ブックタイトル同志社看護 第4巻2019年

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概要

同志社看護 第4巻2019年

臨床におけるナラティヴ実践のすすめちょっと難しさがあると思います。どうもイギリスのナラティブ・ベイスト・メディスンは,どちらかというと,かなりロジカルなんですね。一般的にヨーロッパの文化はドイツ語にしてもフランス語にしても言葉そのものロジカルに出来ていると思います。それに対して日本語というのは割合曖昧なところが多いのですが,治療のときは,この曖昧さが案外いい場合もあります。あんまりロジカルに詰めてしまうんじゃなくて,ちょっとここはそっとしておいて,あ・うんの呼吸というか「わかった,わかった」というふうにすると,うまくいくこともあります。2009年に京大のやまだようこ先生を中心にイギリスと日本のナラティヴの研究者が一堂にロンドンに集まり研究会を持ったことがあります。その研究会の締めくくりに,お互いのナラティヴ・アプローチについて印象を話し合ったのですが,「日本のはエモーショナルやね。で,イギリスのはロジカルやねと。どっちもちょっと偏り過ぎているのかも知れない。文化の違いに起因するようだけど,感触的にはまん中くらいがいいのではないだろうか」という話になったことを覚えてます。だからイギリスのNBMを使うときは文化的な翻訳が必要なのではと思います。でも,物語をきちんと聞き届けるっていうことは文化にかかわらず普遍的に大事な事だと思います。ロンドンから戻ってから,学んだことを咀嚼しながら,いくつか論文も書いてきました。もしよければ『現代のエスプリ515』の「ナラティヴ・ベイスト・メディシン」(2010.6)や「こころの科学153」「ナラティヴを書く」(2010.9)などをお読み下さい。ぼくの研究のルーツとしてナラティヴと,もう一つの柱があります。保健医療行動科学という分野なのですが,1986年に日本保健医療行動科学会という組織が出来ております。欧米では1970年代くらいから,医師や看護師など保健医療従事者の教育に取り入れられ資格試験にも採用されてきた分野なのですが,我が国の医学・看護学教育には全くみられませんでした。本学会の設立趣意書をそのまま引用します。「保健・医療従事者は単に病気をみるのではなく,病気をもつ,あるいはその恐れをもつ人間をみるものだという言葉はよく耳にする。しかし実際は病気しかみていないことが多い。しばしば人々は,日常の苦しみや悩みを,本人の気づかないまま病気で表現したり,不健康な生活を改めることができないままでいる。しかも本人自身がそれらに気づいておらず,その気づきを手助けするはずの保健・医療従事者も十分認識がすすんでいないことがある。このような病気や不健康の側面のみならず,保健医療を考える際には,予防や健康増進といった面での行動科学的知識がなお一層重要となってくる。ところで,このような健康や病気の心理社会的な背景と,身体的側面の相互作用を研究しようとする行動科学が米国を中心に進歩してきた。それは,心理学,社会学,人類学,生理学などを総合的に応用し,人間の健康問題にかかわる行動(個人・集団・社会)の変容過程を実証的,体系論的に解明しようと努力している。こうした保健医療関連の行動科学(医療社会学,医療心理学,医療人類学等を含む)は,欧米では,医師や看護などの保健医療従事者の教育にとり入れられ,資格試験にも採用されている。しかしわが国では,このような関心はようやく高まりつつあるが,研究は緒についたばかりである。こうした中で,わが国において保健医療領域での行動科学的研究・教育の発展のために,社会・人文科学,自然科学の各分野の国内・外研究や学習の場づくりを目的とした学術団体の創設が必要と思われる。1986年6月18日私の父の故・中川米造が初代の会長でした。現在は筑波大学の宗像恒次先生,甲南大学の故・谷口文章先生らを経て私が第10期から会長をやらせて頂いております。前置きが長くなりましたが,私のベースからお話させていただく方が,本論が分かりやすいのではないかと思いまして。43