ブックタイトル同志社看護 第4巻2019年
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同志社看護 第4巻2019年
肺がん手術患者の周術期におけるQOLおよび不安・抑うつの推移また,入院前と入院日に比べ退院後にSFも低下していた。SFは家族や友人との普段の付き合いが,身体的あるいは心理的な理由でどのくらい妨げられたかを問う項目である。肺切除後の体力低下や息切れは仕事量の縮小など患者の社会的役割に影響を及ぼし,さらに,余暇活動の趣味も制限していることが明らかとなっている(皆川・川崎・野戸他,2004)。さらに,本研究対象者では,入院日に比べ退院後のREも有意に低下していた。REは日常行う活動が心理的な理由でどのくらい妨げられたかを問う項目である。肺がん患者は手術後も【内服をしても消えない疼痛と痺れ】,【回復の具合に対する焦り】,【呼吸機能低下への恐怖】,【再発や転移に対する心配】などの思いを抱えている(源河・櫻井・島袋他,2014)。また,本研究施設では,病理の確定診断は退院後の初回外来受診時に伝えられることが多く,退院後初回外来受診時の時点で対象者は,がんの進行や今後の治療方針が分からないといった不確かな状態におかれている。肺がん患者は,再発・転移の不安を抱えつつ,仕事内容や職場環境の調整を行っており(堀井,2008),精神的な理由で役割機能も影響が及ぼされていると推測できる。このような肺切除術後の身体機能の低下や,がんの再発や転移に対する思いが精神的ストレスとなり,さらに肺切除患者は社会との付き合いも制限された状態になっていると考えられる。MHは心理的な問題(不安を感じたり,気分が落ち着かなかったり,イライラしたり)にどのくらい悩まされたかを問う項目である。MHは入院前から退院後にかけて60歳代平均値より低値を示していたが,入院前や入院日に比べ退院後はやや改善していた。これは,退院後1週間の時期にある患者は,肺切除術後の身体機能の低下やがんの再発や転移に対する精神的ストレスを感じながらも,手術を終え無事に退院できたことによる安堵感が,MH得点の軽度上昇の要因になったと考えられる。4.看護実践への示唆入院前と入院日の肺切除患者は,日本国民標準値と比較し精神的QOLが低下していた。また,約3割が不安状態,約4割が抑うつ状態にあった。手術が決定した肺切除患者は,肺がんの告知や入院や手術に関連した精神的苦悩を抱えているにもかかわらず,医療者に相談する機会がない。そのため,入院前に抱える疾患や手術に関連した苦悩について,肺切除患者が相談できるような窓口を設け,がんの専門看護師や認定看護師,診療科看護師,手術部看護師が,精神的支援をふまえた介入を告知後から行っていく必要があると考えられる。また,手術が終わったにも関わらず,退院後の肺切除患者は抑うつ状態が続いており,PF,RP,BP,SF,REも低下していた。肺切除患者は,創部痛や肋間神経痛,呼吸困難感などといった慢性的に続く身体症状を抱えながら社会生活を送っていかなければならない。さらに,がんの再発・転移に関する不安にも脅かされている。肺切除患者は身体的理由でも精神的理由でも日常役割機能が低下しており,社会との付き合いが制限されていた。そこで看護師は,肺切除患者が術後の疼痛や呼吸機能の低下といった身体機能の変化に応じて日常生活を自己管理していくことができるよう,継続的に支援していくことが必要である。疼痛においては,創部痛に対する薬剤コントロールだけではなく,肋間神経痛などの慢性痛に対する入浴法や温罨法といった温熱療法など,周手術期の経過に応じた疼痛コントロール方法について患者教育していくことが必要である。また,呼吸機能の低下においては,入院中の理学療法士による呼吸訓練だけではなく,患者の日常生活にあわせて,退院後も継続的に呼吸リハビリテーションが行えるよう,外来で継続的に患者の呼吸機能と運動耐容能をアセスメントしながら,介入していくことも必要であると考える。胸腔鏡下手術の導入により,肺切除患者の入院期間は急激に短縮してきている。肺切除患者の周手術期における不安・抑うつを低減し,健康関連QOLを高めるためには,患者が抱える身体的,精神的,社会的課題を入院前の段階から継続的にアセスメントし,患者一人一人の状況に応じたシームレスな介入ができるよう,外来,病棟,手術部などの関連部署で協働していくことが重要である。さらに,医師や看護師だけではなく,理学療法士や作業療法士,臨床心理士,メディカルソーシャルワーカーなど多職種で構成された周手術期管理チームが入院前から患者に対して,精神的支援と術後の疼痛や呼吸機能低下を見据えた介入を行っていくことが必要である。近年,入院前の外来・在宅から入院中,そして退院後の外来・在宅までのシームレスな支援の重要性が高まり,地域連携室だけではなく入退院センターを開設する病院が増加している。2018年度診療報酬加算の改定で「退院支援加算」が「入退院支援加算」に改称されたことを契機に,肺切除患者に対しても,周手術期各期の心理状態および健康関連QOLに即したケアが提供できるよう,入退院セン15