dwcla TALK ようこそ新しい知の世界へ

教員が語る同志社女子大学の学び

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「タンパク質」
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「可能性」

タンパク質性食品の持ち味を引き出し
機能改変による
新しい食素材の開発に挑む

食物栄養科学科

西村 公雄特任教授

企業との共同研究による知見から、新しい冷凍冷蔵庫が誕生。

調理に使う鶏肉を冷凍する場合、どのように凍らせればおいしさを保てるでしょうか。これまでは急速に凍結する方がよいと言われてきました。ゆっくり凍結すると品質が劣化し、解凍後においしく食べられないと思われてきたからです。

しかし、食品の加工や貯蔵を専門に筋肉タンパク質を研究する私は、この通説に疑問を持ちました。そこで企業との共同研究のもと、鶏のささみ肉を使って凍結速度とおいしさの研究を開始したのです。
凍結速度の異なるささみ肉を加熱調理し、物性測定や人の五感で特性を測る官能評価を実施。その結果、ささみ肉をおいしくさせる「凍結スピード」があることを突き止めました。
さらに、ささみ肉の細胞の状態を走査電子顕微鏡で観察するなど研究を進めたところ、凍結肉のおいしさの決め手として、筋肉細胞の中にある筋原線維というタンパク質の組織にたどり着きました。おいしさは細胞レベルよりもさらに微小な筋原線維レベルの状況が色濃く関与していたのです。
これらの知見を元に、ある企業さんが筋原線維にダメージを与えない最適凍結速度で肉を凍結できる新しい冷凍冷蔵庫を開発。この速度は「はやうま冷凍」と名付けられ、商品化されています。

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タンパク質の機能改変が新たな食素材を生み出す。

最近は筋肉タンパク質の機能改変による、新しい食素材開発の可能性を探っています。例えば、かまぼこやソーセージを加工する際、水溶性ではない筋肉タンパク質をゲル化させるためには塩の添加が欠かせません。ところが生活習慣病が増え、塩分を含む食品は敬遠されがちです。

そこで私の研究室では、タンパク質と糖を結合させるメイラード反応を活用し、鶏肉に糖を付加することで水に溶け出すことを発見。さらに抗酸化能を発現することも明らかとしました。この研究を進め得られた知見を応用することによって、将来、減塩かまぼこやソーセージが製造できる可能性がひろがります。また、栄養価は高いが水に溶けない動物性タンパク質も流動食に利用できるようになるので、高齢者の栄養補給にも用いることができます。さらに、抗酸化能を活用すれば、従来よりも酸化防止剤の添加量を減らすことも可能です。このほか、食材を真空包装して比較的低温で加熱調理する「真空調理法」についても、その方法の問題点と解決法の究明について研究を進めました。これらの成果は、「鶏肉タンパク質がもたらす加工・調理上の問題点と機能改変に関する研究」と題して、2020年度日本家政学会賞に賞せられました。
いずれのテーマも、基礎研究として私たちができることを徹底的に追究しています。食品の可能性を示し、多くの人の健康と心豊かな生活、企業の発展に寄与できればと考えています。

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実験を重ね、食の専門家に求められる能力を磨く。

私の研究室では、学部生の多くが鶏肉由来タンパク質の研究を行い、卒業論文に取り組んでいます。タンパク質が変性していない鮮度のよい鶏肉で研究するため、京都市内の養鶏場へ鶏を調達するところから実験は始まります。鶏肉から塩水に溶けるタンパク質成分を取りだしてブドウ糖や麦芽糖などの糖を付加し、その糖化タンパク質がどういった性質を持っているかを分析装置や電子顕微鏡を使って調べていきます。
別のテーマとして、温度を下げて提供するコンビニのおにぎりをどうすればおいしく提供できるのか、食事直後の血糖値の上昇をサラダなどの副菜を一緒に摂ることで抑えられないか、といったテーマでも実験を進めています。

実験で最も重要なのは再現性を確保することであり、地道な作業を根気よく続けていく必要があります。学生は常に頭を動かし、体を動かしています。
思ったような結果が出ず煮詰まったときは、ともにゆっくりと話をします。すると「ここを間違っていました」、「この手順を抜かしていました」と学生自身が気づく。自分を客観視し、現状を俯瞰することができるようになるなど、社会で求められる能力が磨かれていきます。

高齢化社会の進展により、高齢者向けプロダクトの開発に注力するメーカーや、新しい食の開発に挑む企業が管理栄養士の専門性を求めています。管理栄養士の仕事の領域は従来よりも広がり、私の研究室でも食品メーカーに就職する学生が増えています。
また、食の研究を究めようと、これまですくなからぬ数の学生が大学院に進んでおり、現在、大学教員として活躍している教え子たちも幾人かいます。

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伝統、教育システム、実績のすべてがそろう管理栄養士専攻。

本学の食物栄養科学科 管理栄養士専攻は、関西で最も歴史が長く、教育体制が整い、管理栄養士国家試験合格率も全国平均を大きく上回っています。歴史と実績をもとにした独自の教育システムがあり、長く信頼関係を築いている実習先が多いため他大学では経験できないような施設で臨地実習ができます。伝統、教育システム、実績のすべてがそろっているのが、同志社女子大学 食物栄養科学科の特長です。

キリスト教主義の女子塾として京都に誕生した同志社女子大学。140年を超えたいまも建学の理念を守り続けている希有な大学です。揺るぎない伝統が学生の成長を支えているのでしょう。「よくこれだけ素直な女性たちがキャンパスに集ってくれたな」と感心することが多いのです。素直さとは、学びへの意欲と吸収力であり、感性の豊かさそのものです。
私たち教職員はこの伝統を守っていく気概を持ち、教育、研究に力を注いでいます。

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受験生のみなさんへ

大学受験に向けた勉強は大変だと思いますが、存分に力を尽くしてください。合格のためだけでなく、学びの基礎力がなければ、大学に入ってから花開かないからです。できるだけ多様な科目を勉強してほしいと思います。人生において最も勉強に集中できるのは、まさにいまです。基礎力を身につけて、大学であなた自身の学びを花開かせてください。

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西村 公雄特任教授

生活科学部 食物栄養科学科 [ 研究テーマ ] 糖修飾が蛋白質の機能を変える

研究者データベース

関連リンク ひとつぶラジオ

卒業論文一覧

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卒業論文テーマ例

  • 真空調理中に生じる鶏のクリーム煮ソース部分離機構について
  • 保存によるシューペーストの品質劣化原因について
  • トマト中に存在するアンジオテンシンI交換酵素阻害物質について
  • 電子顕微鏡による冷凍パン生地の微細構造と製パン特性に関する研究
  • ヒドロキシラジカルによりアクトミオシンチイルラジカルは生成するか
  • 活性酸素により可溶化グルテニン上にチイルラジカルが生じる
  • 水溶性大豆多糖類の低分子画分による脂質酸化抑制効果
  • 牛肉(サーロイン)の最適冷凍条件
  • 凍結処理が牛肉の組織及び成分変化に及ぼす影響
  • 各貯蔵温度が白米及び玄米の炊飯性並びに成分に与える影響
  • 中国のデザート薑汁撞奶のゲル形成機構について
  • 加熱殺菌条件が脱脂粉乳のレンネット感受性に及ぼす影響
  • 抗酸化能を発揮するマルトース修飾鶏筋原線維の最適化法を用いた調製条件の検索
  • 糖化鶏筋原線維タンパク質のゲル形成性及び抗酸化能
  • 白和えにおける調理操作が物性に及ぼす影響
  • 複合菓子中の油脂物性および組成の改変が油脂移行に及ぼす影響
  • 調理牛肉及びサラダの同時摂取が米飯食後血糖へ与える影響
  • 運動による高齢者の味覚閾値の変化について
  • β化-抑制酵素による米飯物性向上のメカニズムについて