器具がなく、パソコンが置いてあるだけですから。ところが疲労の研究について話をし、実験の説明をするとすぐに理解し、自律的に動いて実験の準備を始めます。

厳密に疲労を数値化するならば、画像診断やPET検査を行いますが、研究室では基本的にはパフォーマンスを見る形で、被験者に30分程度パソコンを使った課題に取り組んでもらい、自律神経の変化を見る実験を行います。自律神経の乱れが疲労としてわかりやすいので、心電図のデータとして収集し、解析していきます。
テーマごとにグループに分かれて被験者のデータをとり、それを解析してデータの意味を考察していきます。2024年度は「疲労」、「意欲」、「自律神経」の3つのテーマで実験を行っており、最終的にはグループごとに研究発表をします。

グループでプレゼンテーションをして検証を重ね、最終的には高精度な研究発表のスライドに仕上げていきます。研究発表と並行して卒業論文も執筆するので忙しいですが、チームワーク良く取り組んでいます。

研究発表時には、各テーマの相関性や関連性が明らかになることで学生は大きな視点を得て、さらに先輩が蓄積した過去のデータを含む多様な側面から、食と疲労の関わりを科学的な思考で考察します。発表後は達成感とともに、食を通した健康の支援という研究成果を実感し、大変生き生きとしています。

卒業後は管理栄養士として病院や学校、食品メーカーで能力を発揮する人や、歯科医院などで患者さんの健康を支える人もいます。直接、食を提供する場に限らず、健康に生きていくための科学的な情報を提供するプロとして、本学での学びや研究活動を通して身につけた能力を社会で発揮してくれています。

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健康食がそろった京都の中心で学べる恵まれた環境。

食物栄養科学科の学生を見ていて感心するのが、学びに対する意欲の高さです。管理栄養士国家試験に合格すればいい、といった狭い視野ではなく、食に関わる知識を吸収したい、もっと理解を深めたいと貪欲に学んでいます。
そんな学生の意欲に、熱意をもって応える教員がそろっているのも本学科の特長です。最新の研究成果や今後研究が進むと考えられるテーマ、また実践で生きる知識を伝えており、学生と教員の熱量の高さがよい相乗効果を生んでいます。

とはいえ学生はただ勉強だけに集中しているのではなく、おおらかにキャンパスライフを過ごしているようです。同性だけの安心できる環境で、自分が楽しいと思うことを見つけ、それに没頭できるのは、女子大学の良さではないかと思います。

また、京都の中心で食を学べるのは恵まれた環境です。薄味文化の京都には、出汁を生かした健康食がそろっています。さらに「もったいない文化」が息づいている街でもあり、例えば、栄養豊富な大根の皮や葉も美味しく料理して食べる、といった伝統が受け継がれています。キャンパスの外にも、楽しく学べる機会が数多くあります。
楽しむことはストレスから開放されることであり、疲労をためずに健康に生きていくことにつながります。

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受験生のみなさんへ

食のことを知りたい、食に関わる仕事に就きたい、というのはとても素晴らしい選択肢だと思います。食に興味を持った方は、ぜひ本学のオープンキャンパスに参加して、本学で食を学ぶ楽しさに触れてください。

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田中 雅彰教授

生活科学部 食物栄養科学科 [ 研究分野 ] 疲労を中心とした未病の病態

研究者データベース

卒業論文一覧

dwcla TALK

卒業論文テーマ例

  • 心電図と加速度脈波の同等性の確認及びGABAの抗精神的疲労効果の検討
  • ビタミンCの抗精神的疲労効果の検討
  • 性格・気質と食刺激による脳活動の関連性の検討
  • ハーブ Salvia Rosmarinusと脳活動
  • 疲労と学習意欲
  • 食と学習意欲の関係性
  • 食と疲労の関連性の解明
  • 学習意欲と自律神経活動の関連性
  • 食と疲労の関係性
  • 学習意欲に影響を及ぼす自律神経活動と食習慣の関連性