ブックタイトル同志社看護 第4巻2019年
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同志社看護 第4巻2019年
本研究対象者において,抑うつ得点に時間の主効果は認められなかった。しかし,「抑うつ疑い」または「抑うつあり」の状態にあった患者は,入院前は約3割であったのに対し,入院日から退院後にかけては約5割に増加していた。待機手術患者の約3割が抑うつ状態にあるといわれており(小笠・當目・野口,2015),本研究対象者である肺切除患者においても,入院前は同様の傾向が認められた。また,手術を受ける消化器がん患者は,手術後は手術前に比べて抑うつ得点が高くなり,退院後6カ月を経ても手術前の値には戻らないことや(松下・松島,2005;千田・久保,2006),婦人科癌と口腔癌で手術を受ける患者の抑うつは手術前と手術後で変化しないことが報告されている(松下・村田・松島他,2005;望月・小村・松島,2009)。本研究の肺切除患者も入院日から退院後にかけて同様の傾向が認められた。また,化学療法中の乳がん患者においては,不安は時間の経過とともに低下したが,抑うつは時間がたっても変化がみられないことが報告されており(当目・橋本・坂本他,2007),抑うつ状態が継続することはがん患者の特性であると考えられる。がん患者およびがんの死亡者数が年々増加しており,特に肺がんはがんの死亡者数の第1位を占めている。また,根治的切除可能であった非小細胞肺癌患者において,術後3ヶ月の間に14.8%の患者がうつ病と診断されたことが報告されている(Uchitomi・Nakano・Akizuki, et al., 2000)。これらのことから,肺がん患者は手術が無事に終わったとしても,死を意識し,再発への恐怖を抱えながら療養生活を送っていることが考えられる。さらに,本研究の対象者において退院後に抑うつ状態にある患者の割合が先行研究よりやや多い結果となったのは,入院中には最終的な病理診断の結果が出ず,初回外来受診時に病理診断の結果が告知されるため,手術を終えたとしてもがんの進行度や根治の可能性がわからないといった不確かな状態におかれていることも,影響していると推測される。3.肺切除患者の健康関連QOLSF-8の各得点において,本研究対象者の平均年齢が属する60歳代平均値と比較し,検討する。本研究対象者の入院前と入院日のPF,RP,BP,GH,VT,SF,REは,60歳代平均値とほぼ同等の値であったが,MHは低値を示していた。また,退院後はPF,RP,BP,GH,VT,SF,RE,MHいずれの値も60歳代平均値より低値を示していた。つまり,肺切除患者は同年代の人々と比べ,術前の身体的QOLは同等の状態であるが,精神的QOLはやや低下していること,術後は身体的QOLも精神的QOLも低下していることが示された。SF-36を用いた調査では,肺がん患は入院時の精神的QOLが全国サンプル値より低下していること(伊藤・水谷・坂本,2002),肺がん切除患者は手術待機中から心の健康が低下しており,術後も改善しないことが明らかにされており(石坂・阿久津・秋山他,2016),本研究対象者も同様の結果であった。入院前と入院日に比べ退院後に有意に低下していたのは,PF,RP,BP,SF,REであった。SF-36を用いて肺がん切除患者の健康関連QOLを調査した先行研究でも,術前に比べ術後のPF,RP,BP,VT,SF,REが有意に低下しており(石坂・阿久津・秋山他,2016),本研究対象者も同様の傾向がみられた。PFは体を使う日常活動が身体的理由でどのくらい妨げられているかを問う項目である。本研究対象者の入院前と入院日のPFは同年代と同等であったが,退院後に低下していた。また,BPは体の痛みの程度を問う項目であり,入院前と入院日は同年代より高い状態で推移していたが,退院後には著しく低下していた。肺がんは進行すれば咳嗽や血痰,呼吸困難,胸痛などの症状があらわれるが,手術適応となる早期の症例であれば無症状なことが多い(西條・加藤,2011,p.34)。そのため,術前である入院前と入院日のPFとBPは,同年代と同等もしくはそれ以上の状態で保たれていたといえる。一方,肺切除後は呼吸換気面積の減少により運動耐容能が低下する(Miyoshi・Yoshimasu・Hirai et al., 2000)。さらに,肺切除後の術後疼痛は肋骨周辺の筋肉切断に加え,肋間神経の損傷,胸腔ドレーンの挿入の刺激により長期にわたることが多く,その程度も強い(畑山,2006,pp.703-711)。特に,退院後は入院生活と異なり日常生活に戻ることで活動量が増加し,労作時の呼吸困難感や疼痛を自覚しやすくなる。そのため,術後10日~2週間程度の時期にあたる本研究対象者の退院時の身体機能と疼痛はまだ改善しておらず,PFとBPが低値を示したと考えられる。RPはいつもの仕事をすることが身体的な理由でどのくらい妨げられたかを問う項目である。肺がんで肺切除術を受けた患者の退院後の生活の障害について,約70%の患者に創部痛や息切れといった身体機能障害に関する生活上の支障があるという報告があり(皆川・川崎・野戸他,2004),本研究対象者においても,肺切除術による運動耐容能の低下や疼痛によって,退院後の日常生活活動が障害された状態であったと推測できる。14