ブックタイトル同志社看護 第4巻2019年

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概要

同志社看護 第4巻2019年

保健師の行うネットワーク形成のプロセスと役割『顔の見える関係づくり』は「顔の見える関係をつくっておくことが絶対大事」「顔が見えたら,電話でちょっと頼むわって無理が言える関係ができる」「1つの事例で関係ができたら他の事例にも応用できる」など6つの文章で構成された。『活動の積み重ね』は「看護連携,看護師との連携を大切にする」「とにかく個別支援を積み重ねていく」など6つの文章で構成された。Ⅳ.考察本研究の目的は,ネットワーク形成のプロセスと保健師の果たす役割を明らかにすることであった。以下に,本研究で明らかになったネットワーク形成のプロセスと保健師の役割について考察する。1.ネットワーク形成のプロセスネットワーク形成のプロセスは,退院を契機として,退院前の調整,退院時の対応,退院後の調整の3つの段階に区分された。退院前には,「移行時までに情報整理をして準備をたくさんしておく」「退院するまでにそれを全部作り上げておく」と述べているように,事例を取り巻く保健・医療・福祉・消防など,様々な分野の関係機関,関係職種と十分な調整を退院前にしておくことが重要であることが示唆された。また,退院に先立って関係者が一堂に会する「退院カンファレンス」を開催し,在宅療養を支えるための準備をしていた。カンファレンスの意義について,山田(2004,p.973)は「課題を共有することがネットワークの成否につながる。各機関の役割の違いが認識され,役割意識が形成されていく」と述べているように,カンファレンスが情報共有の重要な場になっていたと推察された。退院時には,保健所保健師と市町村保健師が役割分担をして,退院する専門病院と自宅にそれぞれ寄り添っていた。退院を境に,それまでの専門病院におけるケアから,家族が主体となる在宅ケアに移行することになる。このような状況での家族の不安は大きいと考えられ,今後の在宅療養を支える保健師が寄り添うことで少しでも安心につながるのではないかと考える。退院後は,「前回から変わったところはないか定期的に開催して情報共有している」とあるように,情報共有を図りながら,新しい課題に対応しつつ,専門性を発揮できるよう調整していた。阿部(2013,pp.1373-1375)の,退院前にはケース会議を開き,退院後は家庭訪問,訪問看護師との連携,レスパイトの調整などを行っていたという報告と同様の結果であった。2.保健師の果たした役割これらの調整において保健師が果たした役割は,退院前,退院時,退院後すべての期間をとおして,保健,医療,福祉,消防など,多様な関係機関,関係職種と連携をとりながら調整していたことである。具体的には,ひとつに,公衆衛生の専門機関としての保健所に所属する保健師の役割がある。保健所は,地域保健法に基づき専門的,かつ技術的拠点としての役割を持っており(厚生労働統計協会,2018,pp.30-32),そこに所属する保健師も同様の役割を担っている。本事例においても,保健所が特定疾患申請状況を把握している立場であることから,対象者が退院する前に専門病院から連絡が入った経緯があり,行政の立場から早期に介入することができていた。森岡・村中(2013,pp.8-9)は,「市町村や医療機関等と連携した広域的な地域ケアシステムの構築(中略)など,保健所は広域的・専門的・技術的拠点としての保健活動を行っている」と述べており,本研究においても,保健所保健師がリーダーシップを発揮してネットワーク形成につなげていたことが示唆された。さらに,連携した関係機関,関係職種は多岐にわたり,専門病院,往診可能な主治医の確保やレスパイト入院を視野に入れた地域中核病院,在宅看護のための訪問看護ステーション,緊急時の対応を視野に入れた消防署,障害児の生活支援のための市町村福祉担当者,保健所保健師のパートナーとしての市町村保健師など,保健・医療・福祉・介護など幅広く調整されていた。また,これらのネットワーク形成が可能になった背景として,それぞれの関係機関,関係職種がそれぞれの専門性に基づいて十分な役割を発揮していたことが大きいといえる。渥美・安齋(2013,p.28)が,「関係機関がより専門的役割を発揮した支援を行うことで,対象者支援の質を向上させる」,「保健師は,対象者を支援する関係機関や関係者を全体的にみて,支援が円滑に進むように調整していた」と報告しているように,それぞれの専門機関,関係職種の力量と役割発揮がネットワーク形成の前提になると考える。加えて,これらの関係機関は,インタビュー対象者が「難病ケアシステムと同じ顔ぶれで動く」と述べているように,それまでの保健活動の積み重ねで築いてきた機関や職種とのつながりが大きかったことが示唆された。ネットワーク形成は,短時間にできるものではなく,越田・守田(2009,p.23)が「内なる人材バンクの活用をしながらネットワークの核を創る」と述べ23