ブックタイトル同志社看護 第3巻

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概要

同志社看護 第3巻

動作を伴う視線計測に関する文献的考察によって測定精度が悪化する場合があるため(下田,2005,p.64),動作毎にキャリブレーションによって注視点の誤差を調整し,測定精度を高めることが重要であると考える。今回選定された文献では,1~2m離れた距離でキャリブレーションを実施していた。この距離は,注視される対象物との距離に応じて設定されており,実際の測定においても注視されうる対象物との距離を考慮した環境でキャリブレーションを行うことが重要であると示唆された。3)視野カメラレンズ視線計測機器のヘッドユニットに装着されている視野カメラレンズには,水平角44°,62°,92°,115°,121°のレンズがあり,視線計測を行う環境によって,レンズを選択する必要がある。視野カメラレンズには,水平角92°のレンズが最も多く用いられていた。一般的には,広角であるほど広い範囲の視線を測定でき,視野カメラの映像から注視点が逸脱することを予防できる。しかし,広角なレンズほど視野映像の端に歪みが生じ,注視箇所を判断しづらくなる可能性が考えられる。一方で,狭角レンズでは視野映像の歪みは生じず,広角レンズよりも映像が拡大されるという利点がある。しかし,人間の視野は水平角約200°といわれており(増田,1990),62°のレンズでは3分の1程度の視野となり,注視点が視野映像内から逸脱することが考えられる。井原(2014,p.44)は,視野の中心を正確に計測する場合には狭角レンズを使用し,視野の広い範囲に視線が散らばる場合には広角レンズを選択すると述べている。これらのことから,移動動作を伴い視線が広範囲に及ぶ計測では92°のレンズを使用し,モニタ画面や手元等固定された範囲における動作中の計測では64°のレンズを使用することが妥当であると考えられた。4)注視の定義注視は0.10~0.20秒で定義されていた。これらの結果から,注視に関する定義は統一されていないものの,研究内で注視をどのように定義するかについて明確に示すことが重要であり,動作を伴う視線計測においては0.10~0.20秒の視線停留を注視とすることが妥当であると示唆された。3.対象者数と統計処理方法および視線計測データの分析指標の妥当性5名以下を対象とした文献は,運転手や新人看護師等の視線パターンを把握することを目的としており,統計的検定は行われていなかった。このことから,対象者5名程度の視線計測によって,対象者の視線パターンから認知プロセスを推定することが可能となると考えられる。一方で,11名以上を対象とした文献は,若齢者と比較した高齢者の視線の特徴を統計学的検定から明らかにしたものが含まれていた。新人看護師と比較した熟練看護師の技を可視化するためには,10名程度を対象として,群間の注視時間,注視回数等を比較する必要があると示唆された。また,31名以上を対象とした文献は,視線計測により得られた結果から介入による効果を分析していた。新人教育プログラム等の教育的介入の効果を評価するためには,30名程度の対象者が必要であると示唆された。分析に用いられる指標としては,「注視時間」や「注視回数」が多く用いられていた。注視時間や注視回数を算出し,どこを見ながら動作をしているかを可視化することによって,行動時の認知プロセスを推定することが可能になると考える。そのため,動作を伴う視線計測において,注視時間や注視回数を分析指標として有用である。また,「注視時間割合」や「注視回数割合」は,実験の所要時間が異なる被験者を比較するために用いられていた。実験時間が長くなるほど,総注視時間は長くなり,総注視回数は増加すると考えられるため,実験の所要時間が異なる被験者間の比較においては注視時間割合や注視回数割合を用いることが妥当であると示唆された。また,群間における視線のパターンの比較には,「注視項目変化表」や「視線軌跡」が用いられていた。視線項目変化表や視線軌跡からは,どのような順序で何を見ていたかを読み取ることができ,行動と組み合わせることによって,どのように情報を得て行動に移したかを明らかにすることができる。これらのことから「注視項目変化表」や「視線軌跡」は,動作中の認知プロセスを推定するために有用であると考えられた。4.併用調査大野(2002,pp.570-571)は,視線計測に他の調査を組み合わせることで情報取得から作業に至る一連の認知処理を分析することが可能となると報告している。今回選定された文献では,質問紙調査,ビデオカメラ,インタビュー調査が併用されていた。質問紙調査は,被験者の属性および介入による認知の変化を把握するために用いられており,属性別の視線パターンの違いを分析することが可能となる。また,介入による認知の変化を明らかにするためにも用いられ,介入27