ブックタイトル同志社看護 第4巻2019年
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同志社看護 第4巻2019年
肺がん手術患者の周術期におけるQOLおよび不安・抑うつの推移院後に軽度低下したが,時間の主効果は認められなかった(F=2.981,p=0.058)。SFの平均値は,入院前50.3±7.9点,入院日50.7±6.4点,退院後45.1±8.0点であった。入院前と入院日は60歳代平均値50.2点とほぼ同等の得点で推移したが,退院後に低下した。SFの推移には時間の主効果が認められ(F=10.416,p<0.001),入院前と入院日に比べ退院後の得点が有意に低かった(p=0.004,p=0.001)。REの平均値は,入院前50.3±5.2点,入院日50.3±4.4点,退院後46.6±7.2点であった。入院前と入院日は60歳代平均値51.3点とほぼ同等の得点で推移したが,退院後に低下した。REの推移には時間の主効果が認められ(F=6.150,p=0.008),入院日に比べ退院後の得点が有意に低かった(p=0.017)。MHの平均値は,入院前48.5±7.8点,入院日47.5±7.7点,退院後49.9±6.4点であった。入院前は60歳代平均値53.3点より低く,入院日にはさらに軽度低下したが,退院後には入院前よりも上昇した。MHには時間の主効果は認められなかった(F=1.556,p=0.222)。Ⅳ.考察1.対象者の属性平成23年患者調査(総務省統計局,2011)の開胸手術または胸腔鏡下手術を受けた20歳以上の患者の年代別割合では,80歳代以上の割合が多くなっていた。本研究対象者の平均年齢は66.8歳であり,全国調査の割合に比べやや若い年齢層の集団であった。性別については,本研究の対象と平成23年度患者調査(総務省統計局,2011)における男女比率の差はほとんど認められなかった。在院日数については,平成23年度患者調査(総務省統計局,2011)における開胸手術患者の術前平均在院日数は6.1日,術後平均在院日数は22.3日であり,本研究の開胸手術患者の術前平均在院日数は7.1±1.2日,術後平均在院日数は12.9±1.4日であった。また,平成23年度患者調査(総務省統計局,2011)における胸腔鏡下手術患者の術前平均在院日数は4.3日,術後平均在院日数は11.3日,本研究の胸腔鏡下手術患者の術前平均在院日数は5.8±0.5日,術後平均在院日数は8.8±0.9日であった。本研究の対象者の在院日数は全国調査に比べ術前期間はやや長く,術後期間は短くなっていた。これは,本研究施設は急性期医療を担う特定機能病院であり,地域の医療施設と連携し,在院日数の短縮に積極的に取り組んでいることが影響したと考えられる。以上の結果から,本研究の対象者は肺切除患者の入院前から退院後における健康関連QOLおよび不安・抑うつ状態を検討するうえで,おおむね妥当な集団であったと考えられる。2.肺切除患者の不安・抑うつ状態本研究対象者において,入院前から退院後にかけて約3割の患者が「不安疑い」または「不安あり」の状態にあった。悪性腫瘍の患者の約2~4割が不安をもち(千田・久保,2006),さらに,待機手術患者の約3割が不安状態にあるといわれている(小笠・當目・野口,2015)。本研究対象者である肺切除患者においても同様の傾向が認められた。不安得点については,入院日にもっとも高く,その後軽度低下傾向を示したが,時間による主効果は認められなかった。周術期患者の不安・抑うつ状態を入院日から退院日にかけて調査した齊藤ら(2007)は,不安は入院日が最も高く,退院にかけて有意に低下したと述べている。また,悪性疾患患者は良性疾患患者よりも入院時の不安が高く,外来で告知されたショックを解決できず不安の気持ちのまま入院してくると考察している。本研究では肺がんであることが告知され,治療方針が決定した入院前よりも,入院日の不安得点が高かった。これは,入院期間の短縮により入院してから手術までの期間が短いため,肺切除患者はがんであることに対する不安だけでなく,【麻酔や手術への脅威】や【術後の身体的苦痛】といった手術に対する心配事(小笠・當目・竹下,2013)も相重なり,入院日の不安得点がもっとも高くなったと考えられる。また,再発のないがん患者の65%が再発の不安を感じているといわれている(笹子,1992)。本研究対象者の肺切除患者においても,手術終了後も肺がんの再発や継続治療の不安を抱えており,入院前や入院日に比べ退院時や退院後の不安得点が有意に低下しなかったと考えられる。さらに,肺切除患者においては,無事手術が終了したとしても,創部痛や肋間神経痛,労作時の呼吸困難感などといった身体症状を抱えている。術後肺がん患者の慢性症状の治療により,STAIの状態不安,特性不安ともに有意に低下したという報告があり(齋藤・丹羽・細木他,2012),肺切除後の身体症状が本研究対象者の不安状態からの回復の遅れに影響を与えていると推測される。13