ブックタイトル同志社看護 第4巻2019年
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同志社看護 第4巻2019年
臨床におけるナラティヴ実践のすすめに,カウンセラー大勢の前で講演をされたのですが,カウンセラーから先ほどの疑問が出ました。参加した大勢のカウンセラーはナラティヴ・アプローチという名前に惹かれて新しい技法を学びに来たのですが,どうも技法に目新しいものがないという不満なのです。ローナー先生は落ち着いてこう答えました。「人間のやることですから技法としては似てくるのは仕方ありませんね。でも一つだけ違う点があります。ナラティヴ・アプローチではクライエント自身をターゲットにするのではなくクライエントが語る物語をターゲットにしてます。ここは天動説と地動説ほどの違いです。」どういうことかいうと,患者さん本人をターゲットにすると,その人の言葉が本当なのか嘘なのかということも含めて吟味していく必要があります。でも物語がターゲットの場合は,本当かどうかは関係がなくなる。物語なのですから。そしてナラティヴ・アプローチというのはその物語が変化していくことを促進することなんです。先ほどの聞き届けるとは反対のようですが,実はあまり矛盾はありません。物語を聞き届けることというのは役割は同じです。先ほどではあまり何も介入してない印象がありますが,実は患者さんの物語に我々はかなり介入します。本人には自由に語ってもらいますが,質問という形で物語に介入します。ナラティヴ・セラピーの臨床家はあんまり介入しないというのが基本のようです。本人のなかで自然に物語が変化するのを辛抱強く待つ。でも医療の現場ではそれほど悠長に構えてられない事情もあります。前述のローナー先生は「医療なのだから介入しなければいけません。でも,押しつけても変化はおこりません。質問の形で相手が自分で解決を思いついて物語が変わるというのが理想です」とNBMの説明をしておられました。これからお話するのは,現実のものではありません。でも一つの私の理想の診療スタイルです。ある日のうちのクリニック。一人の中年男性の患者さんがやって来ます。待合室に入ると患者さんが少ないので,ここはあんまり流行ってないのかな?と彼は考えます。しばらくすると「次の患者さん,お入りください」という声がする。彼は,最近はどこのクリニックでも「患者様」と呼ぶのに,ここは少し横柄なのかな?と思いながら診察室に入っていく。(医者)○○さんですね,どうされましたか?(患者)ええ,ちょっと最近胃が痛くてね。(医者)胃ですか?それはいけませんねえ。それでどんな風に痛むのですか?(患者)はあ,朝早くとか食事前に痛みます。(ここまでは普通でしょ。ここから変わってきます)(医者)なるほど,なるほど。で,何なんでしょうね?(患者)え?「何なんでしょうね」って,こちらが聞きたいセリフなんですけど。頼りないなあ。(医者)あ,すみません。でも何なのかなあ?(患者)だからぁ,ぼくは胃潰瘍かなって思ってんですけど。(医者)あ,胃潰瘍ですか?十二指腸潰瘍かもしれませんね。そういえば空腹時の痛みはあり得ますよね。(患者)でしょ。だから,胃カメラでもやってもらおうかと思って来たんです。(医者)え?胃カメラですか?でも,あれって苦しいって聞きますよね。(患者)なに言ってるんですか!カメラしてもらったらはっきりするんでしょ。(医者)まあね。でも何をはっきりさせたいのですか?(患者)胃潰瘍に決まってるじゃないですか。あと・・・親父が胃癌で死んだので,ちょっとね。(医者)あ,そうでしたか。ついでに胃癌がないかどうかも診て貰いたかったんですね。(患者)実は,そうなんです。この患者さんは,上腹部が痛くて胃潰瘍と言ってますが,実は胃癌の心配をしていたのです。自分も父親が死んだ年に近づいてきて不安が強くなってます。でも胃癌と口にするのも怖くて胃潰瘍の検査と言ってますが,本当は胃癌について相談したかったんです。医者のほうから「あなたは自分の胃痛の原因をどう考えていますか?」という質問をするのはとても難しいのです。真面目に聞くと患者さんのほうが緊張して,間違った答えをしてしまったらどうしようと不安になります。上の例では医者が決めつ47