ブックタイトル同志社看護 第4巻2019年
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同志社看護 第4巻2019年
けをせずに丁寧に聞いていくことで,患者さんが来院した真の理由が分かりました。患者さんのほうでも自分の考えを出すことが出来て楽になってきます。(医者)胃カメラの予約取りますか?(患者)そうですねえ。あのー,もし先生がぼくと同じ状態だったらどうします?(医者)え?ぼくですか。そうですねえ,取りあえず胃粘膜保護剤飲んでみて,まだ痛むようならバリウムを飲むかなあ。胃カメラはその後かなあ。(患者)へえ,そんなもんですか。気楽なもんですね。でも少し気が楽になりました。今日はその薬もらって帰って様子みることにします。(医者)はい,分かりました。それではお大事に。また来週きてください。次の予約も取っておくことで,放ったらかしではないことを強調してます。でもねえ。こんなうまい具合にいくことは稀なんです。本当にこんな外来すると,患者さんが「お前みたいな無能な医者に診て貰う気はない!」と出て行っちゃう可能性大ですもの。でも,患者さんの病気観を探ることがまずは大事なんです。そうでないとせっかく出した薬も飲んでくれないかもしれないし,このあたりは巧妙にいく必要があります。患者さんの病気観を引き出すには,こちらがあまり専門家面をしないことが,まず大事です。でも必要なときは専門家としての意見も言わねばなりません。このバランスは難しいのですが練習していくと結構上手になります。ローナー先生は,自分の診察場面におけるコミュニケーションの文脈をきちんと読むことが大事だと言います。ただ事実を伝えるのが診療ではなく,全ての臨床は一種の心理療法的側面があり,全体の流れに目を向けて診療を行うことで,臨床はとてもエキサイティングな興味深いものに変身します。拒食症の患者さん~川を流れる私の物語~例えばこんな例はどうでしょうか。Mさんは27歳の女性で摂食障害歴がもう10年になります。ありとあらゆる有名な治療を転々としてきました。内科から始まって,精神科,カウンセリング,漢方治療,行動療法で有名な病院や心療内科の大学病院にも入院しました。それでも治らず,絶食療法や民間療法も試しましたが治りませんでした。最近では有名な家族療法家のところへ2年間熱心に家族とともに通いましたが,ドロップアウトしてしまいました。彼女の病気はアノレキシア・ネルボーザ(神経性食欲不振症)の無茶食い/排出型ということになります。つまり,痩せ願望は強いのに過食の渇望が湧いてきて自制心で抑えることが出来ないのです。それで冷蔵庫や戸棚のありとあらゆる食べ物を漁ります。もうお腹がはち切れそうになっているのに食べることがやめられません。その食べ方は尋常ではありません。以前,自分で食パンを山ほど買ってきて食べ始めましたが,なんと一度に20斤食べたそうです。彼女が食べ終わると台所は嵐の後のような有り様です。母親は彼女の過食発作が起こったらもう止められないと言います。思い詰めたような表情で一心不乱に食べる有り様は鬼気迫るものがあるそうです。Mさん自身苦しいのですが,過食発作がいったん起こると,もうどうにでもなれと自棄っぱちな気持ちになっていきます。そして,食べた後はすぐ喉に指を突っ込んで吐きます。ずいぶん吐くのですが食べたもの全て吐いたという自信がないので,大量の下剤を飲みます。彼女は身長が167センチ体重が40キロです。最近のファッションモデルさんは細いと聞きますが,彼女はとてもきれいな顔立ちでもう少し太ればモデルさんとしても十分通用しそうな女性です。残念ながら今は美しいとは言えません。眼ばかりギョロギョロして頬がたいそうこけて医者の私からみると頭蓋骨の形まではっきり分かります。彼女は大変才能豊かな人で,絵や詩が上手で素人離れしています。料理の腕も相当なもので,特にケーキを焼かせるとかなりのものです。彼女のお母さんは喫茶店を経営しています。時々調子の良いとき作ったMさんお手製のケーキを出すのだそうですが,お客が舌を巻くほどです。実は一度Mさんが『苺のタルト』を僕に持ってきてくれたことがありました。ぼくの診療所は女性の患者さんが多くてたまに自作のケーキなどを持ってきてくれるのですが,ここだけの話ですがおいしいと思ったことがないのです。(実は私は甘党でケーキにはちょっとうるさいのです。)そのぼくがMさんのケーキにはうなってしまいました。48