ブックタイトル同志社看護 第4巻2019年

ページ
11/64

このページは 同志社看護 第4巻2019年 の電子ブックに掲載されている11ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

同志社看護 第4巻2019年

大学院看護学研究科看護学専攻(修士課程)の開設野である。学部での助産師教育ではなく,大学院において高度な実践力のある助産師を養成するバックグラウンドについては,まず,同志社には,かつて京都看病婦学校の運営を引き継いだ産科医佐伯理一郎が長く産婆教育を実践し,多くの優れた産婆を輩出した足跡があり,その志を今再び受けつぎ,発展させたいと考えたことがあげられる。それ以上に,日本における高度な実践力のある助産師への社会的要請があった。近年の少子化はじめ周産期医療・生殖科学・母子保健等を取り巻く厳しい現状から助産師の高度な実践力が求められていること。また,女性の生涯をとおしての健康支援の取組みや適切な支援体制の構築,国際的にも母子健康支援や女性自らがエンパワーメントをする支援活動の中での助産師への期待が大きいことなどがあげられ,これらにしっかりと対応できる豊かな人間性と実践能力に優れ,国際感覚豊かな助産師の育成のためには,修士課程において,より広い,より深い助産学の学修が必要であると考えたからである。助産学実践分野における科目は,保健師助産師看護師学校養成所指定規則に定める「基盤科目」と助産の応用・発展に必要な高度で創造的な実践力を修得できる「発展科目」を配置した。前者は,指定規則に定める「基礎助産学」,「助産診断・技術学」,「地域母子保健」,「助産管理」,「助産学実習」の教育内容に関する科目を含んでいる。後者は,赤ちゃん学特論,国際母子保健論,統合ヘルスケア論,遺伝カウンセリング論,リプロダクティブヘルス演習,高次助産診断技術学演習など,専門的技能の習得やハイリスク妊産婦の診断やケア,またライフサイクルに応じた女性への健康支援など,より幅広く高度な助産能力を修得できる科目を配置した。中でも,赤ちゃん学特論は,先端的教育研究拠点である同志社大学赤ちゃん学研究センターで取り組んでいる,「赤ちゃん」を総合的にとらえた学問の最先端の研究知見を学ぶ科目である。また,助産学実習については,指定規則に定める11単位(495時間)に,高度な助産実践力を修得するための実習4単位(180時間)を加えた計15単位(675時間)として,しっかりと助産実践力を身につけられるようにした。また,実習施設は,地域および近隣の第一次~三次の産科医療機関で行い,多様な助産活動の場や対象の健康レベルに応じた助産実践を学ぶことができるようにした。実習開始前には事前演習として,シミュレーション学習や助産OSCE,各種技術習得度チェックを行い,助産ケアに必要な基礎的知識・技術・態度の総合的な修得を図ると共に,各学生の課題を明らかにして,自己学習を支援していく。現在の周産期医療の課題として,医療供給側では,施設数やマンパワーの不足,地域間格差が指摘されている。一方,需要側では,出生数は少子化が進む一方で,晩婚化や生殖補助技術の進歩により,高齢出産や低出生体重児などのハイリスクな出産は増加しており,高度な周産期医療を必要とするケースが増加している。そのためハイリスク妊産婦や不妊がクローズアップされているが,すべての妊娠・出産には母子の命が大きくかかわっている。妊産婦と新生児の命に寄り添い,女性の産む力や赤ちゃんの生まれる力,母子の生きる力を引き出すことのできる,生命の意味を追求し,自然性を尊重できる感性と知性の統合された専門職の育成に努める。6.おわりに筆者の若い頃は,看護系大学院は国内には皆無であった。看護職者が大学院へ進学する場合は,国内の隣接分野,例えば心理学や社会福祉学,社会学などの大学院,あるいは海外の看護系大学院へ進む道があるのみであった。しかし昨今の看護学の高等教育化の進展と共に,看護系大学院はにわかに急増し,今ではそれぞれ特色のある教育研究がすすめられている。看護系大学・学部では大学院を設置し,そこでの教育研究が当たり前の時代になりつつあるといっても過言ではない。この流れの中で,本学看護学部においては,創始者新島襄の看護職育成の深い志や当時の先進的な看護教育の原点を忘れることなく,総合的なヒューマンケアに基づく看護実践力のある看護専門職の育成をめざして,総力を挙げてやっとここまでたどり着き,今年初めて卒業生を送り出すことができた。そして,卒業生のキャリアアップの一つの選択肢として,看護学研究科の門を開くことができたことは,5