3年次生のウィメンズヘルス実習を終えて思うこと

2018/04/09

渡辺綾子(看護学部 看護学科 実習助手)

「学生さん,赤ちゃんのことをたくさん教えてくれてありがとう」
この言葉は,看護学科の3年次生が,ウィメンズヘルス実習で受け持ちをさせていただいた出産後のお母さんからいただいた言葉です。看護学科では,2017年の10月から成人,小児,高齢者など領域別の実習がスタートしました。私が指導者として担当したウィメンズヘルス実習では,妊娠中や出産後の女性と赤ちゃん,そしてご家族を対象とした看護を学びます。産科病棟の実習では,出産後の母子1組を受け持ち,授乳の見学,赤ちゃんやお母さんの体温や脈拍の測定,沐浴を実施します。出産場面に立ち会い,陣痛の痛みが少しでも和らぐよう背中をマッサージしたり,帝王切開で生まれた赤ちゃんのケアを見学することもあります。学生たちは,講義や演習で学んできたことと,実際に目の前で日々変化していく母子の様子を照らし合わせることで,産後の身体や気持ちの変化,新生児が胎外生活に適応していくプロセスを理解し,学びを深めていきます。たとえば,日々の赤ちゃんの観察では,「寝ている赤ちゃんを起こさずに,体温や脈拍の測定をするのが難しい」,分娩に立ち会ったときは,「出産は,あんなに大変だとは思いませんでした」,胎盤を見たときには,「思っていたよりも柔らかかった。これが赤ちゃんに栄養をあげていたのですね」など,学生たちが,実習で経験することの一つ一つが,看護師をめざす学生としてはもちろん,一人の女性として貴重な経験,学びになっていると実感しました。

一方,私自身も学生からたくさんの気づきをもらいました。冒頭の「学生さん,赤ちゃんのことをたくさん教えてくれてありがとう」という言葉を下さったお母さんは,帝王切開で出産しました。帝王切開の手術後数日間は,お母さんの身体の回復に努めるため,赤ちゃんとお母さんが一緒に過ごすのは,主に日中のみで,お母さんは体調を見ながら,徐々におむつを替えたり,沐浴をしたり,赤ちゃんの世話を始めていきます。この方も,翌日には車椅子で赤ちゃんのいる新生児室に面会に来られ,抱っこや授乳をしていましたが,赤ちゃんの世話をはじめたのは手術後数日が経ってからでした。その間,学生はお母さんに,「赤ちゃん,元気に泣いていますよ」「今日は黒い便をしていました」と自分がその日に見た赤ちゃんの様子を伝えていました。学生の,お母さんと赤ちゃんのことを思う気持ちが,何気ない会話の中に表れ,お母さんが赤ちゃんと離れている時間を埋める手助けになったと感じています。その後,お母さん,赤ちゃんともに順調に経過され,笑顔で退院されました。病棟で勤務していたころの私は,「出産後早期は疲労も強いから,休息を優先した方が良いのではないか」「母子が離れているとはいえ,車椅子で赤ちゃんに面会もできているし,不安は少ない」と思い込んでおり,患者様の思いに寄り添えていなかったことに気づかされました。

さらに,数年前の学生時代を振り返ってみると,今の学生と同じように,はじめての経験にとまどい緊張し,患者様に思いが伝わらず,コミュニケーションの取り方に悩みました。また,指導者や先生の厳しい指導に「実習に行くのがつらい」とくじけそうになったこともあります。しかし,指導者さんの患者様に向き合う真摯な姿や患者様の笑顔を見て,医療現場で働いていくことのやりがいを感じることができました。実習中の受け持ち患者様のこと,患者様からいただいた言葉は,今でも鮮明に私の記憶に残っており,実習中に習得した態度や姿勢は,看護師としてのあり方の基本となっています。

私は,2017年10月に本学に着任して,教員としての生活をスタートしました。今まで,私を指導してくださった先生方には及びませんが,実習に不安や戸惑いを感じている学生さんたちの背中をそっと後押しし,看護の楽しさを伝えていきたいと思っています。

 

※所属・役職は掲載時のものです。