ブックタイトル同志社看護 第2巻

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概要

同志社看護 第2巻

画を図ることは,地域貢献に繋がる効果も期待される。本稿では,本学看護学部における地域住民SPの養成とOSCEへの参画支援に関する開設初年度の活動を振り返り,SP養成の方法と今後の課題について報告する。ⅡOSCEとSPの概要1 OSCE(客観的臨床能力試験)とはOSCEは,臨床に近い環境での実技試験のことで,判断力・技術・マナーなど実践現場で必要とされる基本的な臨床技術の習得を適正に評価する方法として開発された。1975年に英国のGlasgowDundee大学の初代教授H.Hardenらが提唱し,その後,ヨーロッパから北米へと拡大・普及していったとされている。我が国においては,1994年,川崎医科大学で医学教育に導入され,2005年には医歯薬系で臨床実習開始前の「共用試験」に正式採用された。一方,看護学教育では2001年頃から大学等で導入されるようになったが,全体的な広がりには至っていない状況にある(中村,2011,p.5)。2011年に実施された堀込らの調査によると,全国看護系大学におけるOSCE導入率は13%で,「導入を準備中」の大学を加えても17%という結果であった(堀込・及川・小西,2015,p.47)。現在,看護学教育では,OSCEの義務付けはなく,先述した看護実践能力の強化に向けての取り組みとしてOSCEが導入されるようになってきている。中村(2011,p.3)は,医歯薬系のOSCEが「試験」であるのに対し,看護学教育におけるOSCEは,看護実践能力を「育てるOSCE」と位置づけている。2 SP(模擬患者)とはSPとは,「患者の持つあらゆる特徴(単に病歴や身体所見にとどまらず,病人特有の態度や心理的・感情的側面にいたるまで)を,物理的に可能なかぎりをつくして完全に模倣するよう特訓を受けた健康人」と定義されている(植村,1998,p.218)。演習などの学習に参加する模擬患者(SimulatedPatient)と,OSCEなどの試験や評価に参加する模擬患者(Standardized Patient)の2種類の使われ方がある(鹿島,2014,p.20)。SPは1968年に米国の神経内科医,Howard Barrows(1928-2011)が医学生対象の教育に用いたのが始まりとされている。日本では1980年代後半から,SPの活用が進むようになり,NPO法人でSP養成・派遣を実施している団体や,看護分野でも大学独自で養成したSPをシミュレーション演習や講義,OSCE等において活用している報告(中村,2001;加悦・安陪・藤野,2008;山本・伊藤・冨澤,2015;井上・山田・南雲,2012)がみられる。SPの導入は再現可能かつリアリティのある学習状況を創り出すため,患者に関わる以前の,段階的かつ実践的学習を促進する教育方法として期待されている(本田・植村,2009,p.67)。一方,SPとなる地域住民にとっても意義ある活動といえる。中村(2011,p.28-31)はOSCE場面におけるSP体験の意義として,1患者として看護援助を受ける体験,2看護教育の方法や内容を知る経験,3自らの存在で学生の反応を引き出す体験,の3つを挙げている。また小澤・中村・後藤他(2011)は,高齢模擬患者の養成は,学生の教育への貢献だけではなく,大学の地域への貢献,高齢者のProductive Activityに関与する面もあると指摘する。SPへのフォーカスグループインタビュー調査から,「生きがい」につながる役割意識が芽生えているとの報告もある(鹿島・吉村・吉本他,2014)。このように,地域住民がSPとして看護学教育に参画する取り組みを実施することは,学生への効果はもとより,地域貢献としての意義をも併せ持つ活動と位置づけることができる。3本学看護学部におけるOSCEの位置づけ本学看護学部におけるOSCEは,中村(2011)に倣い,看護実践能力を育てるOSCEとして「看護OSCE」と名付け,学生が自己の課題を明らかにし自己学習につなげることを目的とした。前述のよう38