ブックタイトル同志社看護 第4巻2019年
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同志社看護 第4巻2019年
医療の治療効果はどれくらいあるか医学雑誌『Lancet』や『New England Journal of Medicine』の名前はご存じだと思います。もちろん『Nature』なんかは自然科学分野では一番有名ですが医学の世界ではこの二つは別格の権威を持っています。その権威の代表のような『New England Journal of Medicine』の編集部長のインジェルフィンガーという医学の世界の中心にいる医師が,1977年2月22日号で,何とも物議を醸すような資料を出しました(スライド7)。どういうことかというと,医療の治療効果について発表したのですが,メタ解析という統計学的に正しい手法を用いて現代医学はどれくらい効果があるかについて調べてみたのです。結果は驚愕すべきものでした。「効果なし」つまり,医療が介入しても介入しなくても変化なしが80%ぐらいだったのです。医療が介入することによって劇的に治ったのは10%少し超える程度に過ぎないようです。更に医療介入によって不幸な結果になったのが10%近くあります。これを見た世界中の医者はあれほど強力だと信じていた現代医学が10%しか効いてないことに驚きましたが,論文書いたインジェルフィンガーが大物過ぎて,正面切って反論もし難い状況が出てきました。つまりは医学の世界から内部批判のようなものも出てきて,医療が自然科学だけで帰結するものではないことが明らかになってきました。患者さんの病気観というものが非常に大事になってくる。客観性はもちろん大事だが,患者さんの主観にも配慮するのが,これからの医療ではないのか,エビデンスベースとナラティヴベースというのが,両輪が必要。齋藤清二先生が言われるのは,EBMとNBMは医療を車に例えれば両輪だと,つまり一方がはずれたら車というのは走らない。エビデンスは絶対必要。でも,片輪走行になってる,患者さんの主観をどう扱うかで医療の質が変わるのではないかと考えるわけです。ウィットネス~物語に焦点をあててこれまで多くの患者さんに出会ってきました。なかには「先生治してくれてありがとうございました」とお礼を言う患者さんもおられるのですが,あまり大したことはしてないのです。中には処方なしで,2週間毎に律儀に来院されて10分ほど話して帰っていかれる。何年間も通って,で,だんだんと改善してきて「先生,ありがとうございます。」となるわけです。「いや,僕,何もやってへんのですけど」というと「ご謙遜を」とくる(笑)。ある日不思議に思って患者さんに「一体ぼくはあなたになにをしてあげられたんですかねえ?」と質問してみました。ある患者さんの答えは「先生は聞き届けてくれたんです」。聞き届ける役割,つまり証人ということになりますか。そういえば心理療法のナラティヴ・セラピーでは治療者の役割は聞き届けること,ウィットネスが大事とされていました。誰も聞いてなくても私の物語は先生に話した,そして治療者は「聞き届ける」役割のようです。証人ですから,途中交代は利きません。「あ,今日は誰々先生いてはらへんのですか,ほな帰りますわ」ということが結構あります。何が治療的かというと,物語として聞く。物語として聞くというときには,相手を分析するんではなくて,その物語にターゲットが当たってる。よくカウンセリングとどう違うのか聞かれるのですが,微妙に違います。ジョン・ローナーというロンドンの医師で,いわば私の師匠にあたる人が日本に来られたとき46